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平凡サラリーマンの絶対帰還行動録  作者: JIRO
第7章【女神編】
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【番外編】ひまつぶし(SIDE:フィーユ)

日々読んで下さりありがとうございます。

永久がデエスの森を探索していた時、森の入り口で待っていたフィーユ視点のお話になります。

 

『もちー? どこー?』


 私はキョロキョロと辺りを見回しながら、もちの姿を探す。


『やっぱりいない……』


 前回トワがひとりで森に入った時、もちもこっそり付いていってしまった。今回も勝手について行ってしまったのかもしれない。


 トワがひとりで入って行ったデエスの森は、魔力を持つ人間が近付き過ぎると封印が発動してしまうらしい。そのため私達は、少し離れたところでトワの帰りを待っている。森に近づき過ぎないように気を付けながらもう一度辺りをぐるりと一周するが、やはりもちの姿は見えない。


『もちだけずーるーいー……!』


 私はぷぅっと頬を膨らませ、トワともちがいるであろう森の方を睨む。


 ―― ずるい、ずるい、ずるい!


 私だってトワに付いて行きたかった。


『トワ、早く帰って来ないかなー……』


 トワの側にいたいのは勿論だが、何より残されたメンバー構成が気まずい。すっごく気まずい。

 ファーレス、カードルさん、ザソンさん、レタリィさん……皆いい人だけど、トワのように話しやすいかと言うと……ちょっと、いやかなり、話しにくい。


 ファーレスは話しかけやすいが、基本的に相槌しか打ってくれないので話していてつまらない。あと無表情だから何をしてても淡々としていて、何を考えているのか分からない。


 トワは『ファーレスの表情が読めるようになってきた! ……気がする!』なんて言ってたけど、私には全部同じ表情に見える。


『本当にトワは見分けがついてるのかなー……?』


 トワの発言を疑いつつ、ファーレスの様子を眺める。無表情で木に寄りかかったまま微動だにしない。見ていて全く面白くない。


『つーまーんーなーいー……』


 小声で不満を言いつつ、ファーレスの観察をやめ、他の人達の様子を眺める。

 カードルさんは何枚もの木の板と睨めっこしながら、何やら文字を書いている。


 チラッと後ろから覗き込んでみたら、難しい用語が沢山書いてあって、よく分からない内容だった。どうやら空き時間を利用して、騎士団の書類仕事をやっているようだ。

 たまに気遣うようにこちらに話しかけてくれるが、やっぱり気軽に話すのは難しい。何となく緊張してしまう。今は仕事に集中しているようだし、あまり近付かない方がいいだろう。


 残るはザソンさんとレタリィさんだ。


 ザソンさんは……お調子者というか面白い人なんだけど……怖い。

 何だか凄く怖い。


 ナーエにいた頃に会った、貴族の人達みたい。

 実際貴族の人だし、寧ろ貴族っぽくない口調や態度なんだけど、何ていうか……嘘っぽい。上辺だけで、心の中を見せてくれない感じがする。


 レタリィさんは最初冷たい人かと思ったが、話してみると優しい人だった。

 美人で綺麗でどこか儚さを感じさせる、ミステリアスな人。大人っぽい雰囲気で、カードルさん達とはまた違う意味でちょっと緊張してしまう。


 ―― あとトワが鼻の下を伸ばしてデレデレしてた!


 トワもやっぱり綺麗な女性が好きみたい。

 私じゃ色気が足りないのかなぁ?


 トワが他の人を見てるとモヤモヤする。

 私だけを見て欲しい。

 他の人によそ見しないで、私だけを。


『トワのばかー……』


 でも当のトワはと言えば、ひとりで森に行ってしまうし、ロワイヨムにいる時もバタバタと出掛けてばかりだし、旅をしていた時のように頻繁には構ってくれない。


『……ずっと一緒、だもんね?』


 ぽつりと、自分に言い聞かせるように呟く。


 ずっと一緒。

 約束の言葉。


『ユビキリ、したもんね……?』


 トワの世界の、約束の儀式。

 皆で小指を繋ぎ、唱えた呪文。


 トワが私の名前を呼んで、頭を撫でてくれる度に安心する。

 私はまだトワにとって必要なんだって。


『ずっと一緒……』


 ひとりでいると何だか嫌な気持ちになって、私は慌ててファーレスの方へ駆け寄る。


『ファーレス、もち見た?』


『……いや』


 ファーレスとの会話には少しコツがいる。

 基本的に『……あぁ』か『……いや』で答えられる質問を投げかけないと、全て『……さぁな』と流されてしまう。今回はちゃんと『……いや』と答えてくれたので、本当にもちを見ていないのだろう。


『もち、どこ行っちゃったんだろうね?』


『……さぁな』


『トワに付いてっちゃったのかな?』


『……さぁな』


『……トワ、いつ戻って来るかなー?』


『……さぁな』


 予想はしていたけれど、全く話が弾まない。

 はあぁ……と溜息を吐き、ポケットからリボンを取り出す。


 最近私はファーレスと遊んでもつまらないということが身に染みて分かったので、ファーレス ”で” 遊ぶことにしている。


『髪の毛いじってもいーい?』


『…………あぁ』


 少しファーレスの返答に躊躇いがあった気がするが、気にしないことにする。


『えへへー……どんな髪形にしようかなー!』


 この遊びは、元々トワが私の髪を結んでくれたのが発端だ。

 料理のお手伝いをする時、私の髪が長くて危ないということで、トワが器用に編み込んでくれた。


 初めて見る『ミツアミ』と言う髪型は、それはもう可愛くて可愛くて、私のお気に入りになった。トワにねだってよく編み込んでもらっていたのだが、トワが忙しそうな時は頼むのが申し訳ない。


 自分で出来るようになろうと練習してみたけれど、いまいち上手く出来ているのか分からなかった。そこでサラサラの長い髪を持つファーレスを練習台にすることにしたのだ。


『こっちを編み込んで―……ここで結んで―……ここをお団子にしたら可愛いかも!』


 リボンや紐、細い木の枝等を駆使して、ファーレスの頭を豪華に飾っていく。



 ……



『完成ー!』



 我ながら素晴らしい出来だ。

 ファーレスの淡々とした表情とは裏腹に、頭上は非常に陽気な雰囲気である。


 左右に飛び出た2つのお団子が獣の耳のようにファーレスの頭を飾り、リボンのついた三つ編みが尻尾のように垂れている。


『ふっ……ふふっ……! ファーレス、すっごくかわいいよ……!』


 ファーレスの表情とのミスマッチに、私は笑いを堪えきれず、少し吹き出しながら褒め称える。


『……あぁ』


 いつも通りのファーレスの返答も、この髪型のままだと何だか凄く可笑しい。

 私が吹き出しながらファーレスの頭をいじっていると、後ろから声を掛けられる。


『ファーレス、フィーユ、そろそろ夕飯の用意をしようと思うのだが――』


 そう言いながら近づいて来たカードルさんは、ファーレスの姿を見て口を開けたまま止まってしまう。

 数分フリーズした後、カードルさんは躊躇いながらぎこちなく言葉を吐き出す。


『ファ、ファーレス……その、なんだ……ほどほどに、な……?』


『……あぁ』


 戸惑いを隠しきれないカードルさんの様子が本当におかしくて、私は必死に笑いを堪える。


『トワが帰ってくるまでその髪型でいよっか?』


『……いや』


 私の問いかけに、ファーレスがすかさず否定の言葉を吐くと、リボンや小枝を強引に引き抜いてしまう。


『あー! 折角頑張って編み込んだのにー!』


 私の叫びも空しく、ファーレスの髪はサラリと元のストレートに戻ってしまう。

 先程までの可愛い髪形は跡形もなくなってしまった。


『あーあ……勿体なーい……』


『……いや』


 勿体なくないと言うように、ファーレスが小さく首を振りながら否定する。


『トワにも見せたかったのにー』


『……いや』


 私は小さく溜息を吐きながら、何度目か分からない呟きを吐く。



『トワ、早く帰って来ないかなー……』



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