表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
平凡サラリーマンの絶対帰還行動録  作者: JIRO
第6章【デエスの森編】
128/194

120

日々読んで下さりありがとうございます。感想やFA、レビュー、ブクマ、評価、本当に励みになっております!

 

 昨日と同様、レタリィさんが扉の前に立っている。


 ―― レタリィさんは、ザソンさんの行動をどこまで知っているんだろう……


 俺はそっとレタリィさんの様子を観察する。

 ザソンさんの言う「内緒」の範囲がどこまでか分からない以上、下手なことは言えない。


 ―― レタリィさんを部屋に入れていいのか……?


 昨日までの俺なら、何の疑いもなくへらへらと笑いながら『どうぞ~』なんて言っていただろう。

 そこまで考えたところで、今更警戒しても無意味か……と思う。


 これまでの俺は、警備も連れず本当に無防備だった。

 何かするつもりがあるなら、昨日の時点でしているだろう。


 そんなことを考えていると、レタリィさんが口を開く。


『先程カードル様とすれ違い、これからトワの部屋へ行くと言ったら、伝言を頼まれたのですが……』


『伝言?』


『はい。何でも話があるから、部屋に来て欲しいと。私もカードル様にお話があるので、一緒に行きましょう』


 多分、カードルさんの呼び出しは嘘だろうな……と直感的に思った。

 しかしフィーユとファーレスがいる以上、呼び出されているのに行かないのは不自然だ。


 ―― 問題は、フィーユとファーレスを連れていくか……だよな。


 ファーレスは強い。

 守る対象が1人なら、問題ないだろう。俺は足手纏いにしかならない。

 俺とフィーユ、守る対象が2人になれば、それだけ気を回す必要が出てくる。


 ―― 封印内に入れるのは俺だけ。なら、俺が殺される可能性は低い……はず。


 そう考え、俺はファーレスの方を向き声を掛ける。


『ファーレス、ちょっと出てくる。フィーユのこと、頼む』


『……あぁ』


 何の事情も知らないファーレスが、こちらを見ながら頷く。

 俺1人でカードルさんのところへ行くことは、これまで何度もあったことなので、フィーユも特に疑うことなく『行ってらっしゃい! 帰って来たら昨日の話の続き、しようね!』と笑顔で手を振っている。


『じゃあレタリィさん、行きましょうか』


『……はい』



 ……



 廊下を歩きだして数分、レタリィさんが口を開く。


『トワ……最初から色々と理由をつけて、貴方だけを呼び出すつもりでしたが……少し危機感が足りないのではないですか?』


 やはりレタリィさんは、俺だけを呼び出すつもりだったようだ。

 計画通りのはずなのに、説教されるとは何だかおかしな話だ。


『そうですね……。でももし強硬手段を取るつもりなら、これまで何度も機会があったはずです。俺は……俺達は、本当に無防備でしたから。取らなかったということは、そんなつもりはない……ということですよね?』


『それは……まぁ、そうですが……』


 レタリィさんは納得がいかなさそうな表情をした後、話題を変えるように一度頭を振る。頭の動きに合わせ、マラカイト色の髪が揺れる。


『すみません。お気づきかも知れませんが……カードル様の呼び出しというのは、嘘です』


『……はい』


 それは予想通りだ。

 問題は、この後だ。

 俺だけを呼び出して、何の話がしたいのか。


『トワ……貴方に、お話したいことがあって……』


 切なげにそう切り出す態度が、どこまで本気で、どこまで演技なのかは分からない。


 ただ、これまで氷のようだと感じていたレタリィさんが感情を露わにする様子は、とても美しいと感じた。


『……話って、なんですか?』


 ザソンさんの時と同様に、レタリィさんに問いかける。

 右手を、さり気なく腰の銃に触れながら。


『今日、ザソンから……万能薬を手に入れろと……女神様から盗み出せと、お話があったと思います』


『……知ってたんですか』


『……ザソンが動くかと思い、少し遠くからトワを見張っていました。会話は、魔法で聴力を強化して聞いていました』


『……そうですか』


 この話ぶりだと、ザソンさんとレタリィさんは共犯じゃないのだろうか?

 レタリィさんが昨夜突然訪ねて来て『護衛をお願いした方がいい』と言ったのも、ザソンさんを警戒していたのだろうか?


 ―― そう思わせる作戦かもな……。


 疑いたくないのに、疑心暗鬼になる。


『すみません……! ザソンの言動を、許して欲しいとは言いません……! けれど恨むなら、どうか私を恨んで下さい……! 全ては、私のせいなんです……!』


 突然、謝罪と共にレタリィさんがバッと頭を下げる。

 予想外の展開に少し呆然とした後、ハッと気づく。


 ―― 『どんな怪我や病気でも治すとか、色んな噂があるみたいだけどねぇ~』


 ザソンさんの言っていた、万能薬の効能。

 自分のせいだという、レタリィさんの言葉。



『もしかして……レタリィさんは……何か、病気を……?』



 自分の考えが正しいのか、そして正しかった場合、ハッキリと問いかけていいのか分からず、語尾が曖昧に消える。

 しかしレタリィさんはしっかりと聞き取ってくれたようで、小さく頷く。


『……はい。ザソンが万能薬を求めているのは、私の病気を治すためです』


 そう言って、レタリィさんは言葉を続ける。


『通常、こちらの世界の怪我や病気は、回復魔法で身体の治癒力を向上させることで、殆どの場合何とかなります。ですが……私の身体は生まれつき、治癒力が非常に弱かったのです』


『治癒力が……弱い……?』


『はい。簡単に説明すると、怪我をしたり体調を崩すと治らない……という感じですね』


 俺はレタリィさんの言葉に、目を見開く。

 そんなの、普通の生活もままならないはずだ。


『幼い頃の私は、魔法によって作られた安全な部屋から出ることが出来ませんでした。でもその部屋にずっといても……本当はもう、死んでいたはずなのです』


 レタリィさんが淡々と話す。

 魔法によって作られた安全な部屋……というのは、きっと病院の無菌室のような部屋なのだろう。




 真っ白な空間。

 身体に伸びる、様々な管。


 呼びかけても開かない、瞳。




 俺は元の世界で見た病院の様子を思い出し、思わず目を瞑る。

 レタリィさんの顔が、見れなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ