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『私の考えが正しければ、イセカイの人間にも効くと思いますよ』
ソティルさんが笑顔を浮かべ、俺に向かって強く頷く。
『ほ……本当ですか……!』
母さんが助かるかもしれない。
そう考えた途端、涙が溢れそうになる。
『はい。私にもあれは未知のものなので、絶対に……とは断言出来ませんが』
『未知の、もの……?』
何やら不穏なワードが聞こえ、俺は思わず聞き返す。あれは賢者様……つまりはソティルさんが作ったものではないのだろうか?
俺が疑問を投げかけると、ソティルさんは『私が作ったもので間違いありません』と頷く。ますます頭が混乱する。
自分が作ったものなのに、未知のものとはどういうことなんだろうか……?
困惑が顔に出ていたのか、ソティルさんがゆっくりと万能薬について説明してくれる。
『貴方が万能薬と呼んでいるもの……あれは人工的に精霊を作ろうとした失敗作なんですよ』
『え……』
人工精霊……失敗……
もう不穏ワードのオンパレードだ。
『あぁ! そんな不安そうな顔をしないで下さい!』
ソティルさんが慌てた様子で『大丈夫ですよ』と付け加える。
『失敗とは言っても……半分失敗、半分成功、くらいです!』
若干ドヤ顔で、ソティルさんが自信満々に断言する。
『それ……全く大丈夫には聞こえないんですけど……』
『あ、あれ?』
ソティルさんは予想が外れたような顔で『レンディスなら「じゃあ大丈夫ですね!」と納得してくれるんですが……トワはなかなか疑り深いですね……』と呟く。
いや、レンディスさんを基準にしないで欲しい。多分あの人はソティルさんが言えば何でも大丈夫になるし、大失敗だろうが大成功になる。
―― 母さんに万能薬飲ませて大丈夫か……? まず俺が毒味? してみるか……?
どの様に作用して病気が治るのか分からないが、健康な俺が飲んで害がなければ、多分母に飲ませても大丈夫だろう。
そんなことを考えていると、ソティルさんが俺の不安を解消すべく、万能薬について更に詳しい説明をしてくれる。
『まずですね、精霊は魔素が変異し、意思を持ったものと考えられています。そして私達が使用している魔力。これも魔素が私達の体内に取り込まれ、変異したものと考えられています。魔素は体内に取り込まれると、長い時をかけて結晶化します。これが魔石です』
ソティルさんの説明を聞きながら、前にアルマが魔石の成り立ちについて話してくれた時のことを思い出す。
―― 『魔石の成り立ちについては色々と隠されている点や謎も多い。魔石製作は素人が簡単に出来るもんじゃねぇが…………万が一ってこともあるからな』
多分、ソティルさんが話してくれた内容は、一般的には伏せられているものなのだろう。
アルマが口を閉ざす理由も理解出来る。もし悪意ある者が、魔石は誰の体にも宿るものだと知れば、どんなことになるか……想像するだけで恐ろしい。
『そこで私は、元が魔素である精霊も結晶化出来るのではないかと考えました。そして出来たのが精霊石です』
『ボクだ〜』
俺とソティルさんの会話を興味深そうに聞いていたセイが、『はいはーい!』と手を上げる。ノリが軽い。
ソティルさんは『ふふ、そうですね』とセイに答えつつ、話を続ける。
『私は更に、高濃度の魔素に手を加えることで、精霊を人工的に作り出そうとしました』
『でもその試みは失敗した、と……』
『はい。魔素でも魔石でもない、中途半端な液状のものになりました。私はこれを精霊なる水……精水と呼んでいます』
精霊なる水……精水。
何故精霊の出来損ないが、人々の病気を癒やすのだろうか?
俺の疑問に答えるように、ソティルさんが説明を続ける。
『精水の不思議な力に気付けたのは、本当に偶然でした。精水が出来て少しした頃、死にかけの男が私を頼ってこの森に来たことがあったんです。彼にはもう治癒魔法も効かず、私には打つ手がありませんでした。死を待つだけと知り、絶望した彼は棚に置いてあった精水を勝手に飲んでしまったんです。多分、私が薬を持っているのに隠していると勘違いしたのでしょうね……』
『薬を飲んで……その人はどうなったんですか……?』
『病気が治りました』
あっさりと、ソティルさんが言う。
『更に異常なまでに魔力が高まりました。これは想像でしかないのですが、恐らく彼の体に精霊が宿ったのではないかと思います』
『人の体に……精霊が宿る……?』
『はい。彼の体から、彼以外の魔力を感じたのです』
宿主が死ねば、恐らく宿った精霊も死んでしまう。精霊は自分が……宿主が死なないよう、内側から体を治癒したのではないかとソティルさんが語る。
『……治癒魔法は効かなかったんですよね? 内側からなら治癒出来るんですか?』
『あくまで想像なのですが、精霊が一体化しているからこそ、身体そのものを修復出来るのではないかと考えています』
ソティルさん曰く、外部からの治癒魔法は対象の自己治癒力を活性化させ、治癒を促しているそうだ。
だから自己治癒力の限界があるし、レタリィさんのように自己治癒力が低い人にはあまり効果がない。
しかし、身体と精霊が一体化している場合。その身体は半分精霊化していることになる。精霊の身体は魔素で出来ている。つまり、魔素で身体そのものを修復出来るのではないか……というのがソティルさんの考えだ。
『……何となく理解しましたけど……でもそれじゃあ、魔素のない世界……俺の世界では、身体を修復出来ないんじゃないですか?』
『実際に試したことはないので私の想像になりますが、周囲に魔素がなくても、精水に貯蔵した魔力……つまりは精霊自身の魔力で、身体の修復が可能だと思います。周囲の魔素ではなく自身の魔力を使うことになるので、魔力……精霊の力は失われると思いますがね。まぁ魔素のない世界なら、魔力がなくなっても問題ないでしょう?』
『は、はい……!』
『まぁ、全ては私の考えが正しければ……なんですけどね』
確かに、上手くいく保証はない。
しかし話を聞く限り、試して見る価値は充分あると思う。
『ありがとうございます……! ソティルさんのお陰で、かなり希望が持てました……!』
俺の言葉を受け、ソティルさんが優しく微笑む。
『そうですか……なら良かった。イセカイにいるトワの大切な人……良くなるといいですね』
母の話はしていないのだが、俺の問い掛けから異世界にいる人に万能薬……精水を飲ませたいのだと察したのだろう。
俺はソティルさんの言葉に、力強く頷く。
『はい……!』
ソティルさんはそんな俺にもう一度優しく微笑む。俺達の会話を聞いていたセイも、『トワもトワの大切な人も、皆幸せになるといいね〜』と笑う。
そしてその直後、セイが前方を指差し『あー!』とはしゃいだ声を上げる。
『見えてきたよ〜! あれがレンディスのいる屋敷〜!』