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セイの言葉を受け、思わずソティルさんの方を縋るように見てしまう。ソティルさんはと言うと、『ん、んー……』と少し考えるような素振りをしたあと、『た、多分大丈夫ですよ』と宥めるように言う。
『確かに魔素が減り、その身を保てなくなった竜はかなり数を減らしました。しかし私の知ってる竜は魔素の濃い地に住んでいましたし、死ぬ姿なんて想像出来ないほど立派で力のある竜ですから……!』
ソティルさんはそう言って、『だから希望を持って下さい!』と続ける。
『は、はい……!』
『ダメだったらその時考えよ〜!』
俺とセイの声が重なる。
ソティルさんは『そうですよ!』と力強く頷いた後、小声で『……まぁ私も、最後に会ってから大分経ってるんですけどね』と呟く。
―― そ、その言葉……正直聞きたくなかったです……。
俺のテンションが再び下がったことを察したのか、ソティルさんは流れを断ち切るようにパンパンと手を叩き、『と、とにかく! 憶測で物を言っても仕方がありません! まずは竜のいる地まで行ってみましょう!』と声を張り上げる。ソティルさん曰く、竜は殆ど人に知られていない辺境の地に住んでいるそうだ。
『過酷な旅になります。それでも行きますか?』
ソティルさんが問い掛ける。
『行きます……!』
『トーゼン〜!』
俺とセイがキッパリと答える。
『ふふ、愚問でしたね』
俺達の答えを聞き、ソティルさんが優しく笑う。
しかし、そんなやり取りを聞いていたレンディスさんが『ま、待って下さい……!』と叫び声を上げる。
その声に釣られてレンディスさんの方を見れば、信じたくないと言わんばかりの悲痛な表情を浮かべていた。
『竜のいる地って……! 先生、この森から出て行くつもりですか!?』
絶望の極みといった声を上げながら、レンディスさんがソティルさんを強く強く抱きしめる。
『やっと……! やっと再開出来たのに……! 何で先生がこんな奴らの為に……!』
ソティルさんがまた何処かに行ってしまう不安からか、レンディスさんが段々ブツブツモードに移行し始める。俯き、ボソボソと呪詛を呟くレンディスさんの姿は本当に恐ろしい。
そのまま数分間、レンディスさんのブツブツボイスがその場を支配する。
『先生は……俺の気持ちを受け入れてくれたんじゃないんですか!? だから戻って来てくれたんですよね!?』
時間が経って少し正常モードに戻ったレンディスさんは、バッと顔を上げソティルさんに詰め寄る。
『え? あぁ……勿論、レンディスの気持ちは嬉しかったですよ』
ソティルさんはそう言いながら、レンディスさんの頭を撫でる。
『私もレンディスのこと、大好きです』
にっこりと笑い、ソティルさんが言う。その瞬間、レンディスさんの表情がパアァァァっと輝く。
レンディスさんは一際強くソティルさんを抱きしめ『俺も! 俺も大好きです!!』と叫ぶ。
―― あ、あれ……? なんかこれ……ソティルさんとレンディスさんの間で、すっごーくスレ違ってる気がするぞ……?
レンディスさんとソティルさんが離れる際、どんなやり取りがあったのか詳しいことは分からない。ただ、会話の流れから想像はつく。
恐らく、レンディスさんがソティルさんに告白したのだろう。
しかしソティルさんは告白を本気に……というか恋愛的感情から告白されたと思っていないように見える。
一瞬指摘しようか迷うが、何と言えばいいのだろうか……?
―― レンディスさん滅茶苦茶幸せそうだし……ま、まぁいっか……
人の色恋沙汰に関わると碌なことがない。
何より、とろけそうな笑顔を浮かべて喜んでいるレンディスさんに対し、ソティルさんの好きは恋愛の好きじゃないのでは? なんて言う勇気はない。
『じゃあ先生! あんな奴らのために森を出るなんて言いませんよね?』
レンディスさんが見たこともないほどキラキラとした笑顔で問いかける。ソティルさんはその言葉に『何でそうなるんですか……』と呆れつつ、レンディスさんを説得してくれる。
……
数十分後。
やっとレンディスさんの説得が終わったようだ。
『トワ! レンディスも竜のいる地へ付いて来てくれるそうです! よかったですね!』
―― 全然よくない。
内心これっぽっちもよくないが、ここで嫌だと言えばまた揉めてしまう。
何よりソティルさんが道案内のため俺達に付いて来てくれる以上、レンディスさんも付いて来てしまうのは必然とも言える。
―― まぁ……ソティルさんが案内してくれるってなった時から、こうなることは予測してたさ……
俺はそっとレンディスさんの方を向き、頭を下げる。
『よ……よろしくお願いします……』
『チッ……』
物凄い勢いで睨まれ、舌打ちされた。
こんな状態で、果たして無事に竜の元へ辿り着けるのだろうか……?
『……おい、勘違いするなよ? 先生がお前らに手を貸せと言うから、仕方なく手を貸してやるだけだ……』
レンディスさんはソティルさんに聞こえないよう、俺に近付き小声で警告する。
そんなこと、わざわざ言われなくても分かっている。
『わ、分かってますよ……』
『俺と先生の仲を邪魔したら……殺す』
この人の殺すは本当に本気なので、シャレにならない。
そんな命を懸けるような真似をするはずがない。
『分かってます。邪魔なんかしませんよ……』
俺も小声で返事をしていると、会話が聞こえていないソティルさんはのほほんとした笑みを浮かべる。
『仲良しですねぇ~』
『『いや、どこがですか!?』』
異世界生活566日目、俺とレンディスさんの仲良くハモった突っ込みは、デエスの森中に響き渡ったのだった。




