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『ち、違います! あいつが勘違いしただけで……! それに俺は、ちゃんとイセカイについて調べる気もあります!』
レンディスさんは怒るソティルさんがトラウマになっているのか、一気に冷や汗を流し、あわあわと弁解を始める。
『俺と先生が一緒に研究すれば、必ずイセカイに渡る方法だって分かります! そうでしょう?』
レンディスさんが言い訳をするように、言葉を重ねる。ソティルさんはその言葉を聞き、更に目を吊り上げる。
『今から研究を始めて、一体どれだけの時間がかかると思っているのですか! トワは魔力を持っていないんですよ!? トワの寿命に間に合うわけないでしょう!』
『な、なら、万能薬をあいつに飲ませればいいじゃないですか! それなら……』
『トワを待つ人がいなくなってから元の世界に戻っても、遅すぎるでしょう!?』
ソティルさんは息を整えるように呼吸を繰り返したあと、レンディスさんの手をぎゅっと握る。
『レンディス……私から魔力を奪った時、魔力を少し残したでしょう? それは全ての魔力を奪い、私が貴方よりずっと早く死んでしまうことを恐怖したからではないですか?』
『……それは……』
ソティルさんの問いかけに、レンディスさんは気まずげに目を逸らす。
ソティルさんはレンディスさんの顔にそっと手を当て、目を合わせながら言葉を続ける。
『私が死んでも、この世界には沢山の人間がいます。でも……レンディス、貴方を知る者はいなくなってしまう。それが怖かったんじゃないですか……?』
『ちが……俺は、ただ、先生と一緒にいたくて……だから……』
レンディスさんが消え入りそうな声で否定する。もしかしたら、完全に否定は出来ないのかもしれない。
『レンディス、想像してみて下さい……。自分の本来いるべき場所に戻った時、自分の居場所が何処にもなくなっていたら……貴方はどんな気持ちになりますか?』
ソティルさんの言葉に、レンディスさんが俯く。
それはレンディスさんにとって、ソティルさんのいない世界ということだ。
ソティルさんのいない世界など、レンディスさんには何の価値もない世界なのだろう。
『レンディス、貴方は嘘をつかなかったかもしれない。ちょっと真実を隠しただけかもしれない。でも、聡明な貴方なら……トワが勘違いしていると気付いていましたよね?』
『……はい』
レンディスさんが小さく頷く。ソティルさんはその言葉を聞き、子供をあやすように優しくレンディスさんの頭を撫でる。
『もうそんなこと、しませんね?』
『……はい』
よく出来ましたとレンディスさんの頭を撫でつつ、ソティルさんは俺の背中も優しく撫でる。
『トワ……諦めるのは早いですよ、まだ希望はあります』
そして気遣うように優しく、声を掛けてくれる。
『……希望?』
気遣ってくれるソティルさんの気持ちは嬉しい。でもどこに希望があるのか、想像もつかない。打ちひしがれたまま、俺はソティルさんに問い掛ける。
『長い時を生きてきたソティルさ……賢者様も、精霊のセイも、王であるロワも……誰も異世界について知らなかったんですよ……? 他に、誰が……?』
弱々しい声を上げる俺に対し、ソティルさんは力強く声を掛けてくれる。
『より長い時を生き、より叡智を極めたもの……竜の知恵を借りましょう』
『……竜?』
……
竜。
レイに色んな本を読み聞かせていた頃、物語の1つに出て来た単語だ。俺は内容や挿絵から、その生物を竜と定義した。
世界最古の生き物。
叡智を極めしもの。
巨大な体躯に圧倒的な力と魔力を持ち、体表を覆う硬質な鱗はありとあらゆる魔法を防ぐという。けれど……
『竜って……実在するんですか……?』
本を読み、異世界には竜が実際にいるのかと思い、メールに質問してみたことがあった。
しかしその時は『お伽話でしょう?』と夢見る子供を見るような微笑ましい顔で言われてしまい、凄く恥ずかしい思いをした記憶がある。
『えぇ、いますよ』
俺の質問対し、ソティルさんがあっさりと答える。
思えば、女神様の存在だって皆お伽話だと思っていた。でも、ソティルさんは実在した。ソティルさんが言うなら、きっと竜も実在するのだろう。
『竜が異世界を渡る方法を知っているか……正直、確証はありません。でも私が知り得る中で一番可能性が高いのは、長い長い時を生きていると言われる竜だけです』
ソティルさんは励ますように俺の肩を叩き、『諦めるのは、竜に会ってみてからでも遅くないはずですよ』と笑う。
『はい……!』
まだ希望が残っていた。
今度はもう、逃げたりしない。
『トワ~! よかったね~!』
セイも嬉しそうにふよふよと舞い踊る。
『ありがとう……セイ。心配かけて、ごめん……』
セイは『いいよ~!』と笑った後、『竜か~……』と一瞬不安げな顔をする。その表情が気になり、俺はセイに問いかける。
『セイも竜を知ってるのか?』
『ん~……喋ったことはないけど~見たことはあるよぉ~』
セイはそう言った後、とても小さな声で『……すっご~く前に』と付け加える。
『……何か、不安があるのか?』
もし不安なことがあるのなら、是非教えて欲しい。
そう思い、俺は再びセイに問いかける。セイは迷いながら、おずおずと口を開く。
『竜ってさぁ~……もう絶滅したんじゃないの?』