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日々読んで下さりありがとうございます。第7章スタートです!
『じゃ、行ってきます!』
『行ってきまぁす』
デエスの森の前で、俺はビシッと敬礼ポーズを決めながら、力強く声を上げる。
俺とは対称的に、力の抜けるような声を上げているのはセイだ。
とうとう、俺がもう1度デエスの森に入ると約束していた日がやって来た。
『トワ、無茶はするなよ?』
『気を付けてね!』
『……あぁ』
『無事を祈っております』
カードルさん、フィーユ、ファーレス、レタリィさんが口々にそう言いながら、俺を送り出してくれる。
ザソンさんは俺に近付くと、肩を組むふりをして耳元でそっと囁く。
『……レタリィから何を言われようと、諦める気はないから』
言い終わると俺の肩をバンバン叩き、『あっはぁ~! がんばってねぇ~! 期待しているよぉ~!』といつもの口調で笑う。
『分かってます。期待しててください』
俺は真剣な表情で頷く。
俺の返答を聞き、ザソンさんは演技ではない素の表情で、驚いたようにこちらを見た。何だか少し気分が良かった。
―― 大切な人を失う悲しみも、残される辛さも、理解できる。
期待しててくださいなんて、大言壮語も甚だしいが。
「……俺が、上手くやれば」
ぐっと拳を握りしめ、目を瞑る。
―― 神様はいるんだって、奇跡はあるんだって、信じさせてくれ……!
『トワぁ、早く行こぉ! 道案内はボクに任せてぇ!』
セイは遠足にでも行くかのような声音で、楽しそうに俺を急かす。
肩の力が少し抜ける。俺は精霊石を撫で、セイに声を掛ける。
『おう。よろしくな、セイ!』
『おー!』
……
定期的にセイの魔法で連絡用の光を打ち上げて貰いながら、俺は足早に森を進んで行く。森に入って1時間程経過したところで、セイがふわりと実体化する。
『はぁ~……ここは魔素が濃くて落ち着くねぇ~……』
温泉にでも浸かっているかのようにリラックスした声で、セイは嬉しそうに言う。
『セイが実体化出来たってことは、そろそろ封印内に入ったのか?』
『そうだねぇ~! 刻印の場所までもうちょっとだよぉ~』
セイはふよふよと飛びながら『こっちこっちー』と道案内をしてくれる。
セイの案内に従って少し歩くと、大きな岩のような物が見えてきた。
『これこれぇ~! ここに刻んであるみたいだよぉ~!』
セイが指差した側の岩の表面を見れば、複雑な紋章が細やかに刻まれている。
『はぁー……これが刻印か……すごいなぁー……』
俺はスマートフォンを取り出し、何枚か写真を撮りながら、刻印をじっくりと見つめる。
繊細かつ壮大なその模様は、まるで1つの芸術品のようだった。
『セイはこの刻印の意味、分かるのか?』
『ん~……模様だけじゃよく分かんないなぁ~……魔力を流してくれれば分かるかもぉ~』
『ん~……それはちょっと無理かなぁ~……』
セイの言葉に、苦笑しながら答える。
俺は魔力を持たないからこそ、封印内に入ってこれたのだ。
『セイも魔法が使えるんだし、自分自身の魔力を流したり出来ないのか?』
今ここで魔力を流されてしまうと封印が発動してしまうから、俺が離れてから魔力を流して欲しいが。
『ん~……ボクの魔法は人が使ってる魔法とはちょっと違うんだよねぇ……人の持つ魔力は、ボクの持つ魔力と性質が異なるんだよぉ。人の魔力はそれぞれ色がついていて、ボクの魔力は無色透明~みたいな?』
よく分からないが、人と精霊では魔力の質が異なるらしい。
『そうなのか……まぁこの写真を見せれば、専門家が解読してくれるか』
『そうだねぇ~』
俺は刻印の理解を諦め、セイの方を見る。
『さて……じゃあ、封印内にいるっていう人の場所まで、案内してくれるか?』
『任せてぇ~!』
俺の言葉に、セイは意気揚々と答える。
ここからが、本番だ。
……
セイの案内に従い歩くこと1時間ほど。
途中何体か魔物にも遭遇したが、相変わらず俺はスルーされた。
一応スマートフォンで魔物の写真を残しておく。
『なんつーか……カードルさんとかフィーユに滅茶苦茶心配されたけど……本当ピクニックって感じだな……』
今のところ、俺はセイと雑談をしながら森の中を歩いているだけだ。
『トワが危険な時は、ボクが魔法で守るから安心してぇ!』
魔物が襲ってこないうえに、セイという超強力な護衛までいる。
精霊に護衛して貰っている人間なんて、俺以外にいないのではないだろうか。
『ありがとなーセイ。本当助かるよ。頼りにしてるぜ!』
『えへへぇ~』
俺の言葉に、セイが嬉しそうに笑う。
『きゅー……』
その時、鞄から不満げな鳴き声が響く。
『……まさか!』
俺が慌てて鞄を探ると、底の方に隠れるようにしてもちが入っていた。
『もち! お前また俺の鞄に忍び込んだのか!』
『きゅー?』
何のこと? とでも言うように、もちが可愛らしい鳴き声を上げる。
俺は溜息を吐き、もちのほっぺをむにーっとつまむ。
『何があるか分かんないんだから、大人しくしてるんだぞ?』
『きゅっ!』
お利口な返事をしたもちを、いつも通り頭に乗せる。もちのマシュマロボディが頭にフィットして、程よい重さが心地よい。
『……なんか落ち着く』
そんな俺達の様子を見ながら、セイはのほほんと笑う。
『トワももちもボクが守って上げるからねぇ~』
『きゅー!』




