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突然の論理の飛躍に、俺は頭が付いていかない。
何故、どうして、そこから『先生の魔力を奪おう』に繋がるんだ……?
あぁ、いや、先生の力がなくなれば、先生に群がる人もいなくなるし、理屈は通っているのか?
でも力を奪われた先生はどうなるんだ……?
レンディスさんは俺の疑問に答えるかのように、歪んだ笑みを浮かべる。
『勿論、先生の魔力の全てを奪ったりはしない。俺と同じだけ長生きして欲しいからな』
この世界では、魔力の強さは寿命にも繋がるはずだ。
更に言えば、魔力は様々な物を動かすエネルギーでもある。
魔力を奪うと言うことは、寿命を奪うことにも、そしてエネルギーを奪うことにも等しい。
『魔力の殆どを失った先生の面倒は俺が見るつもりだった。俺が先生の手となり足となり、先生を支える。先生と2人だけの世界で生きる……素晴らしい考えだと思わないか?』
―― ヤバイ……! この人、ヤンデレタイプか……!
話を聞きながら、薄々『まさか……?』とは思っていたが、レンディスさんは俺様属性ではなく、ヤンデレ属性の人だったようだ。
俺は昔読んでトラウマになった、ヤンデレヒロインの小説を思い出した。
途中までは愛情重めのヒロインの様子を楽しめたのだが、終盤ヒロインが主人公を監禁し始めた辺りで、もう怖くて怖くて仕方がなかった。
どうやら俺にはヤンデレ適性がなかったようだ。
今回はヒロイン……というか先生を閉じ込めようとしているので、立場が逆だが……。
寧ろ先生から力を奪って閉じ込めようとしている辺り、可愛さの残るヤンデレヒロインよりも質が悪い気がする。
益々『下手なことを言ったら殺される……!』と思い、俺が言葉を発せられないでいると、レンディスさんは特に俺の返事も聞かず、話を続ける。
因みにセイも異様な空気に飲まれているのか、珍しくずっと黙ったままだ。
『先生が汚されないように、俺が俺の全てを懸けて守るのに……あんな奴等いらないのに……』
レンディスさんがブツブツと呟く。
最初に『俺の話を聞いて、何処が悪かったのかお前の意見を聞かせろ』とか言っていたが、完全にそれだ。その思考が原因だ!
しかしこれは、第三者が下手なことを言わない方がいいだろう。
俺はガードルさんと『いのちだいじに』を合言葉に行動すると約束したのだ。今ここで失言をしようものなら、恐らく待ち受けるのは死……!
俺はレンディスさんを刺激しないよう気を付けつつ、ぎこちない笑顔を浮かべて『れ、レンディスさんの先生に……それとなく聞いてみますね……? 先生の意見を聞いて……何が駄目だったのか一緒に考えましょう……』と相槌を打つ。
先生自身の言葉なら、きっと聞き入れてくれるだろう。
レンディスさんも納得してくれるかと思いきや『俺は先生に会えないのに……何でお前が先に……』とブツブツ言っている。
いや、こればっかりは仕方なくないか!?
『お、落ち着いて……レンディスさん落ち着いて下さい……』
ひいいぃ……と涙目になりつつ、俺は必死にレンディスさんを宥める。
『まぁ……お前が来なかったら、俺は先生とコンタクトを取ることも出来なかったしな……。仕方ない……お前が先生と会うのを、特別に許可してやる……』
少しブツブツモードから通常モードに戻ってくれたのか、相変わらず上から目線で許可をくれる。
イラッとするものの、ブツブツヤンデレモードよりは俺様モードの方がずっといい。
『因みに……俺が行って先生を説得して……もし先生が封印から出ないって選択をした場合は……その、どうしますか?』
この質問をするのは恐ろしかったが、聞いておかなくてはいけないことだ。
『た、多分……セイの力を借りれば、先生の意思を無視して封印から連れ出すことは可能です』
これは事前にセイに確認済みだ。
セイと封印内にいる2人の人間、どちらが強いのか聞いたとき、セイは自信満々に『当然ボクだよぉ〜』と言っていた。
因みに、何故セイの方が強いのに石にされたのか聞いたところ、まさか石にされるとは思っておらず、『何してるんだろー?』と見守っていたらしい。セイらしい理由に何だか脱力してしまった。
『レンディスさんは……どうしたいですか?』
俺としては先生の意思を優先したいところだが、俺が取引を持ちかけているのはレンディスさんだ。取引相手の意思を確認しておく必要がある。
『―― 俺は……』
……
『休まずすぐ先生のところに行けなんて……レンディスさんは人使いが荒いよなー』
『本当だよ〜! まぁボクはあいつの側にいたくなかったから別にいいけどぉ〜!』
現在、俺とセイは先生に会うために、夕暮れで赤く染まる森を進んでいる。
セイが大分遠くに見えるレンディスさんの屋敷に向かい、いーっと歯を向く。多分、あっかんべーみたいな感じなのだろう。
『ま、まぁまぁ……』
セイを宥めつつ、カードルさん達にも『中の人と接触完了。引き続き調査続行』と光で連絡を送る。
『えーっと……カードルさん達からの返信はー……気を付けて、かな?』
光による暗号通信は、慌てて頭に叩き込んだので少し自信がない。
『 "通信" 魔法とかないのかねー……? セイの声魔法? をもっと遠くで実行するみたいな……』
電話やメールに慣れた俺にとって、通信方法がかなり原始的なこちらの世界は辛い。
『ツウシン……? 遠くで喋るのは、魔法が上手い人なら練習すれば出来るんじゃない〜?』
セイはのほほんとした声で『ボクは自分の魔力が届く範囲なら出来るよ〜』とこともなげに言う。
『へ? セイは出来るのか?』
『出来るよぉ〜。因みにボクは魔素の揺らぎで音を理解してるから〜ここにいてもカードル達が喋ってることが分かるよぉ〜?』
つまりセイを通せば、遠くに声を届けることも、遠くの声を聞くことも出来るわけだ。
『セイ……お前、すごいな……』
『本当〜?! ボク、すごい? すごい〜?』
セイは凄さを全く感じさせない、のほほんとした声で喜ぶ。
改めて、セイと今こうやって意思疎通出来ていることに感動する。
セイの見ている世界がどんなものか分からないので、想像するしかないが、多分魔素を通して全てが可視化された世界なのだろう。
そんな世界から、セイは人間や物の形を理解し、音を理解しているのだ。
一体どれ程の時間をかけ、解析をしたのかなんて想像もつかない。
『セイって…… "何歳" くらいなんだ?』
『ナンサイ?』
歳という概念を上手く伝えられず、日本語が混じってしまう。
『えーっと……あ、蜜草! 蜜草が咲くのを何回見た? 収穫祭とかあって、結構盛り上がってると思うんだけど……』
『えっとね〜……どれくらいだろ〜? すご~くいっぱい?』
『すご~くいっぱいって……』
セイが何歳なのか、全く分からない。
ただ人であるロワが300歳を余裕で超えていたことを考えると、精霊であるセイは更に上を行きそうだ。
『んー……セイが覚えている限りで、1番古い記憶は? その頃人は何してた?』
歴史書のようなものがあるか分からないが、カードルさん辺りに聞けば、大体どれくらい前か分かるかもしれない。
そう思い、セイに問いかける。
『えー……ボクの1番古い記憶~?』




