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……
『おー……久々に森の外へ出ると、何だか空が広く感じますねぇ……』
何とかレンディスさんの旅支度も終え、俺達はデエスの森を後にした。ずっと封印内にいたソティルさんとレンディスさんにとっては、久々の外出だそうだ。
ソティルさんが感慨深そうに呟く。
森に比べると木々がない分、空が広く感じるのだろう。俺も森を抜けた時、同じ様に感じたものだ。
辺りを見渡すと、森の入り口から少し離れたところに、テントが設置されているのが見える。事前にセイの通信魔法を使い、街に戻ってていいと連絡したのだが、恐らく俺の帰りを待っててくれたのだろう。
『野営して待っててくれたみたいです。おーい!』
俺は大声で呼びかけながら、テントに向かって大きく手を振る。
『トワッ!?』
フィーユの叫ぶ声が聞こえた直後、テントから勢いよくフィーユが飛び出して来る。続いてファーレスものっそりとテントから顔を出す。
『2人共待っててくれたんだ……ありがとな』
『私達が待ちたかったから待ってただけだよ! おかえり、トワ!』
『……あぁ』
フィーユは俺に飛び付くと、甘えるようにぐりぐり頭を擦りつける。俺は『髪の毛ぐしゃぐしゃになっちゃうぞ?』と笑いながら、そっとフィーユの頭を撫でる。何だか凄く、心が落ち着いた。
ファーレスの方を見れば、少し距離を置いたところで腰の剣に手を触れている。
フィーユのように飛びついてくれるとは思っていなかったが、何故妙に距離を保っているのだろうか?
俺の疑問に答えるように、ソティルさんが柔らかな笑みを浮かべながら、ファーレスに語りかける。
『そんなに警戒しなくて大丈夫ですよ。私達はトワの味方です』
どうやらファーレスはいつでも剣を抜けるよう、構えていたらしい。
ファーレスは警戒を解かないまま、俺に確認するようチラリと目線だけこちらに向ける。
『あ、あぁ! セイの魔法で事前に話しただろ? 一緒に旅をするソティルさ……賢者様とレンディスさんだ』
俺はまたもソティルさんと呼びかけてしまい、慌てて言い直す。フィーユとファーレスにも、『あの人のことは賢者様と呼ぶように……』と小声で伝える。
『今日和、私はヨム・サルヴァトーレ・ソティルです。よろしくお願いします』
ソティルさんは穏やかな声でそう告げ、フィーユ達に向かって頭を下げる。ソティルさんに促され、レンディスさんもぼそりと名前だけ告げる。
『フィ、フィーユ。ナーエ・ファミーユ・フィーユです。よろしくお願いします』
フィーユは俺に抱きついたまま、ペコリと頭を下げる。
『フィーユは魔力が強いのですね? それに何だか不思議な魔力です……』
ソティルさんはそう言いながら、観察するようにじぃっとフィーユを見つめる。フィーユの魔力が強いので気になるのかもしれない。怯えるフィーユをそっと背に隠し『ま、まぁまぁ……』と二人の間に割って入る。
そんなやり取りをしている後ろで、レンディスさんがフィーユを睨みつけていた。あの人は相手が幼気な少女だろうが関係ないようだ。
『楽しい旅になりそうですね』
ソティルさんはそう言ってにっこりと笑顔を浮かべたが、俺は苦笑しか返せなかった。
……
取り敢えず、これから一緒に旅をするメンバーの顔合わせは終わった。
カードルさんやザソンさんについて問いかけると、『お仕事しながら待ってるって!』とフィーユがしっかり答えてくれる。本当に頼りになる子だ。
一方ファーレスはフィーユの言葉に『……あぁ』と頷いただけだ。フィーユがいなかったら、こいつは『……さぁな』で終わらせていたんじゃないかと疑ってしまう。
『じゃあまずは、ロワイヨムに向かおうか』
『おー!』
『……あぁ』
フィーユとファーレスが……いや、主にフィーユが、元気に頷いてくれる。
ソティルさん達も特に異論はないようで、『はい』と頷いてくれたので、皆でロワイヨムに向かって歩き出す。
……
ロワイヨムに到着すると、門の前に盛大な出迎えが待っていた。
『……あれって、騎士団の人達だよな……?』
『……あぁ』
俺は思わずファーレスに確認を取ってしまう。
顔見知りの団員を含め、数百人規模の騎士団が門の前に所狭しと並んでいる。
『で、出迎えにしては盛大すぎる……よな?』
『……あぁ』
俺はロワイヨムに何かあったのかと不安に思いつつ、騎士団の中からカードルさんを探す。カードルさんは立派な鎧とマントを身に着け、隊の中央にいたためすぐに見つけることが出来た。
カードルさんも近付く俺達に気付いたのか、『トワ!』と大声で呼び掛けてくれる。
『カードルさん!』
俺はカードルさんに駆け寄り、『何かあったんですか?』と問いかける。
『強大な魔力を持つ者が突如現れ、ロワイヨムに向かって来たんだ。警戒するのは当然だろう……』
カードルさんは呆れたようにぼやきつつ、『だが……どうやらあれが封印の中にいた者のようだな……』と言って、レンディスさんの方を鋭い目付きで品定めするように眺める。
『恐ろしいまでの魔力量だ……まさかこれ程の魔力を持つ者が、この世に存在するとは……』
カードルさんはゴクリと唾を飲み込み、レンディスさんを凝視する。
当のレンディスさんは警戒する騎士団なんて目に入っていないかのように、ソティルさんに対して『お疲れじゃないですか? 荷物お持ちしましょうか?』とあれこれ話し掛けている。
―― 魔力を感じない俺にしてみれば、レンディスさんはただのソティルさんバカなヤンデレの人……って感覚だけど、魔力を感じる人からしたら、レンディスさんの魔力量って化け物じみてるんだよな……
封印の外には魔力が漏れないようになっていたのだろう。
恐らく、レンディスさんは一国の王よりも強い魔力を持っているはずだ。そんな存在が封印を抜け、突然現れた上、ロワイヨムに向かって来るのだ。警戒するのは当然と言えるだろう。
『曖昧な情報だけ渡してすみません……』
俺がレンディスさんの魔力量を含め、詳細な情報を渡していれば、ここまで大事にならなかったかもしれない。
『気にするな。トワから貰った事前情報で、敵ではないだろうと思ってはいた。しかし予想以上の魔力量だったため、急遽騎士団を配備しただけだ』
カードルさん曰く、いくら女神や賢者と呼ばれる存在でも、せいぜい上級貴族や王族程度の魔力量だろうと思っていたそうだ。しかし実際蓋を開けてみれば、そんな存在を遥かに凌駕していた。
『……彼等が敵になることはないのだな?』
『お、恐らく……』
もしロワイヨムを襲うつもりなら、レンディスさんはいつでも出来た。この数百年間ロワイヨムに敵対しなかったなら、今更敵対する理由もないだろう。
『あ、ただ! 賢者様……あの美しい女性にだけは、絶対に危害を加えないで下さい! それから親しくし過ぎるのも駄目です!』
俺は経緯やレンディスさんの危険さをざっくりとだがカードルさんに伝える。
『……分かった。行動には細心の注意を払おう……』
『はい、お願いします……』