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とうとう、とうとうここまで来た。
屋敷に入って、レンディスさんとソティルさんを引き合わせて、そして俺は万能薬と元の世界に帰る方法を得る。
『行きましょう』
ソティルさんが俺の方を向き、穏やかに微笑む。
『……はい!』
『行こ〜行こ〜!』
セイも楽しそうに腕を振り上げる。
よくよく考えれば、セイはわざわざ魔法を使って実体化してくれてる上に、こうやって表情や動きも付けてくれているのだ。
セイのおかげで、ずっと明るく楽しい雰囲気でこの森を超えることが出来た。俺1人だったら、もっと恐怖に震え、ビクビクしながら森を進む羽目になっただろう。
本当に俺は、いつだって誰かに支えられている。
『ありがとな……セイ』
『なにが〜?』
ふよふよと漂いながら、セイが微笑む。
セイとももうすぐお別れか……と思うと、とても寂しい。
―― セイのこと、支えてくれた皆のこと……元の世界に戻っても、俺は絶対に忘れない……!
『行こう!』
……
『先生……! 先生先生先生先生……! 先生ぇぇえぇえぇぇえ!!!!!』
レンディスさんの叫びが屋敷中に……いや、デエスの森中に響き渡る。
俺達が屋敷の前に立った途端、待ちきれなかったように勢いよく扉が開き、レンディスさんが飛び出してきた。
レンディスさんはソティルさんにそれはもう凄い勢いで飛び付き、抱き締め、泣き叫んだ。正直、ちょっと引いた……。
『久しぶりですね、レンディス。元気にしてましたか?』
『先生がいないのに……! 元気でいれるはずがありません……!』
ソティルさんは慣れた様子でレンディスさんの頭を撫でている。レンディスさんはといえば、えぐえぐ泣きながらソティルさんの胸に顔をうずめている。
しかしよくよく見ると、レンディスさんはさり気なくソティルさんの胸の柔らかさを堪能するように、顔を擦り付けている。
―― あの人、実はあんまり反省してないんじゃないか……?
俺は感動の再開を邪魔しないよう一歩下がったところで見ていたのだが、レンディスさんの様子を見て気を使う必要ないかと思い直し『あの……』と抱き合う2人に声を掛ける。
レンディスさんに殺意の籠もった目で睨まれた。
『ほら、レンディス。そろそろ離れなさい』
ソティルさんに促され、渋々レンディスさんがソティルさんから離れる。俺は再び、殺意の籠もった目で睨まれた。
『さあ、レンディス! トワに元の世界へ帰る方法を教えるんですよね? どんな方法を考えてるんですか? 私にも教えて下さい!』
ソティルさんがワクワクとした様子でレンディスさんに声を掛けてくれる。しかし当のレンディスさんはというと……。
『……トワ? 先生、今……トワって言いましたか……?』
地の底から響くような声で、表情だけは笑顔でソティルさんに問い掛ける。
『え……? はい。それが何か……?』
ソティルさんは不思議そうな顔で肯定する。俺もレンディスさんの機嫌が悪くなった理由が分からず、若干距離を取りつつレンディスさんの様子を伺う。
『先生に……名前で呼んで貰うなんて……図に乗るなよ、糞がぁあぁあ……!』
レンディスさんが一気に距離を詰め、俺の肩を掴む。
―― そこかよ!?
掴まれた肩が痛い。痛いというか、もう痛いを通り越して熱い。レンディスさんの指が、物理的に俺の肩に食い込む。
そう、物理的に食い込んでいる。
俺の肩がミシミシと聞いたこともない音を立て、レンディスさんの指が貫通する。
―― 化物かよ……!
呻き声を上げる俺を見て、慌ててソティルさんがレンディスさんを引き離してくれる。
『レンディス! 何をしているんですか!』
ソティルさんが叱りつけるように叫ぶと、レンディスさんが少し怯む。恐らく前に叱りつけられた後、長期間ソティルさんと会えなくなったことが尾を引いているのだろう。
『そ、ソティルさん……俺は、大丈夫です……から……』
痛みに耐えつつ、ソティルさんを止める。ここでソティルさんとレンディスさんが仲違いするのはマズイ。
『……先生を……名前呼び、だと……?』
レンディスさんが再び、殺意の籠もった目で俺を睨みつける。今ソティルさんが席を外したら、俺は確実に殺されているだろう。そう思う程に、ピリピリとした殺気が突き刺さる。
―― そ、そこもかよ……!
レンディスさんの心の狭さにビビりつつ、俺は涙目で2人に対して頭を下げる。
『ししし、失礼しました……! め、女神様……! いや、賢者様! 賢者様と呼ばせて頂きます……!』
レンディスさんは少しだけ殺意を和らげ、『そうだ、それでいい』と言わんばかりに頷く。
ソティルさんは『そんな他人行儀な呼び方でなく、ソティルで構いませんよ』と言ってくれているが、俺は『いえ! 俺がそう呼びたいんです!』と頑なに拒否する。
『そ、それで……帰る方法について教えて欲しいんですけど!』
レンディスさんの怒りが少し収まったタイミングを見計らい、俺は話を戻す。
『あぁ?』
レンディスさんは心底どうでも良さそうな表情で、こちらを見る。
『あの……だから……! 貴方の先生を連れ戻したら、万能薬とレンディスさんの知識をくれるって……! 取引したじゃないですか!』
俺が必死に叫ぶと、レンディスさんはどうでも良さそうな表情のまま『あぁ……確かにお前は先生を連れてきた。約束は守ってやるよ』と頷く。
『じゃあ教えて下さい……! 元の世界に帰る方法を……! 異世界に渡る方法を……!』