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俺はふと、帰還方法のことで頭がいっぱいで精水について聞いていなかったことに気付く。こちらは噂として残ってるくらいだし、帰還方法とは違いきちんと実在するだろう。
精水は約束通り貰えるのか遠慮がちに問い掛ければ、レンディスさんは『あー……? あぁ』と面倒くさそうに頷く。
『因みにその精水って1人分ですか……? 凄く図々しいお願いなんですけど、2人分頂いたり出来ます……?』
2人分というのは、レタリィさんと母の分だ。母に精水が効くか半信半疑だったため元々は数に入れてなかったが、効くかもしれないと分かった以上、是非とも手に入れたい。
『放置時間が長けりゃ2人分くらいいけるんじやねぇの? 知らねーけど』
レンディスさんは投げやり気味にそう言うと、『容器は2人分用意しといてやるよ』と棚から瓶を2本取り出し、ポイッとこちらに投げ渡す。
しかし、渡された瓶は明らかに中身が入っていない。
『え……? この容器……空じゃないですか……?』
精水は目に見えない物なのか……? と一瞬考えてしまったが、先程の『放置時間が長ければー』という言葉、空の容器……ここから導き出される答えは多分1つだ。
『もしかして……精水って今から作るんですか……?』
『あぁ』
俺の問いかけに、レンディスさんはそれはもう面倒くさそうに頷く。確かに精水が今あるとは言ってなかった……。これも完全に確認不足だ。
『そ、それって完成までどれくらいかかるんですか……?』
ゴクリと唾を飲み込み、恐る恐る尋ねる。
『さぁ?』
レンディスさんは欠伸をしながら、何とも投げやりな返事をくれる。
『え……そ、ソティルさ……あ、いや、賢者様なら、どれくらいで完成するか分かりますか……?』
ソティルさんと呼んだ瞬間、レンディスさんにギロリと睨まれたため、慌てて呼び方を変えながらソティルさんに問い掛ける。
ソティルさんは『え……?』と言いながらポカンと口を開け、驚いた様な表情をしていた。
『け、賢者様……? どうしたんですか?』
俺の声で我に返ったのか、ソティルさんはレンディスさんの方を向き、戸惑ったように声を掛ける。
『レンディスが昔練習で作った分はどうしたのですか……? いい出来でしたし、いくつか残っていたと思うのですが……』
封印内に引き籠る前、ソティルさんの記憶が正しければ、レンディスの作った精水がいくつか残っていたそうだ。
その時は既に森全体の封印が施されていたため、精水を求める人は入れなかったはずだ。つまりレンディスさんが精水を使ったりしない限り、その精水は残っているはずなのだ。
ソティルさんの問い掛けに対し、レンディスさんは『あー……あれは……その……』と答えを濁す。
『トワに渡した残りを、研究に使わせて貰おうと思ってたのですが……』
少ししょんぼりした様子でソティルさんが呟くと、レンディスさんは焦ったように『い、今すぐ! 今すぐ作ります!』と叫び、棚から様々な材料らしきものを取り出す。
『本当に1つも残っていないんですか? 残っていた分はどうしたのです?』
レンディスさんはソティルさんに対して嘘をついたり、隠しごとをしたり出来ないのだろう。
再び問い掛けられ、物凄く言い辛そうに『……す、捨てました……』と呟く。
『『す、捨てた!?』』
俺とソティルさんの驚く声が重なる。
続くソティルさんの『何故です!?』という声に、レンディスさんは気まずげにボソボソと答える。
『その……八つ当たり、的な……』
レンディスさんからしてみれば、精水の噂が広まったせいでこの森に来る人間が増えた。
ソティルさんが封印内に引き篭もった後、仲違いする間接的な原因となった精水は、全て床に叩きつけて割ってしまったらしい。
『す、すみません……』
レンディスさんは泣きそうな表情でソティルさんに向かって頭を下げる。
『あ、いえ……私の研究は絶対にやらなきゃいけないものでもないので構わないのですが……トワが……』
ソティルさんがそっと俺の様子を伺う。
『あ……いえ……ないものは仕方ない、ですよ……』
そう。騒いでも喚いてもないものはないのだ。そもそもこの件もきちんと確認しなかった俺が悪い。
幸いもう一度作れる物のようだし、レンディスさんの口ぶりからして、作ってくれる気もあるようだ。
そうなると、作るのにどれほど時間がかかるのか……そこが1番の問題だ。ソティルさんは困ったような表情で、この問題の答えをくれる。
『今から作るとなると……最低でも300日はかかってしまいますね……』
ソティルさん曰く、精水は周囲の魔素を集め、濃縮させる必要があるそうだ。どんなに効率よく魔素を集めたとしても、精水に必要な量が集まるまでにそれくらいかかってしまうとのことだ。
―― 約1年、か……
10年、100年と言われなかっただけマシなのだろうか。
どちらにしろ竜のいる地まで旅する期間もある。1年なんて意外とあっというまに過ぎてしまう気もする。
『旅に出ている間にも魔素を集められるよう、出発前に準備しましょう。レンディス、やりますよ!』
『は、はい……!』
ソティルさんは気合いの籠もった声でレンディスさんを呼び付け、材料に魔法陣のようなものを刻んだり、テキパキと行動し始める。
『あ、ありがとうございます……! 何か手伝えることはありますか……?』
俺はバタバタと準備をする2人に頭を下げつつ、ソティルさんに問い掛ける。
『ではそこに置いてある瓶をあちらに……あ、レンディス! 貴方はこの刻印にありったけの魔力を込めて下さい』
『はい!』
俺とレンディスさんはソティルさんの指示に従い、精水製作の準備を進める。レンディスさんは久々にソティルさんと作業出来るのが嬉しいのか、目を輝かせながら指示に従っている。
『さぁ、のんびりしてる暇はありません! どんどんやりますよ!』
『『はい!』』




