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平凡サラリーマンの絶対帰還行動録  作者: JIRO
第8章【ドラーク編】
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日々読んで下さりありがとうございます。

感想やFA、ブクマ、評価、レビュー、本当に励みになっております!第8章スタートです。


 

『本当にお世話になりました』


 門まで見送りに来てくれたカードルさんや、騎士団の人達に精一杯感謝の気持ちを伝えながら、お礼として書き写したレシピを手渡す。

 因みに魔石等も差し出したのだが、カードルさんは頑として受け取ってくれなかった。


『こんなに沢山……大変だっただろう? すまないな、礼を言う』


『礼を言うのはこちらの方ですよ! 本当に色々とありがとうございました』


 俺がもう一度頭を下げると、カードルさんは優しい笑みを浮かべながら俺の背中を叩く。


『ドラークから戻ったらまた顔を出してくれ』


『はいっ!』


 いつも街を出る時は夜逃げ同然にバタバタしていた。こんなに平和に1つの街を出るのは初めてな気がする。各種手続きをしてエクウスを引き渡して貰い、門の前に立つ。


『気をつけるんだぞ!』


 カードルさんの声に続き、騎士団の人達の野太い声が続く。


『またなー!』

『気をつけろよー!』

『また美味い飯作ってくれー!』

『ファーレス、ボケっとしてんなよー!』

『頑張れよー!』


 皆大きく手を振り、賑やかに送り出してくれる。

 俺も大きく手を振り、笑顔で叫ぶ。



『はい、行ってきます!』



 ……



『ああやって沢山の人々に笑顔で送り出されるというのはいいものですねぇ……だって〜』


 馬車の中、セイがソティルさんのものと思われる言葉を伝えてくれる。俺もセイを通し、ソティルさんの言葉に返事をする。


『そうですね……っと。セイ、出来れば誰の言葉かも伝えてくれ』


『は〜い』


 何故こんなセイを通した面倒くさい会話をしているかと言うと……俺やフィーユ、ファーレスの乗っている馬車と、ソティルさんとレンディスさんが乗っている馬車が別だからだ。


 遡ること数日前。

 馬車で旅をすると話した時、レンディスさんはそりゃあもう難色を示した。まぁそれはそうだろう。愛しのソティルさんが、馬車という狭い空間内で他の男共と一緒になるのだ。


『先生と俺は別の馬車で行く』


 レンディスさんは当然の如くそう言うと、即座に最高級の新しい馬車を用意した。

 そのため俺達はこれまで通りペールがくれた馬車で、ソティルさんとレンディスさんは新しい馬車での旅立ちとなった。


『ソティルがそろそろ止まってだって〜』


 少し馬車を走らせたところで、セイからそんな声が上がる。

 ロワイヨムから少し離れたら、ドラークへの行き方を教えてくれるという話だったので、多分その話だろう。


『了解ですって伝えてくれ』


 俺はセイにそう伝えながら、内心ワクワクしていた。

 この世界に来て結構な日数旅をして来たが、ずっと陸路を行くばかりだった。この世界では断崖絶壁や海をどうやって越えるのだろうか?


 ―― やっぱ船かな? もしや飛行船……? まさか空飛ぶ魔物とか?


 ソティルさんの指示通り馬車を止め、皆で外に出る。ソティルさん達も先に外に出て待っていた。


『さて、じゃあドラークへの行き方を説明しますね。と言っても、まぁ単純な方法なんですが』


 ソティルさんはそう言いながら、スッと空中を歩き出す。


 ―― そう、何もない宙を、歩き出したのだ。


『へ……?!』


 浮いている、と言うよりも、空中を歩いている。

 ソティルさんは一歩、また一歩、何もない空間を優雅に歩いていく。


『え!? え!?』


 俺は驚くことしか出来ず、ただただ呆然と空中を歩くソティルさんを凝視する。

 慌てて周囲の反応を窺えば、俺以外のメンバーも全員驚きに目を見開いていた。

 どうやらこの移動方法は、この世界でポピュラーな移動法という訳ではないようだ。


『……と、まぁこんな風に、事前に踏み出す先の魔素を実体化し、足場にして進んで行くわけです。簡単でしょう?』


 ソティルさんは何でもないことのように、『これならどんな場所でも歩いて行けますし、崖や海も関係ありません』と笑う。

 更に、『前にドラークに行ったときは私一人だったので、魔法で肉体を強化して走って行きましたが……今回は馬車で移動なので、少し時間がかかるかもしれませんね』と付け加える。

 馬車よりも肉体強化したソティルさんの方が、移動速度がずっと早いようだ。恐ろしい……。


『私達が道を作りながら進み、トワ達が後ろから追いかけてくるのが良いと思うのですが……どうでしょう?』


『は……はい……』


 何というかもう、現実離れした光景に頷くことしか出来ない。

 俺達はこれから道なき道を行くらしい。


『では出発しましょう……か……? お……ゃ……? 何だか……体に……力が……入らな……ぃ……?』


 突然、優雅に宙を歩いていたソティルさんの身体がぐらりと揺れる。


『せ、先生っ!?』

『賢者様っ!?』


 レンディスさんと俺の叫び声が重なる。

 その直後、ソティルさんは真っ逆さまに空から落下し、2メートル程の高さから地面に叩きつけられた。


『せ……先生っ!!!』


 レンディスさんが悲鳴のような声を上げ、ソティルさんに駆け寄る。


『大丈夫ですか、先生……!』


 何とか受け身を取ったソティルさんを抱き起し、レンディスさんが泣きそうな表情で問いかける。


『すみ……ません……魔力の調節に失敗しました……』


 ソティルさんは青白い顔でぐったりとしつつ、息も絶え絶えにそう答える。


『……自分の魔力が減ったこと……忘れてました……』


 俺はその言葉に、馬車から魔力回復薬を取り出すと、慌ててソティルさんに手渡す。魔力回復薬をゴクゴク飲みながら、ソティルさんがぼんやりとした表情で言う。


『……魔力が枯渇する感覚……久々に味わいました……』


『ご……ごめんなさい……』


 その瞬間、レンディスさんが気まずげに謝罪したのは言うまでもなかった。


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