表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
平凡サラリーマンの絶対帰還行動録  作者: JIRO
第6章【デエスの森編】
123/194

115

日々読んで下さりありがとうございます。感想やFA、レビュー、ブクマ、評価、本当に励みになっております!

 

 普段と異なるザソンさんの様子に、俺はゴクリと息を呑む。

 なかなか胡散臭い人だとは思っていたが、やはりあのハイテンションは演技だったのだろうか。


 周囲が先程よりも、更に重い空気に包まれる。



『……黙るのは、貴方の方です』



 そんな空気の中、レタリィさんはぼそりとそう呟くと、受け止められた手とは逆の手で、ザソンさんの頭に手刀打ち……いわゆるチョップをかました。


『……へ?』


 まさかここでレタリィさんのチョップが炸裂するとは思わず、俺は思わず声を上げてしまう。

 カードルさん達も驚いたように、レタリィさんとザソンさんの様子を窺う。


 チョップされたザソンさんも、呆然とした様子でレタリィさんを見つめていた。


 数分の沈黙の後、ザソンさんは小さく溜息を吐くと、いつも通りの口調で『……あっれぇ~? 私、結構マジトーンだったんだけどなぁ〜?』と笑う。

 先程までの重苦しい雰囲気を感じさせない、ふざけた口調だった。


『……貴方は結果を急ぎ過ぎなのです』


 レタリィさんが溜息を吐きながら、ザソンさんの頭をもう一度小さく小突く。


『あっはぁ~? いたっ、ちょ、本当に痛いよレタリィ~?』


 小突かれた後、そのまま耳たぶをつねられたようで、ザソンさんが『痛いっ! すっごぉ~く地味に痛い!』と悲鳴を上げる。

 空気が緩んだのを感じ、俺はここぞとばかりに声を上げる。


『あ、あのっ! まずは俺が中の人に話を聞く……ってことでどうでしょうか? ついでに刻印の写真も撮ってきます。封印を解くとか解かないとか……それはその結果次第でまた話し合うってことで……その、どうでしょう?』


 結論を先延ばしにするだけの提案ではあるが、俺が中の人に詳しい話を聞ければ、話し合いを進められるはずだ。話を聞けなかったとしても、刻印の内容が分かれば専門家の意見を聞けるかもしれない。


『そうだな……だが、トワひとりで中の人物に接触するのは……危険過ぎないか?』


 カードルさんは俺の提案に頷きつつ、心配そうに俺の方を見る。


『安全策を取るなら、まずはトワに刻印の情報を持ち帰って来て貰い、我々が内容を解読し、一部の人間だけが封印を通れるように内容を書き換えた上で、トワと共に森へ……』


『あっはぁ~? 刻印の解読に内容の書き換えって……何日掛かると思ってるのさぁ~?』


 カードルさんの提案を、ザソンさんが遮る。

 再び険悪な雰囲気を感じ、俺は慌てて2人の間に割って入る。


『ど、どうせ俺は中の人に帰る方法とかも聞きたかったので! セイもいますし、何かあっても大丈夫ですよ! セイ、俺が危ない時は魔法で守ってくれるよな?』


『任せてぇ〜』


 セイがのほほんと返事をしてくれる。

 封印内は魔素が濃いようなので、セイも魔法を使いたい放題だろう。


『……うむ。ではセイ、トワをよろしく頼む……。トワ、貴公はなかなか無茶をしがちだ。危険な真似はするなよ?』


 カードルさんは、俺の無茶な行動……貴族に逆らったり、牢屋に忍び込んだりしたことを知っているので、釘を刺すように言う。


『はは……俺は常に「いのちだいじに」を作戦にしてるはずなんですけどね……』


 俺は苦笑しながらカードルさんの言葉に頷く。自分の行動を思い返すと、どう考えても「ガンガンいこうぜ」で進んできた気がする。

 

『今日はもう日が暮れる。準備を整え、日を改めてまた来よう』


 カードルさんはそう言うと、荷物をまとめ始める。


『あっはぁ〜? 勿論、私立ち会いのもとだよねぇ〜?』


 ザソンさんがずずずずずっと迫ってくる。

 俺はやんわりと断るため、 『け、結果は連絡しますので……』と言葉を続ける。


『レタリィ! スケジュール調整、よろしくねぇ〜!』


『……言うと思ってましたよ……』


 ザソンさんは俺の返答を無視し、ビシッとレタリィさんに命令を下す。

 レタリィさんも諦めた様子で、スケジュールが書かれた板を鞄から取り出す。


『えーっと、じゃあ……俺も料理教室の予定とかがあるので……ザソンさんのスケジュールと調整しつつ……』


 俺も溜息を吐きながら、レタリィさんとスケジュール調整を行う。

 レタリィさんは優先度の低い会合をズラすことに決めたようで、また5日後に改めてデエスの森に挑むことになった。


 恐らくこの後のレタリィさんは、日程調整のために色んな所へ頭を下げて回るのだろう。俺は憐憫に満ちた視線で、レタリィさんを見送った。



『じゃあ、また5日後に……』



 ……



『はぁー……つかれたぁー……』



 部屋に戻り、俺は勢いよくベッドに寝転がる。

 長い長い1日だった。


『お疲れ様、トワ』


 フィーユがぎゅっと俺に抱き着いてくる。


『ありがとう。フィーユもずっと外にいて疲れただろ?』


『私はトワを待ってる間、殆ど座ってたから……大丈夫!』


 元気よく返事をするフィーユの頭を撫でながら、『5日後かー……あー……料理教室の準備もしないとー……』と俺はぶつぶつ呟く。


『私もお手伝いするね! 今度は何作るの?』


 フィーユがワクワクとした表情で問いかける。

 料理教室は俺ひとりでは手が回らず、フィーユも助手のように手伝ってくれている。本当にいい子だ。


 スマートフォンのレシピアプリを開き、フィーユとどの料理にしようか話していると、コンコンと扉がノックされる。


『ん?』


『誰だろー?』


『カードルさんか、ファーレスかな?』


 俺はベッドから立ち上がり、扉に向かう。



 ―― 長い1日は、もう少し続くようだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ