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平凡サラリーマンの絶対帰還行動録  作者: JIRO
第7章【女神編】
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日々読んで下さりありがとうございます。感想やFA、レビュー、ブクマ、評価、本当に励みになっております!


 俺はふかふかのベッドに体を投げ出し、ぐったりと横たわる。森を歩き回ったこともあり、肉体的にも精神的にも疲労困憊だ。


『トワ、お疲れ様!』


 フィーユがそっと飲み物を差し出してくれる。本当にいい子だ。


『ありがとう。今日はさっさと休もう……』


 俺の言葉に、野営でゆっくり寝られなかったであろうフィーユとファーレスも深く頷く。


『じゃあおやすみー……』


 寝るには少し早いが、今日はもういいだろう。

 俺は目を瞑り、優しく体を包んでくれる布団に身を委ねる。


 しかし布団にくるまり微睡みかけた瞬間、部屋の扉が凄い音を立てて開き、騒がしい声が頭上から聞こえてくる。



『あっはぁ~? 君達、大事な存在に報告を忘れてないかぁ~い?!』



 顔を見なくても分かる。ザソンさんだ。

 確かにザソンさんには、色々と報告しなくてはいけないことが沢山あった。カードルさんに報告したとはいえ、ザソンさんにも報告すべきだろう。


『……報告が遅れてすみません』


 俺はのそのそとベッドから起き出し、部屋に備え付けられているテーブルセットの椅子に腰掛け直す。起き抜けにザソンさんのこのテンションはキツイ。


『お疲れのところ申し訳ありません……』


 ザソンさんの後ろに立っていたレタリィさんが頭を下げつつ、心配そうにこちらの様子を伺う。『大丈夫ですよ』と返しながら、レタリィさんの病気の具合も聞かないとな……と考える。

 もし300日待つのが厳しいようでも、圧倒的な魔力を持つレンディスさんの協力があれば延命が可能だろう。


 ―― レタリィさんは多分大丈夫だよな……


 レンディスさんの協力は、ソティルさんがいれば得られたも同然だ。そしてソティルさんは、病気の人を見殺しにするような人物ではない。


 問題は俺の母だ。一体どれだけ時間が残っていて、現代の医療技術でどこまで引き延ばすことが出来るのか……分かっていない部分が多すぎる。だがあの人はそう簡単にくたばる様な人じゃない。


 ―― そうだよな? 母さん……


 そんなことを考えていると、ファーレスも起き上がってぼんやりとベッドに腰掛ける。無表情なのだが、何というか凄く眠そうな雰囲気が伝わって来る。

 フィーユは布団にくるまったままもそもそとベッドの上を移動し、布団を被ったまま話を聞く体勢になっていた。時々こっくりこっくりと船を漕いでいるため、まだ完全に目が覚めていないのだろう。


『で……? トワにお願いしていた件を含め、どうなったのかみっちりきっちり報告を頼むよぉ〜?』


 ザソンさんがギラギラと目を輝かせながら迫って来る。俺はカードルさんに説明した時と同様に、森のこと、封印のこと、ソティルさん達について、そして精水について語る。


『……300日、か』


 精水の完成までにかかる時間を聞くと、ザソンさんは真剣な表情でそう呟いたあと少し黙り込む。恐らく脳内でレタリィさんの余命を算出しているのだろう。


『……かなりギリギリだな』


 ザソンさんはぽつりとそう呟くと、レタリィさんの方を向く。


『レタリィ……。少しでもリスクを減らすために、当分の間またあの部屋に籠もって貰うことになるけど……いいかい?』


 ザソンさんが小声でレタリィさんに問いかけているのが聞こえる。

 恐らく体のことを考え、再び魔法で作った無菌室のような部屋にいてもらう事を選んだのだろう。


『構いません。私のせいで……ごめんなさい』


 レタリィさんは少し俯き、消え入りそうな声で謝罪する。


『あっはぁ〜? 君が謝るのはおかしいだろぉ~?』


 ザソンさんはふざけた口調でひどく優しく笑う。

 レタリィさんもザソンさんの思いを受け取ったのか、小さく『……そうだね』と頷き、笑みを浮かべる。


 ――  その笑顔は、これまで見たレタリィさんの表情で一番柔らかなものだった。


『あっはぁ〜! それにしてもトワ、よくやってくれたねぇ〜! 想像以上の働きさ〜!』


 ザソンさんは空気を変えるように賑やかな声を上げ、俺の方を振り返る。


『精水が効くかどうか試す必要があるとはいえ……良かったです』


『あっはぁ〜! 効くさ〜!』


 ザソンさんがビシッと指を立て『私の勘がそう言っているからねぇ〜!』と決め顔で言う。


『そうですね』


 根拠のない決めつけだが、ここまで断言されると気持ちいい。


 ――  そうだ、きっと効く。

 ――  レタリィさんにも、母さんにも。


 俺の勘もそう言っている。


『あっはぁ〜! トワには何かお礼をしなくちゃいけないねぇ〜! 何か希望はあるかぁ〜い?』


 大体なんでも叶えて上げるよと、太っ腹のようなそうじゃないような言葉を告げられる。


『んー……まぁ、考えときます』


 俺は苦笑しながらそう答える。

 ザソンさんは『あっはぁ~! 了解~! じゃあ聞きたいことも聞けたし、私達はお暇するよ~!』と言うと、レタリィさんを連れてさっさと部屋を出ていってしまう。本当に嵐のような人だ。


『考えるって言ってもな……』


 正直俺はたまたま森に入ることが出来たというだけで何もしていないに等しいし、お礼を貰っていいような立場じゃない気がする。

 お礼を貰うなら、ソティルさんかレンディスさんが相応しいだろう。

 今度2人に欲しい物でも聞いてみようかなー……と考えたところで、難易度が高そうだなと思いなおす。


 レンディスさんは多分ソティルさん関連の物以外、興味を示さないだろう。

 ソティルさんは……珍しいものや研究対象になりそうなものに興味を示すことが多いが……


 異世界から来た俺。

 未知の生物もち。

 精霊のセイ。

 最高位の魔力を持つフィーユ。


 これらを超えるものが、そう簡単に用意できるとは思えない。


 ―― そう考えるとうちのパーティー……本当濃い集まりになって来たな……


 もちを撫でながら、旅の仲間が欲しいと呟いたのはいつ頃のことだっただろうか?


『ザソンさん……凄い勢いで現れて、凄い勢いで去って行ったね……』


 フィーユが呆れたような声で呟く。


『……あぁ』


 ファーレスも無表情のまま頷く。もしかしたらファーレスも呆れているのかもしれない。


『……寝なおそっか! 私なんだか疲れちゃった!』


『そうだな』


『……あぁ』


『きゅ!』


 フィーユの言葉に、俺とファーレスも同意する。

 皆と一緒になって布団にくるまっていたもちも、同意するように鳴き声を上げる。



『じゃあ……おやすみなさい』


『うん、おやすみ』


『……あぁ』


『きゅー!』



 異世界生活567日目、俺達は久々に全員揃って穏やかな夢の世界へ旅立った。


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