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『あの……レンディスさんが反抗期って……具体的には……?』
様子を伺うように問いかけると、ソティルさんは昔を思い出すように目を瞑り、『そうですね……思い出話でもしましょうか』とレンディスさんとの過去を語り出す。
『あの子の過去はもう聞いているんですよね? あの子はこの森に捨てられていました……。幼い頃から魔力が強かったようなので、きっと何度も魔力暴走を起こしてしまったのでしょう……』
ソティルさんはその時のことを思い出したのか、悲し気に睫毛を震わせる。
余りの魔力の強さに、ソティルさんも人里に戻すのは危険だと判断したそうだ。
そしてソティルさんとレンディスさんの2人暮らしが始まった。
『あの子は自分を拾い育てた私に、それはそれは懐いてくれました』
俺は頷きながら、続きに耳を傾ける。
ここまでの話はレンディスさんの話通りだ。
『レンディスは本当に甘えん坊で……幾つになっても「先生と一緒がいい!」と言っては、どこへ行くにも付いてきて……』
ソティルさんは可愛い息子を自慢するように、若干親馬鹿気味に語る。
しかし俺はレンディスさんのあのヤンデレっぷりを見てしまった後なので、発言や行動からヤンデレ感が見え隠れしているように感じて気が気じゃない。多分気のせいだろう。気のせいだと信じたい。
『レンディスは凄く怖がりで……。身体こそ大きく成長しましたが、夜ひとりで寝ることも出来なかったんですよ』
優しい笑顔を浮かべながら、ソティルさんが語る。
―― あの、レンディスさんが?
失礼だが、あのレンディスさんにそんな繊細な心があるのだろうか……?
ただ単に先生と一緒に寝たかっただけでは……? と勘ぐってしまう。
―― いや、偏見はよくないよな……。
きっと幼い頃の話なのだろう。
そう思い、俺は確認するように問いかける。
『レンディスさんにもそんな時代があったんですね~。いつくらいまで一緒に寝てたんですか?』
その問いかけに、ソティルさんは『え?』と不思議そうに首を傾げる。
『いつって……レンディスがこの家を出ていくまで、ずっとですよ?』
―― はい、アウトーーーー!!!!
アウト、完全にアウトだ。
レンディスさんが今より若かったとしても、封印魔法を使いこなせる時点で、結構な歳がいっているはずだ。
あの男がそんな歳まで『ひとりで寝るの怖いよう……』なんて言うタイプとは思えない。確実に下心を持ってソティルさんの布団に入っていたのだろう。
話ぶりから察するに、ソティルさんはレンディスさんの想いに気付いていないようだが。
『私もそんなレンディスを可愛がっていました。でも……ある時急にレンディスに反抗期が来てしまって……』
ソティルさんが悲しそうに目を伏せる。
きっかけになったのは、多分レアーレの存在だろう。
『私の魔法を邪魔したり、森に罠を仕掛けたり、尋ねてきた人の飲み物に毒を混ぜたり……イタズラばかりするようになってしまったんです』
イタズラなんて可愛いレベルじゃなかった。
レンディスさんには、封印や魔力を奪った以外にも結構余罪があったようだ。本当、物騒な人だ……。
『わ、罠や毒にやられた人は大丈夫だったんですか……?』
『えぇ。すぐに治療しましたし、元々致死性の高い毒ではありませんから、大丈夫ですよ』
『そ、そうなんですか……』
『あの子にしてみれば、ちょっとしたイタズラのつもりだったのでしょうが……流石に度が過ぎているとお説教したところ……見ての通り、魔力を奪われてしまいました』
そう言って、ソティルさんが苦笑を浮かべる。
その穏やかな様子からは、魔力を奪われたことに対する怒りは感じられない。
てっきりソティルさんが封印内から出てこないのは、魔力を奪われたことを怒っているのか、レンディスさんのヤンデレっぷりに恐怖しているのか、そのどちらかだと思っていた。
しかし話を聞く限り、そのどちらも当てはまらないように見える。
『……魔力を奪われたこと、怒ってないんですか?』
俺の問いかけに対し、ソティルさんが穏やかに答える。
『うーん……そうですね。悲しかったですし、困惑はしましたが……怒ってはないですね』
『じゃあ、なんで……レンディスさんに会わないんですか?』
レンディスさんの想いは伝わっていないかもしれないが、レンディスさんがソティルさんを必要としているのは分かっているだろう。
『そうですねぇ……』
少し言い淀んだ後、ソティルさんが優しい優しい……絶対的な愛情を感じさせる笑みを浮かべる。
『お互い、そろそろ親離れ子離れする時期が来たのかなぁ……と思って』
そう言った後、ソティルさんは『……心配だったんです』と続ける。
『あの子は私以外の人間を殆ど知りません。あの子にとって信じられるのは私だけで……私以外の人間は皆敵だと思っている……そんな風に感じます』
レンディスさんの想いは、ソティルさんに届いていないのかと思ったのだが、そうではないのかもしれない。
俺なんかよりもずっと、ソティルさんは深い所でレンディスさんの想いを理解しているのかもしれない。
『あのまま私が側に居続ければ、きっとあの子は私に依存し続けます』
でもそれじゃ駄目なんです、とソティルさんが力強く続ける。
『あの子に人を知って欲しい。友人や大切な人を作って欲しい』
そう思っていた矢先、レンディスさんに反抗期が訪れたそうだ。
『やっぱり離れて正解でした。やっとあの子にも友達が出来て……!』
キラキラと目を輝かせたソティルさんに『レンディスとこれからも仲良くしてやってください!』と手を握られる。
とてもじゃないが、『いや、俺とレンディスさんは、別に友達でも何でもないです』とは言いにくい雰囲気だ。
『いや……その……』
『レンディスのこと、これからもよろしくお願いします!』
『……は、はぃ……』




