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レンディスさんと仲良しになれるかは、正直なところ……善処します、という感じだ。
『えーっと……じゃあ、レンディスさんも一応? 親離れ出来たということで……ソティルさんはもう、この封印を出ても良いと思ってるんですか?』
レンディスさんが親離れ出来たとは到底思えないが、ソティルさんに会えなかったことはかなり堪えていたようだし、多分誰かに危害を加えるような真似はしなくなるだろう。
何より、あの状態のレンディスさんをあれ以上放置したら、更にヤバイことをしでかしそうな気がする。
俺は『凄く寂しがってましたよ』『ソティルさんに凄く会いたがってました』とかなりマイルドな表現で、レンディスさんの状況を伝えてみる。
『そうですね……そろそろ別の研究を始めようかと思っていたので、レンディスの魔力も借りたいですしね』
ソティルさん曰く、魔力が減ったことでこれまで研究していなかった分野に興味を持つきっかけになったらしい。
例えば魔力を増やす研究や、魔力を効率よく使う研究、そして魔力を使わずにエネルギーを得る研究。
ソティルさんは研究について饒舌に語った後、目を輝かせながら、鼻息荒く俺に迫り寄る。
『では……私からも質問、よろしいですか?』
『は……はい……?』
……
ソティルさんの質問攻めは凄まじかった。
何というか……魔石銃について語っていた時のアルマと同じ雰囲気だった。研究者……というか知識人は皆、何かに没頭するタイプが多いのだろうな、と感じる。
ソティルさんの質問は、何故俺に魔力がないのかから始まり、異世界のこと、俺の持ち物のこと、セイのこと……とにかく多岐に渡った。
意外だったのは、ソティルさんもノイに滞在していた時期があったことだ。
俺がいつも通り、異世界から来たこと、そしてノイに滞在していたことを話すと、ソティルさんは『ノイ……?』と驚いたように呟く。
その反応が気になり、『ノイをご存知なんですか?』と質問してみると、ソティルさんが懐かしそうな表情を浮かべる。
『昔あの辺りに用があって、少し滞在していたんです。トワはノイの近くにある、ディユの森を知っていますか?』
ディユの森という言葉に、今度は俺が目を見開く。
知ってるも何も、ディユの森は俺がこの世界に来た始まりの場所だ。
ソティルさんにそのことを告げると、ソティルさんは顎に手を当てて少し考えた後、納得したように頷く。
『そうだったんですか……。あの森は古くから、とても魔素の濃い地なのです。あれだけ魔素の濃い場所なら、何が起きても不思議じゃありません……』
そう言いながら、ソティルさんは夢見る少女のような、うっとりとした瞳で『はあぁ……』と悩まし気な溜息をつく。
『なるほど……そうですよね。魔力のないトワなら、あの森に入っても平気なんですよね……あぁ、なんて羨ましい……!』
そこまで言ったところで、ソティルさんがハッと我に返った様に『あ……失礼しました』と慌てて頭を下げる。
『魔力がないことを羨ましいなんて失礼でしたね……すみません。あぁ、しかし……! ディユの森へ自由に出入り出来るなんて……! 森の中はどんな様子でしたか? 生態系は? どんな魔物がいましたか? 植物はいかがでした? それからそれから……』
そわそわした様子のソティルさんから矢継ぎ早に質問を投げかけられ、俺はあわあわと必死に答えていく。
魔物や植物の見た目について説明していた時だ。
俺はうっかり『あ、そういえば写真に撮りましたよ』と言って、スマートフォンを取り出してしまった。
取り出した瞬間に「マズイ!」と思ったが、後の祭りだ。
案の定、スマートフォンはソティルさんの興味を引いてしまったらしく、今度はスマートフォンについて質問攻めにあった。
見せてしまったものは仕方ない。スマートフォンの価値を知ってもらい、ソティルさんに対し何か交渉をする際、交渉材料にしようと考える。
元々、色々な交渉をシュミレーションしていた時に、スマートフォンを交渉材料にする案も考えていた。その案を実行したと思うことにしよう……。
―― 最近、スマートフォンは人前で出さないように気を付けてたのに……
自分の愚かさにガックリと肩を落とす。
ソティルさんがスマートフォンを無理やり奪おうとするようなタイプじゃなかったことは、本当に不幸中の幸いだった。
俺はディユの森で遭遇した魔物や、採取した植物の写真を見せ、情報を小出しにしていく。
ソティルさんは興味深そうに、非常に真剣な顔でスマートフォンを覗き込んでいた。
何故そんなにディユの森に興味があるのか聞くと、そもそもソティルさんがノイに滞在していた理由は、ディユの森を調べたかったからだそうだ。
ソティルさんは目を輝かせながら、ハキハキとした口調で熱く語る。
『ディユの森は、この大陸で1番魔素の濃い場所だと言われているんです! なのに殆ど研究が進んでいない地でもあるんです……! 研究者として、そんな場所は宝の山に等しいですよ……!』
しかし次の瞬間、ガックリと肩を落とし、悲し気に言う。
『ただ……ディユの森は、その強すぎる魔素のせいか、魔力が強ければ強い程、森に入るのが困難なのです……』
ソティルさんの説明によれば、ディユの森は魔力が強い程森の魔素の影響を受け、体調が悪くなったり、魔力を上手く扱えなくなるらしい。
更に厄介なことに、森にいる魔物は基本滅茶苦茶強いそうだ。
魔力が強くないと魔物に勝てない。
しかし魔力が強いと魔素の影響で、力が出せない。
『私も昔、ノイに滞在して何度もディユの森に挑戦しましたが……森に少し入ったところで、黒い魔物にボコボコにされました』
ソティルさんは『あの時ほど、死を身近に感じたことはなかったですよ』と苦笑する。必死に森の外まで逃げて、一命を取り留めたそうだ。
そんな話をしている最中『そういえば……』と語り出したソティルさんの口から、意外な名前が飛び出してくる。
『ノイと言えば……ロワのことはご存知ですか? 多分、今はノイの王だと思うのですが……』
『ロワ!? は、はい! ロワには本当にお世話になって……! 俺がノイで貴族に目をつけられた時、助けてくれたのがロワなんです……!』
俺はまた驚きながら『ソティルさんもロワと知り合いなんですか?!』と問い掛ける。
『おや……不思議な縁もあるものですねぇ……!』
ソティルさんも目を見開きながら、言葉を続ける。
『死にかけの私を助けてくれたのが、ロワだったんです。不思議な縁と言えば、セイもそうですね。私は助けてくれたお礼として、ロワに精霊石を何個か渡したんですよ。多分、そのうちの1つがセイだったのでしょう』
精霊石は数が少なく、そう頻繁に市場へ出回る物ではないそうだ。ノイに出回った精霊石は、ソティルさんがロワに渡し、ロワから貴族や市場に出回ったのだろうと語られる。
『じゃあセイもロワを知ってるのか!?』
俺はセイを振り返り、慌てて問い掛ける。
しかしセイはロワという名前にあまりピンと来ていないようで、『分かんない〜。多分その頃のボクは、まだ人の言葉を覚えてなかったし〜』と言って、のほほんと笑う。
『そ、そっか……』
セイの回答にちょっとガッカリしつつ、俺はもう1つの不思議な縁について、ソティルさんに確かめることにした。
スマートフォンの写真フォルダから、異世界で初めて遭遇した生き物……ブラックベアーの写真を探し出し、画面に表示する。
『あの……ソティルさんを襲った黒い魔物って……こんな魔物じゃなかったですか?』




