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出来る……よな?
多分出来るはず……。
俺は記憶の底から、電気の歴史や発電の仕組みに関する知識を引っ張り出す。
『出来る……はずです』
『本当ですか!?』
俺の回答を聞き、ソティルさんがズイズイ迫って来る。美しい顔が間近に迫り、俺は思わず息を止める。
『は、はい……! あ、あの……説明するので離れて下さい……!』
『あぁ、失礼しました……!』
俺の言葉に、ソティルさんが少しだけ距離を取ってくれる。それでもまだかなり近いが……。
芸能人顔負けの超絶美人が目の前にいる状態じゃ、冷静な説明など出来るはずがない。俺のこれまでの人生において、これほどの美女と近くで関わった歴史などあっただろうか、いやない。新たな歴史の1ページが刻まれている真っ最中だ。
自分も一歩下がって距離を取り、呼吸を整える。
『まずですね……雷、あるじゃないですか。ザックリ言っちゃうと、あれが電気です』
俺は話しながら、スマートフォンのお絵かきアプリを起動する。
『長い時をかけて、俺の世界では物質を構成する要素について研究されました。その研究結果から、俺達の体も空気も水も、原子という小さな粒が集まって出来ていると分かったんです』
そう言ったあと、理科の教科書に出て来るような原子のイメージイラストを描く。
『電気には、便宜上プラスとマイナスの2種類があります。原子は真ん中にプラスの電気を持った原子核があって、その周りにマイナスの電気を持った電子があります。何らかの力を受けてこのマイナスの電子が移動すると、電子の流れが生まれて電気になるらしいです』
ソティルさんは真剣な表情でイラストを覗き込みながら頷く。
『まぁ……俺も詳しいことは全然分からないんですけど、とにかくマイナスの電子が移動すると電気が作られるみたいです。で、どうやって移動させるのかと言うと……研究者達が色々試した結果、磁石とコイルを使えばいいってことが分かりました』
磁石に関しては、この世界にも存在していたので説明を省く。コイルに関してはまたイラストを描き、『渦巻状に巻いた金属の線です』と説明する。
『こんな感じで……コイルとコイルの間で磁石を回すと、電子の流れが生まれて電気が作られます。俺の世界では物凄く大規模なこの仕組みを作り、沢山の電気を作ってます。そして電気を通す線を張り巡らせて、各地に電気を届けているんです』
俺はスマートフォンを指さし、『スマートフォンの中には電気を蓄える貯蔵庫みたいな物があって、蓄えた電気でスマートフォンを動かしてます。蓄えた電気がなくなるとスマートフォンは動かなくなります』と説明をする。
ソティルさんは顎に手をあてながら、『……どう蓄えるか考える必要はありそうですが、こちらの世界でもデンキを作ること自体は充分可能そうですね……』と呟く。
その後、ソティルさんはふと顔を上げ、俺のスマートフォンをじっと見つめる。
『そのスマートフォンに蓄えられたデンキは、トワの世界で作ったデンキですか?』
言われて初めて気付く。
当たり前のようにソーラーパネル付き充電池でスマートフォンや各種電子機器を充電していたが、そもそも電気が作れない可能性もあったわけだ。
『いえ、こちらの世界に来てから作った電気ですね』
『素晴らしい……!』
ソティルさんは再び目を輝かせ、『やはりこの世界でも、デンキを作ることは可能なのですね!』と声を上げる。
俺は日頃お世話になっているソーラーパネル付き充電池を取り出し、太陽光発電の仕組みについてザックリ説明する。
『これは俺がいつも使ってる、電気を作れる装置です。仕組み的には……電気的な性質の異なる2種類の物質を重ね合わせてあって、光に当たるとプラスとマイナス、それぞれの粒子が移動して、電気が作られるらしいです。さっき説明した方法とはまた別の手段で、電子を移動させてる感じですね。これにも電気を蓄える貯蔵庫が付いてて、作った電気を貯められます』
俺は充電コードを取り出し、ソーラーパネル付き充電池とスマートフォンを繋ぐ。
『えーっと、こうやって電気の流れる線を繋いで、貯めた電気をスマートフォンに移すわけです。……どうでしょう? イメージ湧きましたか……?』
正直、俺も大して知識があるわけじゃないので、これ以上詳しい説明を求められても答えられないのだが……。
『えぇ、えぇ! 早速色々と試してみたいことが出来ました!』
ソティルさんはそれはもう興奮冷めやらない様子で、目をキラッキラ輝かせながら俺の手を取る。
『トワ……! 貴方に会えてよかった……!』
ぎゅっと両手を握りしめられ、俺は滅茶苦茶焦る。
『い、いや! その! 俺が研究した訳じゃないですし! さ、参考になったならよかったです!』
俺は体中の血液が顔に集まるのを感じながら、何歩か後ずさる。
―― うわあああああソティルさん何かいい香りがするうううう
俺が挙動不審になりつつあわあわしていると、後ろでふわふわしていたセイが『あははぁ〜レンディスが見たら、トワ殺されそぅ〜』と笑う。
洒落にならない。笑い事じゃない。
もし万が一、ソティルさんにこんな近距離で手を握って貰ったなんて知られたら、セイの言う通り俺は確実に殺られる。
『ソソソソソソティルさん! レンディスさんにこのことは絶対話さないで下さいね!? 内緒ですよ!?』
俺は再びソティルさんから距離を取り、必死に訴える。
『きゅ、急にどうしたんですか?』
ソティルさんは不思議そうな顔で、こてんと首を傾げる。本当にレンディスさんのヤバさを分かっていないのかもしれない。
『と、とにかく! 内緒でお願いします!』
『は、はぁ……』
※電気に関する記述は、東北電力様のHPを参考にさせて頂きました(http://www.tohoku-epco.co.jp)




