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平凡サラリーマンの絶対帰還行動録  作者: JIRO
第7章【女神編】
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日々読んで下さりありがとうございます。感想やFA、レビュー、ブクマ、評価、本当に励みになっております!

 

 セイは昔を思い出すように、少し遠くを見つめて目を細めるる。


『ボクが目覚めた時には~……人なんていなかったよぉ~?』


『んん……?』


 俺は確認するように『周りに人がいなかったってことか……?』と問いかける。


『ううん~。昔はもっと魔素が濃かったから〜ボクは結構色んなトコをふらふらしたけどぉ~……人と呼ばれてる存在がいなかったよぉ~? 人に似た魔物ならいたけど~』


『え……?』


『人に似た魔物は~そのままの姿で今も残っているのもいるしぃ~人になったのもいる~って感じ? ん~……だから人と言えば人なのかなぁ~?』


 セイは懐かしむようにそんなことを言いながら、『昔はよかったよぉ〜魔素が濃いから、ボクら精霊の行動が制限されるなんてなかったもん〜』とボヤく。その姿が妙に爺臭い。


『セイって……もしかして想像以上に長生き……?』


『人や他の生き物に比べればそうかもぉ〜? 皆ボクより先に動かなくなっちゃうもん〜』


 セイはふよふよと空を舞いながら『寂しいよねぇ〜』と、あまり寂しくなさそうないつも通りの口調で言う。


『まぁでも、新しい生命が生まれてぇ〜環境に適合して徐々に変化していく様子は〜見てて興味深いよねぇ〜』


 セイが満面の笑みを浮かべ『すごいよぉ〜』と明るく言う。精霊はもうずっと、変化らしい変化をしていないそうだ。


『魔素が減って〜ボクら精霊も、消えゆく運命なのかもしれないねぇ〜……』


 セイはいつになく寂し気にそう言った後、『まぁもう充分長生きしたかぁ〜』と笑う。


 結局セイの年齢は分からなかったが、この話しぶりからして、恐らく長い長い……俺には想像もつかないほど長い時を生きているのだろう。


『セイ……その……』


 俺は寂し気なセイに対し何か言葉を掛けたいのだが、いい言葉が見つからない。とにかく勢いのまま思いをぶつけることにした。


『お、俺には……魔素の濃さとか……セイや、他の精霊が消えちゃうのかとかは分からない、けど……でも!』


 元の世界で、環境に合わせて進化してきた種は多くの例がある。

 無論、環境の変化により絶滅してしまった種もいるが、生き残っている種が多いのもまた事実だ。


『他の生き物が環境に適合して進化して来たなら、きっと精霊にもそういう道が残されてるんじゃないか……!?』


 何の力も知識もない俺には、ただ思うことしか出来ない。

 無力さを噛み締めながら、精霊石を握りしめ、強く願う。



『俺は……勉強熱心なセイならきっと、時代が変わってもずっと生きていけると思う……! 生きてて欲しいって……思う』



 その言葉聞き、セイは驚いたように俺を見たあと、『えへへ〜』って嬉しそうに笑い、いつも以上にふよふよと空を舞う。



『精霊は願いを叶える存在らしいし〜トワがそう思ってくれるならきっと叶うねぇ〜』



 セイはそのまま空中でくるくると回りながら、また『えへへぇ〜』と嬉しそうな声を上げる。

 俺の言葉で、セイの心が少しでも軽くなってくれたなら嬉しい。


 そっと精霊石の表面を撫でる。

 無機質なはずの結晶から、仄かな温もりを感じる。

 自分の体温が移っただけかもしれないが、何だかその温もりは、これが生き物なのだと教えてくれている気がした。


『あっ! トワトワぁ〜! もうちょっとで先生? のとこだよ〜! あれあれぇ〜! あの建物中にいる〜!』


 セイがテンション高く、前方を指差す。

 俺も慌てて目を凝らすと、木と木の間に少し小さ目の屋敷が見える。



『あの中に……本物の女神様が……』



 思えばノイから……いや、ディユの森から、遠い遠いところまで来たものだ。俺の異世界生活は森から始まり、そしてまた森に戻って来た。


「何とも……森に縁があるもんだな……」


 すっかり山道を歩くのにも慣れてしまった。

 元の世界に戻ったら、電車で通っていた会社に徒歩通勤出来る気がする。


「……なんてな」


 レンディスさんから先生の人となりを聞く限り、言葉を尽くせば合意の上でレンディスさんに会ってくれそうな気がする。


 そうなれば、俺のミッションは完了だ。


 レンディスさんから、万能薬と元の世界に帰る方法を教えて貰える。


「……どうやって帰るんだろ? 来た時みたいに、突然元の世界に帰ってるのかな……」


 魔法で異世界とのゲートでも開くのだろうか?


「結局……何で俺がこの世界に来たのか……分からなかったな……」


 何も分からないままこの世界に来て、何も分からないままこの世界から去る。


「何しに来たんだか……」


 そう呟きながら、「いや……」と頭を振る。


 もし全部上手く行けば、俺が異世界に来た意味はあった。

 魔王を倒したり、世界を救ったり……そんな壮大な物語の主人公にはなれないけれど。



 ―― 少なくとも、ちっぽけな俺の世界は……



『トワ〜? 何ブツブツ言ってるのぉ〜?』


 セイが不思議そうな顔でこちらを覗き込む。


『あ、ごめん! なんでもない!』


 慌ててそう答えると『そう〜? トワはあいつみたいにならないでね〜?』と真剣な表情でお願いされる。多分、あいつとはレンディスさんのことだろう……。


『な、ならないよ……』


『よかったぁ〜! そういえばトワ、たまによく分からない言葉を使うよねぇ〜? トワしか使わない響き〜』


 セイが言ってるのは日本語のことだろう。かなりこちらの世界の言語に慣れて来たが、やはり未だに思考する言語や、ふとした独り言は日本語になる。


 日本語は俺しか使わないので、サンプル数が少なくてまだ意味が分からないのだと不満そうに言われる。


『これは俺の独自言語って言うか……俺の世界の独自言語、かな……?』


『ん〜……世界が違うと言葉も違うのかぉ〜。人間って難しいねぇ〜……』


 セイが人間離れした……精霊らしい感想をくれる。俺は笑いながら、元の世界の話をする。


『俺の世界だと、住む場所が違えば言葉が変わったりするぞ? ノイとナーエとロワイヨム、全部別の言葉で喋るみたいな感じかな……』


『えぇ〜!? そんなの覚えるの超大変だよぉ〜! ボク、今使ってる言葉を覚えるのもすっごくすっごく大変だったのにぃ〜……』


 セイは目を見開き、『3つもなんて〜……』と弱音を吐く。


『3つって言うか……多分1000、2000以上あるんじゃないか? 俺もよく知らないけど……。俺が知ってる有名な言語だけでもー……10以上あるし』


『えぇ〜!?』


 セイが更に目を見開き、驚愕の声を上げる。こんなに驚いているということは、こちらの世界にはあまり言語がないのかもしれない。確かに俺も、こちらの世界の言語は1種類しか聞いたことがない。精霊語が含まれるのなら2種類だろうか。


 俺としては、もし言葉が何種類もあったら習得が更に困難だったと思うので、1種類でよかった……という気持ちだ。


『何でそんなに言葉が違うんだろうねぇ……?』


『さぁ……?』


 のほほんと雑談をしつつ、屋敷の前に着く。




『……行くぞ、セイ!』



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