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『こんにちわ〜』
『お、お邪魔します……』
セイの後に続き、俺もビクビクしながら屋敷の中に入って行く。
屋敷に入った瞬間、俺は入り口で待ち構えていた男に、憎悪のこもった目で睨み付けられた。
俺を睨み付けている男は、怖いくらいのイケメンだった。
年の功は20代後半くらいだろうか?
全体的に顔面偏差値の高いこの世界だが、その中でもかなり偏差値上位のイケメンだ。ファーレスと組んで写真集でも出せば、飛ぶように売れるだろう。
ワイルド系……というか俺様系? と言う感じで、無造作に伸ばされた黒髪とつり上がった瞳が雰囲気にあっている。睨んでいるせいもあるだろうが、元々つり目気味なのだろう。
『……先生、その人は?』
男が低い声でセイに問い掛ける。
表情、声音でよく分かる。
この男、滅茶苦茶キレている。
ブチ切れ寸前を理性でギリギリ抑えている感じが、ヒシヒシと伝わってくる。
『……せ、セイ!? 本当に許可貰えたのか!?』
俺は思わずセイの方を向き、小声で問い掛ける。
『え~? 貰えたよぉ〜?』
セイは険悪な男の雰囲気を気にした様子もなく、いつも通りのほほんと答える。
『先生……! 俺の問いに答えて下さいっ!』
男は俺を睨みつけたまま、セイに再び問い掛ける。
『この人はトワだよぉ』
男の問い掛けに、セイがのほほんと答える。
多分、男が聞きたいのはそういう事ではないと思うが……。
取り敢えず自己紹介をした方がいいか? と思い、恐る恐る男に対して頭を下げる。
『は、初めまして……渡永久と申しま……うわあぁあっ!?』
挨拶をしている途中、突然俺の顔面スレスレを光の矢のような物が掠め、思わず叫び声を上げる。
矢が通り過ぎた後、頬に熱を感じそっと手を当ててみると、タラリと血が流れていた。
―― な、何だ!? 攻撃された……?
俺は血の流れる頬を押さえながら、呆然と男の方を見る。
『……俺は今先生に質問しているんだ。お前は黙っていろ』
先程よりも更に低い声で、男が唸るように言う。
絶対零度の瞳で睨み付けられ、俺はただただ無言でコクコクと何度も頷く。
―― ヤバイ……もっとちゃんと様子を探ってから来れば良かった……
歓待を受けるとは思っていなかったが、流石にここまで敵意を持たれるとは思わなかった。
しかし、男も怖かったが、それを上回る程怖い存在がいた。
―― セイだ。
『トワを傷付けるのはぁ、ダメだよぉ?』
セイは静かな声でそう言うと、ふっと姿を消す。
男は慌てた様に辺りを見回すが、次の瞬間、カハッと血を吐いて地面に倒れ込む。
『……え?』
俺は突然倒れた男を、呆然と見つめる。
男はまるで見えない何かに押さえつけられているかのように、苦し気な呻き声を上げながら、再び何度か血を吐いている。
『セ……セイ!? セイがやってるのか!? 止めてくれ! やり過ぎだ!』
俺は姿の見えないセイに対しそう叫びながら、男のそばにしゃがみ込み、あわあわと様子を伺う。
―― と、吐血!? 人が吐血してる場合の対処法って何だ!? どうすりゃいいんだ!?
止血や心臓マッサージの知識なら多少あるが、吐血に対する対処法は流石に知らない。
俺はオロオロしながら、必死にセイに対して『止めてくれ!』と呼び掛ける。
『あれぇ〜? 変なことが出来ないように、ちょっと魔素を使って押さえつけたつもりだったんだけどぉ……力加減を間違えちゃったかなぁ?』
セイはそう言いながら力を緩めたのか、倒れていた男が咳き込みながらフラフラと立ち上がる。
『だ、大丈夫ですか!?』
慌てて声を掛けながら手を貸そうとすると、『……黙れ』と睨まれ、手を払いのけられる。
―― 何かもう、取り付く島もないって感じだ……
どうすりゃいいんだ……と頭を抱えながら、そっと男の様子を伺う。
男は治癒魔法でも使ったのか、口の中の血をペッと吐いて口元を拭うと、何事もなかったかのようこちらを向く。
そして不安さを滲ませる声で、再びセイに対し呼び掛ける。
『先生……?』
セイは俺が傷付けられたことに対して怒っているのか、少し機嫌の悪そうな声で『だから先生じゃないってばぁ……』と返していた。
『……先生じゃ、ない……? じゃあ……先生の代理か……?』
男は希望に縋るように、セイに問いかける。
『ボクは先生じゃないし、先生の代理でもなーいー!』
語尾にあっかんべーとでも聞こえてきそうな様子で、セイの声が響く。
案の定、その答えは男が求めていたものじゃなかったようで、男は絶望したように地面にしゃがみ込む。
『そんな……! 先生……! 俺はいつまで……! あなたを待てばいいんですかっ……!』
今にも泣き出しそうな様子の男が、悲痛な叫び声を上げる。
悲しみに暮れる男の様子を哀れに思ったのか、セイが怒りを鎮めた声でのほほんと話し掛ける。
『よく分かんないけどぉ……君は先生に会いたいのぉ? 先生ってもう1個の封印の中にいる人ぉ? ボクが連れて来て上げようかぁ?』
セイの言葉に、男がバッと顔を上げる。
『封印を超えられるのか……?!』
男は即座に立ち上がり、『そもそもお前達はどうやって俺の封印を超えてきた……? 同じ方法で、先生の封印も超えられるのかっ!?』と詰め寄る。
声のトーン的に、前者よりも後者の質問の方が彼にとって大事なようだ。
―― これは……交渉チャンスか……!?
先程からセイと男の会話を見守ることしか出来なかったが、やっと会話の糸口を見つけた気がする。
『お、恐らく……貴方の言う先生の封印とやらも、俺とセイなら超えられると思います』
もし魔法系の封印じゃなかったら超えられないが、そこはハッタリをかますことにした。多分魔法系の封印だろう。そうであってくれ。頼む。
『改めて……初めまして、渡永久です。封印を超え、突然お屋敷にお邪魔してすみません。俺と、取引しませんか?』