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ソティルさんの指示に従い、様々な模様が刻まれた魔石等が魔法陣の中に配置される。
『あとは魔素が集まるのを待つだけです』
そう言ってソティルさんは満足げに頷き、魔石をそっと撫でる。その優しい手付きから魔石への愛情が伝わって来るようだった。
『では改めて、竜のいる地……ドラークへ向かう準備をしましょう』
……
ドラーク。
デエスの森を抜け、そびえる崖を超え、大海原を超えたその先にある、竜の棲む地。
『デエスの森を抜けた先の崖は、大陸の端だと考えられていました。私は大陸を超えたその先……世界の果てをこの目で見ようと旅をした結果、ドラークに行き着いたのです』
旅の準備をしながら、雑談混じりにソティルさんが語る。
ソティルさんは元々デエスの森で生まれ育ったわけではなく、故郷を離れ様々な地を旅しながら興味の赴くままに色々な研究をしていたそうだ。
圧倒的な知識と魔力を持つソティルさんだからこそ、ドラークまで辿り着けたが、並の人間では海へ出る前に殆どの人が死んでしまうらしい。
『ドラークは素敵な場所でした……。竜達はそれぞれ思い思いに、のびのびと暮らしていました』
そんな竜達の姿を見て、ソティルさんも定住する地を持とうと決めたほどらしい。因みにデエスの森に住むと決めた際、決め手となったのは魔素が濃い地だったから……というのが、なんともソティルさんらしい理由だ。
『だからこの辺に住み始めたのは、つい最近なんですよ』
ソティルさんはそう言いながら笑っていたが、レアーレが森に来た時にはもう定住していたはずなので、ソティルさんの言う『つい最近』が少なくとも300年以上前なのは確定である。
―― ロワといいソティルさんといい……本当に何歳なんだ……?
ソティルさんの話を聞きながら、自分なりに時系列を整理してみた。
まずソティルさんは故郷を離れ、様々な地を旅していた。そしてデエスの森を通り、海を越えてドラークへ行き着いた。
ドラークでの竜の生活を見て、ソティルさんも定住する地を持とうと思い、デエスの森に屋敷を構えた。
デエスの森で暮らし始めたソティルさんは、そこで様々な研究を行った。その結果生み出されたのが精霊石や精水だ。
『でもずっと引き篭もって研究ばかりしていたら、段々飽きてきてしまって……また少し旅に出たんですよ』
旅に出たソティルさんは、ずっと気になっていた大陸で1番魔素が濃いと言われている場所……ディユの森へ訪れた。そこでブラックベアーにコテンパンにのされ、死にかけていたところをロワに助けられた。
ブラックベアーから受けた傷も癒え、デエスの森に戻って来たソティルさんは1人の子供を拾う。レンディスさんだ。ソティルさんはレンディスさんに魔力の制御方法等、様々な知識を与えた。
ここまでがレアーレに会う前の話だ。
そしてレアーレが森に迷い込み、レンディスさんの嫉妬から森に封印が施された。
―― 千年……いや、それ以上か……?
ソティルさん達からすれば、魔力を持たない人間の寿命なんて一瞬なのかもしれない。そんなにも長い時を生きるというのは、一体どんな感覚なのだろうか?
―― いや、案外……感覚はずっと変わらないのかもな……
俺が生きて来た28年という年月だって、1日1日を積み重ねていたら、気付けばそんなに経っていた。
自分自身、身体も精神も成長したはずなのだが、あまり実感がわかない。
10年前と比べれば「老けたなぁ……」と思うが、1日前の自分と比べても変化が小さすぎて分からない。
―― だからソティルさんは行動的なままなんだろうか……?
旅支度を進めるソティルさんは、何だか楽しそうだ。鼻歌を歌いながら、テキパキと準備を進めている。年齢的には相当な歳だろうに、その様子からは老いを一切感じさせない。
『ソティルさんって何というか……こ、行動的ですね……?』
『そうですか?』
不思議そうな顔でソティルさんが首を傾げる。
『そうですよ……』
全体的にアクティブ過ぎるソティルさんのおかげで、俺は希望が繋がったので感謝しかないが、本当に恐ろしいまでの行動力だ。
『これでよし……と! トワ、旅の準備が出来ました!』
会話をしている間に、準備が整ったらしい。荷物は非常にコンパクトにまとめられており、旅をしなれているのが伝わって来る。
俺は荷造りの参考にしよう……と思いながら、ソティルさんの荷物を眺めた後、まだ準備中のレンディスさんの方へ目を向ける。
『先生から貰った石に、先生から貰った木片……あぁ駄目だ……! 全部持って行きたい!』
対してレンディスさんはというと、旅支度が全く進んでいない。鞄の大半がソティルさんから貰ったと思われる物で埋め尽くされている。
ソティルさんは『あの子は長旅なんて初めてですからねぇ……』と呆れたように言いながら、レンディスさんの方へ向かう。
『旅は必要最低限の物だけ持てばいいんです。基本は現地調達ですよ!』
ソティルさんはそう言うと、レンディスさんの鞄から不要そうな物をポイポイ抜いていく。
『これ……大半はゴミじゃないですか? 捨てちゃっていいですか?』
『ご、ゴミじゃありません! 捨てないで下さい!』
悲鳴のようなレンディスさんの声が聞こえる。準備はまだまだかかりそうだ……。




