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平凡サラリーマンの絶対帰還行動録  作者: JIRO
第7章【女神編】
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日々読んで下さりありがとうございます。感想やFA、レビュー、ブクマ、評価、本当に励みになっております!

 

『さて……貴殿方がトワの知り合いであるということは分かりましたが、色々と詳しい話を聞かせて貰っても構いませんか?』


 騎士団の警戒は解かれぬまま、カードルさんがソティルさん達と対峙する。ソティルさんは『勿論です』とにこやかに頷き、レンディスさんは小さく舌打ちで返事をする。



『ではこちらにお願いします』



 ……



 カードルさんが案内したのは、騎士団屯所の地下にある部屋だった。

 分厚い扉を開き入ったその部屋は、窓がなく壁も岩肌のようなものが剥き出しで、非常に簡素で無骨な印象を受けた。置いてある机や椅子も上の階の豪華な物と違い、粗末な物だ。

 俺は部屋の中を眺めながら、ふとこの地下室に既視感を感じる。


 ―― こんな部屋を……どこかで見たような……?


 記憶を探っていると、1つの場所がヒットする。

 フィーユが捕らえられていた、ナーエの牢屋だ。


 ―― あぁ、そうか……あの部屋に似てるんだ。


 嫌な記憶がフラッシュバックするのか、フィーユは俺にぎゅっとしがみついたまま離れない。『大丈夫だよ』と伝えるつもりで、フィーユの頭をそっと撫でる。


『こんな部屋で申し訳ない。魔力が強すぎる故の措置だとご理解下さい』


『構いませんよ』


 カードルさんの謝罪に対し、ソティルさんは特に気分を害した様子もなく穏やかに言う。横でレンディスさんが舌打ちを続けているが、これは多分部屋が云々ではなく、ソティルさんが他の人と話しているからだろう。


『レンディス、先程から態度が悪いですよ』


 ソティルさんに注意され、レンディスさんは渋々舌打ちを止めてカードルさんと向き合う。

 カードルさんは少し苦笑を浮かべながらソティルさんとレンディスさんを見た後、2人に向かって自己紹介を始める。


『改めまして……私はヨム・ディレクシオン・カードルと申します。ここ、ロワイヨムの王国騎士団団長を務めております』


『私はヨム・サルヴァトーレ・ソティルです。こちらはレンディス。まぁ、私の弟子のようなものです』


 カードルさんの挨拶を受け、ソティルさんもにこやかに自己紹介をする。レンディスさんは『弟子』という言葉に少し複雑そうな顔をしつつ、特に口は挟まなかった。


『ヨム・サルヴァトーレ……?』


 カードルさんは確認するようにソティルさんの苗字だか家名を呟いたあと、鋭い目付きでソティルさん達を見つめながら問い掛ける。


『失礼ですが……そのお名前は本名でしょうか? 立場上、ロワイヨムの貴族には詳しいつもりですが、サルヴァトーレ家とは聞いたことがありません。それほど強い魔力をお持ちなら、ロワイヨムの記録にも残るかと思いますが……』


 カードルさんの問いに、ソティルさんは困ったような苦笑を浮かべる。


『本名……というのが具体的に何を示すのか難しいところですが……確かに私はロワイヨムの出身ではありません。レンディスは微妙なところですが……』


 ソティルさんはそこで言葉を区切り、衝撃の事実をサラリと口にする。


『そもそも私が生まれた頃は、国なんてものがなかったのですよ。群れというか集落というか……まぁ曖昧な感じでした』


 ソティルさんの言葉に、カードルさんが大きく目を見開く。そのまま混乱した表情で『まさか……いや、しかし……レンディス殿の魔力量ならあるいは……』とぶつぶつ呟く。


『色々と混乱させてしまいましたね? 少し事情があり、私の魔力の大半がレンディスに渡ったのです』


 ソティルさんは魔力量が少ない理由をざっくり説明したあと、長い時を生きてきたこと、その時の中で国が生まれていったこと、最近デエスの森に定住し、その際ロワイヨムの王から家名を授かったことを語ってくれる。


『……なる、ほど……それは失礼しました』


 カードルさんはソティルさんの説明に頷きつつ、困惑の表情を浮かべている。当のソティルさんはと言えばそんなガードルさんの様子を見て、『まぁ信じる信じないはお任せしますよ』とクスクス笑う。


『実際この身で感じるまでは信じられなかったでしょうが……ここまで圧倒的な魔力を見せられ、信じないという程愚かではないつもりですよ』


 カードルさんは少し天井を見上げた後、気を取り直した様に『質問を続けてよろしいですか?』と問い掛ける。ソティルさんが再び『勿論です』と頷いたため、デエスの森や封印のこと、魔法や魔力のことなど、様々な質問が投げかけられていく。俺も所々補足をしつつ、質疑応答は2時間程続いた。



 ……



『ご協力、ありがとうございました』


 長い長い質疑応答も終わり、カードルさんがソティルさんとレンディスさんの2人に頭を下げる。


『いえいえ』


 これだけ長い時間拘束されたにも関わらず、ソティルさんは相変わらず穏やかな笑みを浮かべている。因みにレンディスさんはイライラと舌打ちや貧乏ゆすりを繰り返し、何度もソティルさんに窘められていた。


 ―― まぁ、レンディスさんの気持ちも分からなくはない……


 久々に愛する先生に会えて、また2人っきりの生活が始まるかと思いきや、ソティルさんは旅に同行すると言う。渋々旅支度をして外に出れば、いきなり地下室に長時間拘束され、質問攻めだ。そりゃあイライラもするだろう。


 ―― 逆にソティルさんは何であんなに穏やかなんだ……?


 善意で旅に同行したのに、森を出たら騎士団に囲まれ、地下室で尋問だ。レンディスさん程じゃないにしても、少しくらい不機嫌になってもおかしくないと思うのだが……。


 俺は尊敬の眼差しでソティルさんを眺めつつ、緊張で凝り固まった肩をほぐす。質問されていたのはソティルさん達なのだが、ここまで連れて来た責任者として常時気を張っていた。


 話が終わったあとは、カードルさんが色々と裏で書類を作ってくれるそうだ。多分入国申請みたいなものがあるのだろう。毎回事務作業的なことはカードルさんにお任せなので、申し訳ない限りだ。


『部屋を用意させますので、そちらでお待ちください』


 カードルさんがそう言って客室に案内しようとしたところで、ふと気付いたように『トワ達と同じ部屋にした方がいいですか?』と問い掛ける。


 その言葉にレンディスさんがブチ切れた。


『あぁっ!? 先生がっ! こいつらとっ! 同じ部屋だぁっ!?』


 青筋を立てながら、レンディスさんが物凄い剣幕でカードルさんを怒鳴りつける。


 結局レンディスさんの強い希望により、ソティルさんとレンディスさんに1つの客室が割り当てられ、俺達の部屋はそのままになった。



 ……



『……まさか封印の中にあれ程の存在が隠されていたとはな……』


 ソティルさんとレンディスさんを客室に送ったあと、カードルさんがぽつりと呟く。


『す、すみません……封印の外に出て貰ったのはマズかったですか……?』


 ソティルさん達が森の外に……封印の外に出て来たのは主に俺のせいだ。ドラークまで案内してくれるという申し出に、深く考えず喜んで飛びついてしまったが、周囲への影響なども考えるべきだったかもしれない。


『いや……彼等は出ようと思えばいつでも出れたのだろう? あのような存在がいると知れて良かったさ』


 カードルさんはフォローするようにそう言った後、ソティルさん達のいる客室の方をじっと見つめ、ぽつりと何かを呟く。


『え? 何か言いました?』


 上手く聞き取れず聞き返してみたが、カードルさんは首を振ってフッと笑う。


『いや……何でもないさ。トワ、お前も疲れているだろう? 部屋に戻ってゆっくり休むといい』


『は、はい……ありがとうございます……』


 カードルさんは言い直してくれる様子がなさそうなので、俺は諦めて小さく頭を下げ、フィーユ達と共に部屋に戻る。



『はぁー……何かもう、すっげー疲れたぁー……』



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