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『あぁ、まさに! この魔物です!』
興奮した様子で、ソティルさんがスマートフォンの画面を覗き込む。
俺はブラックベアーの写真を見せながら、自分が異世界に来た時、目の前にこの魔物がいたのだと話す。
『この魔物……俺は勝手にブラックベアーって呼んでるんですけど、やっぱり強いんですか?』
俺の問い掛けに、ソティルさんは苦笑しながら答えてくれる。
『強いなんてレベルじゃありません。もしこの魔物が人里に降りてこようものなら、国の10や20、簡単に消し飛びます』
『そ、そんなにですか!?』
俺は異世界に来た当初、相当ヤバイ相手と対面していたようだ。本当に、俺が今生きているのは奇跡に近い。
『トワ、因みにこの魔物の毛並み……何色に見えますか?』
突然、ソティルさんがクイズのように俺に問いかける。
『え……? 黒、ですよね……?』
俺の答えに、ソティルさんが首を振りながら笑う。
『いいえ、正解はとーっても濃い紫です』
その答えに俺は目を見開く。
体毛の色は、魔力の強さを測る基準となるはずだ。ノイの王であるロワですら、紫と分かる色合いだった。
黒に見間違える程濃い紫など、一体どれ程の魔力を持っているのだろうか。想像もつかない。
―― てことはレンディスさんも……?
レンディスさんも黒に見える髪色だった。ソティルさんの魔力を奪ったことにより、とんでもない量の魔力を持っていたのかもしれない。本当に恐ろしい人だ……。
『更にこの角。これは魔力が結晶化したものです』
ソティルさんはブラックベアーの角を指さしたあと、自身の頭を指さし、『大体の生き物は、皆この辺りに魔力を貯める貯蔵庫のようなものを持っています。通常でしたら、体外に結晶化した魔力が出ることなんてほぼありません』と説明してくれる。
『ただ稀に魔力が強いと、こうやって角のように体外に結晶化した魔力が飛び出すんです』
ソティルさんは笑いながら、『私もレンディスに魔力を奪われるまでは、この辺りに角があったんですよ。ほら、私の頭部に少し出っ張りがあるのが分かりますか?』と言って俺の手を取り、額の少し上辺りに誘導する。
そっと触れてみると、確かに小さなコブのような膨らみがある。
ソティルさんは角がなくなったことをそれほど重要視していないのか、『魔力を奪われたあと、脆くなって割れちゃったんですよ』と穏やかに笑う。
―― あれ……? そういえばフィーユの頭にも、コブみたいな出っ張りがあったよな……?
ソティルさんの頭にある小さなコブのようなものが、フィーユの頭にもあった。てっきり殴られたりぶつけたりして出来たコブだと思っていたが、もしかしたらあれは角だったのかもしれない。フィーユも魔力が強いようだし、角が生えていてもおかしくない。
『あの……俺の知り合いにも、角が生えてるっぽい? 子がいるんですが……角があると、何か他の人と違ったりするんですか?』
『そうですねぇ……本人が魔力の扱いに気を付けるくらいで……角があるからと言って、特別何か違うということはないですよ』
ソティルさんはそう答えた後、『角が生えてる子は一緒に来ていないんですか? どれくらいの魔力量なんでしょう? 魔力暴走は起こしてませんか? 魔法はどれくらい使えるんですか?』と興味深そうに質問を重ね、『角持ちはあまりいませんからね……機会があればお会いしたいものです』と目を輝かせる。
『今度はその子も連れてきますね』
『えぇ、是非! お待ちしています』
ソティルさんは『大歓迎です!』と満面の笑みを浮かべる。フィーユもきっと、正しい魔力の扱い方を教えて貰った方がいいだろう。俺やファーレスは論外としても、カードルさんや他のメンバーも、フィーユ程魔力が強いわけじゃない。
『その時は是非よろしくお願いします』
フィーユに意志を確認してみて、もしソティルさんの教えを受けたいようなら連れてこようと、スマートフォンにメモを残す。
そんな俺の様子を、ソティルさんがじーっと見つめる。
『それにしても……スマートフォン、でしたか? 本当にトワの世界の技術は素晴らしいですね……! シャシンに写る魔物も気になりますが、このスマートフォン自体も気になります!』
ソティルさんはスマートフォンを色んな方向から眺め、『こんな魔力も感じない薄い板で……一体どういう仕組みなんですか?』と改めて俺に問い掛ける。
『んー……えーっと…… "電気" って言う……まぁこちらの世界で言う、魔素とか魔力みたいな……人工的に作り出せるエネルギーがあるんですけど、その力で動いてます』
『デンキ、ですか……?』
俺はもう少し詳しく説明しようと、なにか説明するのによさそうな物がないか部屋の中を見渡す。
『んー……あ! 例えばこの部屋のランプ。これって魔力をエネルギーにして光を出してますよね?』
『えぇ』
運良く、部屋のランプが火をつけるタイプではなく、魔力をエネルギーとするランプだったので、例に挙げる。恐らく、俺の馬車に使われている前照灯と同じ仕組みだろう。
『これって多分……魔力が流れたら、魔力を光に変換するっていう刻印が何処かに刻まれているんですよね?』
『その通りです』
『滅茶苦茶ザックリ言うと、スマートフォンも同じイメージです。この板の中に、電気をエネルギーにして色々なことをするよう、物凄く複雑な刻印が山程刻まれているんです』
ソティルさんは納得したように頷きながら、『その刻印を見せて頂くことは可能ですか?』と目を輝かせる。是非解読してみたいとのことだ。
『あー……それは無理ですね。解体したら戻せないですし、そもそも目に見える刻印もあれば、目に見えない刻印も山程ある……って感じです』
目に見える刻印は、基盤や電子回路のイメージだ。これらは物理的に見せられるかもしれないが、俺の知識では説明が出来ない。
そして目に見えない刻印は、スマートフォンのシステムやプログラムのイメージだ。こちらはそもそも見せることが出来ないし、説明も難しい。
『そうですか……残念です』
食い下がられるかと思ったが、ソティルさんは悲しげにそう言うだけで納得してくれた。曰く、魔法の刻印にも目に見えるものや目に見えないもの、秘匿されているものがあるそうだ。
仕組みを知りたくて調べても、結局分からないで終わるものも多いそうだ。特に製作者が誰かも分からないものは、その傾向が顕著に表れるらしい。
『調べても謎のまま終わることは、本当に悔しいんですけどね……』
じっとスマートフォンを見つめ、『しかしトワからスマートフォンを奪うわけにもいきませんし……トワの世界の理も知らないのに、手を出すのは流石に分が悪いですから……』と本当に残念そうに語る。
『そういえば、先程デンキは人工的に作り出せるエネルギーと言っていましたが、こちらの世界でも作り出すことは可能なんですか?』
気を取り直したように、またワクワクした様子でソティルさんが質問を重ねる。その問い掛けに応えようと、俺は昔習った理科だかの内容を必死に思い出す。
―― が、頑張れ、俺の海馬……!
『え、えーっと……そうですねー……』




