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『何でお前に、俺と先生の関係を話さなきゃいけねぇんだ? ……と言いたいところだが、俺も今回の先生の態度には大分堪えている……。客観的な意見が欲しい。俺の話を聞いて、何処が悪かったのかお前の意見を聞かせろ』
客観的な意見が欲しい人の態度とは到底思えないな……と思いつつ、俺は『は、はぁ……』と曖昧に返事をする。一体どうやって育ったら、こんな俺様な性格になってしまうんだろうか……?
一応もてなしてくれる気持ちはあるのか、席につくとレンディスさんは何もない所から水の入ったコップを生み出し、人数分机に並べてくれた。多分魔法で出したのだろう。
レンディスさんは自分で出した水を一口飲み、先生について語り始める。
『あー……まず先生の人となりだが、外見はその精霊を見てわかる通り、一言でいえば人知を超えた美しさだ。美しいだけでなく、先生は優しくて、清楚で、可憐で、しかし色っぽさも兼ね備え……』
延々と先生に対する賛美が続く。
取り敢えず要約すると、先生は綺麗で優しく、知識も兼ね備えた素晴らしい人らしい。
『俺は幼い頃、この森で先生に拾われた。先生は見ず知らずの俺に家と食事と知識を与え、ずっと育ててくれた』
レンディスさんがさらりと衝撃的な告白をする。
俺が声もなく目を見開くと、その様子に気付いたレンディスさんが『あぁ?』と不快気に眉を寄せる。
『お前が何を考えてるのかは知らないが、俺の人生において、先生に会えたことが最大の幸福だ。この森に捨ててくれた親に感謝してるくらいだ』
レンディスさんはそう断言する。
親に捨てられたことも、誰かに拾われたこともない俺に、何も言う権利はない。
少し迷った後、『……素敵な先生なんですね』と相槌を打つ。
『そう! 先生は素晴らしい。先生と2人で過ごす世界……それは俺にとって楽園だった』
レンディスさんはその頃の思い出に浸るよう、目を瞑り恍惚とした表情を浮かべる。
『しかし……1人の男がこの森に迷い込み、俺の楽園は壊された……』
レンディスさんの瞳に獰猛な光が帯び、握ったコップがミシミシと音を立てて歪む。
『優しい先生は、迷い込んだ男を助けてやった。男はそれから何度も森に訪れ、先生に会いに来た……』
木製のコップがメキィ!っと凄い音を立てて割れる。
『男だけじゃない。男が先生の噂を広めたのか、老若男女、様々な人間が森にやって来た……』
握っていたコップの破片が刺さったのか、レンディスさんの手からダラダラと血が流れる。レンディスさんはそれすら気付いていないかのように、荒々しい声で言葉を続ける。
『先生の美貌も魔力も知識も、その辺の雑魚とは比べ物にならない。 あいつらは先生にありとあらゆるものを要求した! 魔力! 知識! そして先生自身……!』
レンディスさんから流れ出た血が、机の上に血だまりを作る。そこに勢いよく拳を叩きつけたため、辺りに血しぶきが舞い上がる。
『優しい先生は俺が止めるのも聞かずに、分け与えられるものは何でも分け与えてやった……! 流石に体を差し出すことはなかったが、あいつらはどんどんと増長し、先生への要求を増やしていった……!』
憎悪のこもる声で、レンディスさんが過去を語る。
そして一度心を落ち着かせるように息を吐くと、静かな声で続きを語り出す。
『だから俺はあいつらをこの森から追い出し、森を封印した。あいつらの記憶から先生の存在を消し、世間から先生の存在を隠した』
恐らく、最初に森に迷い込んだ男はレアーレだろう。
レアーレに悪気はなかったのかもしれない。ただ自分の奇跡的な体験、そして森で出会った女神のように美しい人について、他の人に話してしまったのだろう。
そして噂が噂を呼び、どんどん広まってしまった。
時を超え、物語になるくらいに。
レンディスさんも流石に、各地に広まった物語にまでは手が回らなかったのだろう。だから森に住む賢者の話は消され、レアーレの冒険に関するお伽話だけが残った。
『だけど先生は俺の行為を叱った……! 力を持つ以上、人を救うために力を使うべきだと……! 俺に人を嫌うなと……! 人と仲良くしなさいと……!』
血にまみれたレンディスさんが、悲痛な叫び声を上げる。
『俺には先生だけがいればいいのに……!』
先生に叱られた時のことを思いだしたのか、レンディスさんは俯き、聞こえるか聞こえないか程の小さな声でぶつぶつと呟く。
『俺には先生だけでいいのに……先生以外いらないのに……先生がいればそれだけで……』
―― いや、怖い怖い怖い怖い! 色んな意味で滅茶苦茶怖い、この人!
俺は掛ける言葉も見当たらず、ただ音を立てないよう静かにレンディスさんの様子を見守る。
レンディスさんは落ち着いてきたのか、少し顔を上げ、サッと手を振る。
すると血だまりが消え、コップが元通り復活する。レンディスさんの手も出血が止まったようなので、多分治癒魔法も使ったのだろう。
『だから俺は、先生の魔力を奪うことにした』
―― Why……?