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行くぞ、なんて格好つけて言ってしまったが、まずはセイが偵察してくれるので俺は外で待つだけだ。数分後、耳元でセイの声が響く。
『ただいま〜! いたよ〜! 魔力量が昔と全然違うから驚いちゃった〜』
そのまま『トワと会ってくれるって〜』と言葉が続き、ほっと息を吐く。
『じゃあ今度こそ……! 行こう、セイ!』
『お〜!』
レンディスさんのような例もある。許可を貰ったとはいえ、精一杯警戒して屋敷の扉をノックする。まぁ正直、俺が警戒しても出来ることなんて殆どないのだが……。
『はい』
短い返事の後に扉が開き、女性がすっと顔を出す。
不思議な光彩を放つ淡い虹色の髪。
透き通るような白い肌。
澄んだ泉のような瞳。
―― それは正に、女神と呼ぶに相応しい美しさだった。
セイが実体化している姿と瓜二つなので、外見の美しさは勿論なのだが、何というか澄み切ったオーラを感じる。そこにいるだけで、その場を浄化しそうな、聖なる雰囲気を持っている。
―― 外見はセイと一緒なのに……
纏う空気が違うだけで、こんなにも雰囲気が変わるのか……と驚愕する。
『今日和、貴方がトワですね? 私はヨム・サルヴァトーレ・ソティルです。よろしくお願いします』
ふわりと穏やかに微笑み、ソティルさんが頭を下げる。
最近はザソンさんやレンディスさんといった、なかなか強烈な人とばかり話していたので、まともな挨拶に思わず感動さえしてしまう。
知的で落ち着いた声が、ソティルさんによく似合っている。ソティルさんは絶対『えへへぇ〜』とか言わなそうだ……。
『わ、渡永久と申します! こちらこそよろしくお願いします!』
思わず脳内で外見だけは同じセイと比べてしまい、俺も慌てて名乗りながら頭を下げる。
『トワ〜気を付けて〜。この人こんなに穏やかそうな顔してるけど〜散歩してたボクを捕まえて石にしたんだからね〜?』
セイは石にされたことを少し根に持っているのか、頬を膨らませながら俺に警告する。パッと見ソティルさんはとても優しそうで、そんなことをする人には全然見えない。
『その節はご迷惑おかけしました……。つい好奇心に負けてしまって……』
ソティルさんは苦笑しつつ、『しかしまさか、私が結晶化した精霊と喋れる日が来るなんて……夢にも思いませんでした』とセイを興味深そうに眺める。
『……なんかその目ぇ〜……ボクを石にした時もそんな目をしてた気がするぅ〜……』
セイはジト目でソティルさんを睨みながら、俺の後ろに隠れる。どうせ本体は精霊石なので、実体化したセイが俺の後ろに隠れても意味がないのだが、多分気持ちの問題だろう。
『そうでしたか……?』
ソティルさんは首を傾げた後、『立ち話もなんですから、中でゆっくりお話しましょう。聞きたいことが山程あるのです』と言いながら、中へ案内してくれる。
俺はその言葉に首を傾げる。
『……聞きたいこと……?』
俺の疑問に答えるように、セイがのほほんと笑う。
『色々質問攻めになって面倒だったからぁ〜トワが来たら3人で話そ〜って言ったんだぁ〜』
『わー……』
どうやらこれから質問攻めにされるらしい。
まぁ俺もレンディスさんのことや封印のこと、色々聞きたいとこがある。
『……レンディスさん、どれくらい待ってくれるかな?』
1番怖いのは、俺の帰りが遅くなれば遅くなる程、レンディスさんがヤンデレンディスさんになってしまうであろうことだ……。
『あんなやつ〜待たすだけ待たせればいいよぉ〜』
セイが笑顔でなかなか鬼畜な発言をしたあと、『どうせちょっと待たせても長く待たせてもぉ〜ブツブツ言うよぉ〜』と最もな事を言う。
『……ま、それもそうか』
特別に先生に会うことを許可するとか言っていたが、多分実際先生と俺が話したこともブツブツ言うだろう。
『レンディスがどうかしましたか?』
俺とセイの会話が聞こえたのか、ソティルさんがこちらを振り返る。これ幸いとばかりに、俺はレンディスさんに頼まれ、ソティルさんに会いに来たことを告げる。
正直、ソティルさんにレンディスさんのことを話すかは迷ったところだ。
もしソティルさんがレンディスさんのヤンデレっぷりに恐怖して封印に閉じこもっているのだとしたら、レンディスさんの名前を出せばすんなりとは出て来てくれないだろう。
しかしレンディスさんの名前を伏せて、騙すような形で会わせるのも不味い気がする。
人道的に不味いというのも勿論だが、万が一ソティルさんがレンディスさんを拒否するような態度を取れば、レンディスさんは確実に病む。
そうなれば、取引の話自体が消えてしまうことも十分考えられる。
レンディスさんの話を終え、恐る恐るソティルさんの様子を窺う。拒絶的な態度でなければいいのだが……。
『――……そうですか。トワはレンディスに頼まれてここまで……』
話を聞き終わり、ソティルさんが静かに頷く。
『あの子にもやっと、友達が出来たんですね……!』
ソティルさんが満面の笑みを浮かべ、意味不明な言葉を吐く。
『……え? は? ともだ、ち……?』
俺は何かの聞き間違いか? と呆然と単語を繰り返す。
にこにこと笑いながら、ソティルさんが言葉を続ける。
『反抗期が来て不良になってしまったと心配していたのですが……友達が出来たのならもう安心ですね』
『反抗期……? 不良……?』
あの先生至上主義みたいな男に、反抗期があったとは思えない。ソティルさんから魔力を奪ったことが、反抗と言えば反抗なのだろうか。
そこまで考えたところで、ふと1つの考えに思い浮かぶ。
―― もしかしてソティルさん……レンディスさんが魔力を奪った理由を、反抗期だからとか思ってる……?
内心「いやいや、流石にまっさかー!」と笑いながら、何故か冷や汗が止まらない。
『……ソティルさん、レンディスさんについてちょっとお尋ねしても良いですか?』




