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平凡サラリーマンの絶対帰還行動録  作者: JIRO
第7章【女神編】
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日々読んで下さりありがとうございます。感想やFA、レビュー、ブクマ、評価、本当に励みになっております!

 

『こんにちわ〜』


『お、お邪魔します……』


 セイの後に続き、俺もビクビクしながら屋敷の中に入って行く。


 屋敷に入った瞬間、俺は入り口で待ち構えていた男に、憎悪のこもった目で睨み付けられた。


 俺を睨み付けている男は、怖いくらいのイケメンだった。

 年の功は20代後半くらいだろうか?


 全体的に顔面偏差値の高いこの世界だが、その中でもかなり偏差値上位のイケメンだ。ファーレスと組んで写真集でも出せば、飛ぶように売れるだろう。


 ワイルド系……というか俺様系? と言う感じで、無造作に伸ばされた黒髪とつり上がった瞳が雰囲気にあっている。睨んでいるせいもあるだろうが、元々つり目気味なのだろう。


『……先生、その人は?』


 男が低い声でセイに問い掛ける。


 表情、声音でよく分かる。


 この男、滅茶苦茶キレている。

 ブチ切れ寸前を理性でギリギリ抑えている感じが、ヒシヒシと伝わってくる。


『……せ、セイ!? 本当に許可貰えたのか!?』


 俺は思わずセイの方を向き、小声で問い掛ける。


『え~? 貰えたよぉ〜?』


 セイは険悪な男の雰囲気を気にした様子もなく、いつも通りのほほんと答える。


『先生……! 俺の問いに答えて下さいっ!』


 男は俺を睨みつけたまま、セイに再び問い掛ける。


『この人はトワだよぉ』


 男の問い掛けに、セイがのほほんと答える。

 多分、男が聞きたいのはそういう事ではないと思うが……。


 取り敢えず自己紹介をした方がいいか? と思い、恐る恐る男に対して頭を下げる。


『は、初めまして……渡永久と申しま……うわあぁあっ!?』


 挨拶をしている途中、突然俺の顔面スレスレを光の矢のような物が掠め、思わず叫び声を上げる。


 矢が通り過ぎた後、頬に熱を感じそっと手を当ててみると、タラリと血が流れていた。


 ―― な、何だ!? 攻撃された……?


 俺は血の流れる頬を押さえながら、呆然と男の方を見る。


『……俺は今先生に質問しているんだ。お前は黙っていろ』


 先程よりも更に低い声で、男が唸るように言う。

 絶対零度の瞳で睨み付けられ、俺はただただ無言でコクコクと何度も頷く。


 ―― ヤバイ……もっとちゃんと様子を探ってから来れば良かった……


 歓待を受けるとは思っていなかったが、流石にここまで敵意を持たれるとは思わなかった。


 しかし、男も怖かったが、それを上回る程怖い存在がいた。



 ―― セイだ。



『トワを傷付けるのはぁ、ダメだよぉ?』


 セイは静かな声でそう言うと、ふっと姿を消す。

 男は慌てた様に辺りを見回すが、次の瞬間、カハッと血を吐いて地面に倒れ込む。



『……え?』



 俺は突然倒れた男を、呆然と見つめる。


 男はまるで見えない何かに押さえつけられているかのように、苦し気な呻き声を上げながら、再び何度か血を吐いている。


『セ……セイ!? セイがやってるのか!? 止めてくれ! やり過ぎだ!』


 俺は姿の見えないセイに対しそう叫びながら、男のそばにしゃがみ込み、あわあわと様子を伺う。


 ―― と、吐血!? 人が吐血してる場合の対処法って何だ!? どうすりゃいいんだ!?


 止血や心臓マッサージの知識なら多少あるが、吐血に対する対処法は流石に知らない。


 俺はオロオロしながら、必死にセイに対して『止めてくれ!』と呼び掛ける。


『あれぇ〜? 変なことが出来ないように、ちょっと魔素を使って押さえつけたつもりだったんだけどぉ……力加減を間違えちゃったかなぁ?』


 セイはそう言いながら力を緩めたのか、倒れていた男が咳き込みながらフラフラと立ち上がる。


『だ、大丈夫ですか!?』


 慌てて声を掛けながら手を貸そうとすると、『……黙れ』と睨まれ、手を払いのけられる。


 ―― 何かもう、取り付く島もないって感じだ……


 どうすりゃいいんだ……と頭を抱えながら、そっと男の様子を伺う。


 男は治癒魔法でも使ったのか、口の中の血をペッと吐いて口元を拭うと、何事もなかったかのようこちらを向く。


 そして不安さを滲ませる声で、再びセイに対し呼び掛ける。


『先生……?』


 セイは俺が傷付けられたことに対して怒っているのか、少し機嫌の悪そうな声で『だから先生じゃないってばぁ……』と返していた。


『……先生じゃ、ない……? じゃあ……先生の代理か……?』


 男は希望に縋るように、セイに問いかける。


『ボクは先生じゃないし、先生の代理でもなーいー!』


 語尾にあっかんべーとでも聞こえてきそうな様子で、セイの声が響く。


 案の定、その答えは男が求めていたものじゃなかったようで、男は絶望したように地面にしゃがみ込む。




『そんな……! 先生……! 俺はいつまで……! あなたを待てばいいんですかっ……!』




 今にも泣き出しそうな様子の男が、悲痛な叫び声を上げる。


 悲しみに暮れる男の様子を哀れに思ったのか、セイが怒りを鎮めた声でのほほんと話し掛ける。


『よく分かんないけどぉ……君は先生に会いたいのぉ? 先生ってもう1個の封印の中にいる人ぉ? ボクが連れて来て上げようかぁ?』


 セイの言葉に、男がバッと顔を上げる。


『封印を超えられるのか……?!』


 男は即座に立ち上がり、『そもそもお前達はどうやって俺の封印を超えてきた……? 同じ方法で、先生の封印も超えられるのかっ!?』と詰め寄る。


 声のトーン的に、前者よりも後者の質問の方が彼にとって大事なようだ。


 ―― これは……交渉チャンスか……!?


 先程からセイと男の会話を見守ることしか出来なかったが、やっと会話の糸口を見つけた気がする。



『お、恐らく……貴方の言う先生の封印とやらも、俺とセイなら超えられると思います』



 もし魔法系の封印じゃなかったら超えられないが、そこはハッタリをかますことにした。多分魔法系の封印だろう。そうであってくれ。頼む。




『改めて……初めまして、渡永久です。封印を超え、突然お屋敷にお邪魔してすみません。俺と、取引しませんか?』




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