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セイの通信魔法を使い、フィーユとファーレスに旅の仲間が増えることを伝えた。セイ曰く、2人とも突然耳元で響いたセイの声に、大層驚いていたそうだ。
旅の仲間が増えることに関しては、フィーユもファーレスも快く了承してくれた。正確には快く了承してくれたのはフィーユで、ファーレスはいつも通り『……あぁ』としか言ってなかったらしいが。
フィーユとファーレスの了承も得たので、ソティルさんとレンディスさんも正式に仲間入りだ。かなり豪華なパーティーになって来た。
何だか、全員レベル100越えのパーティーに、1人だけレベル1の俺が混ざっているという感じだ。
―― か、完全に寄生プレイ……
俺も毎日欠かさず筋トレをして、多少は強くなっているはずなのだが、周りが強すぎて話にならない。自分の情けなさに溜息を吐きつつ、スティルさんとレンディスさんの方を向く。
『じゃあ改めて……竜のいる地まで、短い間ですがよろしくお願いします!』
俺の言葉に、ソティルさんは『はい、よろしくお願いします』と笑顔で答えてくれる。因みにレンディスさんは舌打ちで返事をしたため、ソティルさんに態度が悪いと注意されていた。
『あ、それから旅の仲間をもう1人……いや、もう1匹紹介しますね』
俺はそう言って、鞄からもちを引っ張り出す。一応隠れていて貰ったのだが、一緒に旅をするなら隠し通すのは不可能だろう。
『一緒に旅をしている、もちです』
『きゅっ!』
もちもずっと鞄の中にいて窮屈だったのか、外に出れて嬉しそうに飛び跳ねながら鳴き声を上げている。
ソティルさんとレンディスさん、両者の反応の違いは顕著だった。
まずレンディスさんは予想通り、心底どうでも良さそうな顔でもちを一瞥しただけだった。本当にこの人は、ソティルさん以外毛ほども興味がないようだ。
対してソティルさんはと言うと、目をキラキラと輝かせ、もちをじーっと見つめている。この目は、俺を質問攻めにして来た時の目だ……。
『なんですか、その生き物は!』
興奮した様子で、ソティルさんが俺に詰め寄る。
『えーっと……魔物、ですかね? 多分……。ソティルさんも、もちみたいな魔物は見たことがないですか?』
『えぇ! こんな魔物、初めて見ましたよ!』
ソティルさんは勢いよく返事をしながら、もちを穴が開く程じーっと見つめる。
魔物に関する知識が豊富そうなソティルさんでももちのことを知らないとなると、いよいよもちが何者なのか疑問が募る。
―― 実は超レアモンスターなのか……?
俺はもちをむにむにと揉みながら、もちの正体について考える。
―― まぁでも、ディユの森って基本人が立ち入れないっぽいし、ディユの森にしか生息してない種族なのかもな……
もちの仲間……だいふく達は、ディユの森以外で見かけたことがない。
だいふく達がディユの森にしか生息していない種族なのだとしたら、人に知られていないのも、他の地域で姿を見かけないのも納得だ。
ソティルさんは興奮した様子で、『もっとよく見せて下さい』ともちを抱き上げ、様々な方向から観察している。因みにもちにも羞恥心があるのか、恥ずかしそうにきゅーきゅー鳴いていて可愛かった。
『トワは私達と同じ姿なので、てっきり他の生き物も同じ姿なのかと思っていましたよ……! トワの世界は本当に興味深いですね!』
ソティルさんの言葉を、俺は慌てて否定する。
『あ、いや。もちはこっちの世界に来てから、ディユの森で会ったんですよ』
『……ディユの森で!?』
ディユの森という言葉に、ソティルさんが再び目を見開く。
『しかし……もちは魔力を持っていませんよ?』
どうやらソティルさんは、もちが魔力を持っていないから、俺の世界から来た生き物だと思ったようだ。
それだけ、こちらの世界の生き物は魔力を持っているのが普通ということだろう。
そういえば、ディユの森は魔素がとても濃いと言っていた。
そこで生まれ育ったであろうもちが、何故魔力を持っていないのだろうか?
『んー……案外魔力のない生き物も結構いるんじゃないですか?』
進化の過程で毒を持つ生き物もいれば、毒を持たない生き物もいる。それと同じで、魔力を持つ生き物もいれば、魔力を持たない生き物がいてもいい気がする。そう思い、俺は適当な答えを返す。
『そんな……まさか……! 全ての生き物は、魔力をエネルギーとして生きていると考えられてきました。実際、私も長きに渡り様々な生き物の生態を調べましたが、魔力を持たない生き物はいませんでした……!』
『いやでも、実際に魔力を持たない俺やもちがいるわけじゃないですか』
『私はてっきり、こちらの世界の生き物とトワの世界……魔力のない世界の生き物では、身体の構造自体が異なり、エネルギーとする物質が異なるのだと思っていたんです。まさかこちらの世界に、魔力をエネルギーとしない生き物がいたなんて……!』
ソティルさんの興奮しているポイントがよく分からないが、どうやらこの世界的に大発見のようだ。
『異世界から来たトワ……! 意志の疎通が出来る精霊のセイ……! 更には未知の生物のもち……! あぁ……! 最高の旅になりそうです!』
今にも踊り出しそうなほど、ソティルさんのテンションが急上昇する。
『……あんな生き物のどこがいいんですか……! 先生が望むなら、俺は全魔力を捨てても構いません……!』
俺やもちに張り合おうとしているのか、レンディスさんがソティルさんの前に立ち、宣言する。
『あはは、そんなことをしたら死んじゃいますよ?』
ソティルさんは完全に冗談だと思っているようで、レンディスさんの言葉を軽く流す。どうやら完全に魔力がなくなると、この世界の人は死んでしまうようだ。
『……きゅ?』
状況がよく分かっていない様子のもちは、不思議そうな鳴き声を上げた後、ソティルさんの手から逃げるように俺の頭の上に飛び乗る。
『何だか……賑やかな旅になりそうだな……』
『きゅー……』