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平凡サラリーマンの絶対帰還行動録  作者: JIRO
第6章【デエスの森編】
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日々読んで下さりありがとうございます。感想やFA、レビュー、ブクマ、評価、本当に励みになっております!

 

『えー……後ろの人、見えますかー? 聞こえますかー? じゃあ今日は、オムレツの作り方でーす。これは材料が卵だけなので、一見簡単そうなのですが、ふわふわに作るのにはコツがあってー……』


 俺は説明を交えながら、実際にオムレツを作っていく。


『ソースは前も作ったので、もうご存知の方も多いかもですが、トマトを煮込んで作るソースでーす。まだ作ったことがない方は、前の方にお願いしまーす』


 ケチャップも勿論手作りだ。

 手際よくトマトを刻み、煮込みながら厨房内を見渡す。


 俺の教える異世界料理教室は、相変わらず大盛況だ。

 今日も沢山の生徒さん達が、厨房と食堂に集まっている。


『はい、これで完成でーす。味見したい方、いますかー? 質問ある方も前にお願いしまーす』


 俺はお手本として作ったオムレツを何人かに差し出しながら、料理に関する質問に答えていく。

 質問される内容は様々だが、味付けやアレンジ料理について、あとは上手くいかないのだが何が悪いのか……といった内容が多い。


 最近は顔見知りの生徒さんも多くなり、質問対応も慣れてきた。

 俺はにこやかに、どんどん質問を捌いていく。


 大体の質問を捌き終わったかなーというところで、頭に布を巻いた1人の男が近づいてくる。


 ―― えらいガッツリ布巻いてるな……


 料理教室なので、コック帽を被ったり、手ぬぐいのようなものを巻く人も多いが、近づいて来た男は頭髪が一切見えない徹底っぷりだ。


 ―― あれ……? でもなんか、見覚えがあるような……


 切れ長の目元に見覚えがあるような気がして、近付いてくる男をじっくりと見つめる。


 ―― ヤバイ、ちょっと見過ぎた……


『あ、質問ですか? なんでしょうかー?』


 俺は慌てて笑顔を取り繕い、男に声を掛ける。

 すると男はスッと俺の肩に腕を回す。いわゆる、肩を組んでいるような形だ。


 ―― なななななんだ!? 異様に距離感が近い人だな!?


 突然肩を抱かれて動揺していると、ヒヤリと、何か冷たい物を首筋に当てられる。そのまま優しく、男は俺の耳元で囁く。




『……やぁ、トワ。動いたらちょ~っと別の世界に旅立ってしまうから、動かないでねぇ〜? 声も出しちゃダメだよぉ〜? 騒いだらサクっと首を切っちゃうからねぇ〜?』




 ニコニコと笑うその男は、ザソンさんだった。

 真っ赤な長髪を隠されると、印象が違い過ぎて全く気付かなかった。


 ザソンさんは笑顔のまま、言葉を続ける。

 表情こそ笑顔だが、目が全く笑っていない。滅茶苦茶怖い。


 多分この男は、ここで俺が騒ごうものなら、本気でサクッと首を切るだろう。


『ちょ~っとふたりっきりでお話がしたいんだよねぇ〜? この後、時間貰えるかなぁ〜?』


『は、はい……』


 俺は冷や汗を垂らしながら、小声で返事をする。


『勿論、カードル達には内緒でねぇ〜?』


『はい……』


『約束を守ってくれれば、君や周りの子達にも危害は加えないからさぁ〜? フィーユちゃんだっけ? あの子が傷付く姿は見たくないだろぉ〜? 私も可愛い女の子には、優しくしたいからねぇ〜?』


『……はい』


 ザソンさんは笑顔のまま王道的な脅し文句を吐いた後、俺の返事を聞いて満足げに頷くと、スッと離れワザとらしい声を上げる。


『なるほどぉ〜! フライパンに油をひけばよかったんですねぇ〜! ありがとうございましたぁ〜!』


 料理の質問をしていたのだという演技をして、俺に頭を下げると手を振って離れていく。


 俺は物凄い勢いで脈打つ心臓を、必死に落ち着かせる。


 ―― 脅し?

 ―― なんでザソンさんが?

 ―― やっぱりデエスの森についてか?


 恐怖で頭が働かない。

 思考が真っ白だ。

 冷や汗が止まらない。


 ―― カードルさんに相談したい……。でも、もし、喋ったことがバレたら……


 料理教室には騎士団の人が付いてくれているが、カードルさんはいない。


 この世界にどんな魔法があるか分からない。

 盗聴のような魔法もあるのかもしれない。


 ―― 疑われるようなことをして、フィーユ達に万が一のことがあったら……


 俺はゴクリと唾を飲む。

 フィーユの方を見れば、お手伝いとして厨房内で忙しなく働いている。


 ―― どうすりゃいいんだよ……



 ……



 うだうだ悩んでいる間に、料理教室が終わってしまう。


『トワー! お部屋戻る前に、ファーレスの訓練見に行くー?』


 いつもは料理教室が終わった後、ファーレスが訓練している所にお邪魔したり、街へ買い出しに出たりしている。フィーユもいつも通り、笑顔で誘ってくれる。


 ―― とにかく、フィーユはファーレスの所に行かせた方が、安全だよな……


『あ、あぁ……。ごめん……ちょっとお腹痛くて……。後で合流するから、先にファーレスのところに行っててくれ』


『大丈夫? 朝ごはん、食べ過ぎちゃった?』


『あー……うん、そうかも……』


 俺はフィーユの言葉に曖昧な返事をしつつ、騎士団の人に『すみません、フィーユをファーレスの所まで送ってもらっていいですか?』と声を掛ける。

 顔馴染みとなった騎士団の人も『おぉ、了解』と軽く請け負ってくれる。


 ―― これで、フィーユは大丈夫……だよな?


『じゃあトワ、お大事にね! 先に行ってるね!』


『うん……気を付けて』


 俺はぎこちなく笑顔を作り、フィーユを見送ると、トイレがある方へ歩いていく。俺が1人になれば、多分ザソンさんも来るだろう。


 丁度廊下に人気がなくなった頃、ザソンさんがどこからともなく姿を表す。



『やぁ』



 笑顔で片手を上げ、ザソンさんが軽く挨拶をする。

 俺は渇いた喉を潤そうと、唾を一度飲みこんだ後、震える声で問いかける。



『……話って、なんですか?』



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