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ザソンさんに急かされるように、セイはのんびりと語り出す。
『どこから説明すればいいのかなぁ? この森の精霊に聞いた話だとぉ、中にふたり、人がいるみたいだよぉ』
『……ふたり?』
セイの言葉を聞き、ザソンさんもカードルさんも怪訝そうな顔をする。
『皆が封印と呼んでる魔法もぉ、2重で施されてるみたいー。それぞれの人がやったみたいだよぉ』
続くセイの言葉に対し、カードルさんが敬語で問いかける。
『ふむ……。何故その人間達が封印を施したのか……理由は分かりますか?』
貴族であるカードルさんが敬語で話すということは、精霊は貴族よりも立場が上ということだろうか?
ザソンさんはセイに対し、一切敬語を使っていないが……。
俺がそんなことを考えながら話を聞いていると、セイがカードルさんに対し不満げな声を上げる。
『カードルも敬語じゃなくていいよぉ! んー……理由はよく分かんない。人の言葉が分からない精霊が多いしねぇ』
『あ、セイは個人的に人の言葉を勉強したので、人の言葉を理解して喋れているんです』
俺はセイだけがちょっと特殊なのだと補足する。
『成程……。セイ様、ありがとうございま……』
カードルさんが敬語のまま話し掛けようとすると、セイが『敬語ぉ!』と再び不満げに声を上げる。
カードルさんは少し迷いつつも、『あーうむ……。その、セイ。情報提供、感謝する』と言い直す。
『あー……それで、その、森の中は危険な魔物……強い魔物が多いのか?』
カードルさんはセイに対し対等な口を聞くのが慣れないのか、話しづらそうにしながら、一番気になっていたであろうことを質問する。
『んー……? 魔力量的に、カードルより強い魔物はいないよぉ』
『そうか……!』
セイの言葉を聞き、カードルさんは安堵したように溜息を吐く。
強い魔物を閉じ込めるために封印を張ったという説が否定され、ロワイヨムを守るカードルさんは大分気が楽になったようだ。
『あっはぁ~! その中にいる人間のうち、1人が女神様なのかぁ~い!?』
ザソンさんはいつものテンションに戻り、いや、いつもよりもテンション高く、セイに問いかける。
『分かんなぁい』
セイは『あははぁ』と笑いながら、ザソンさんの問いかけにさらりと答える。
まぁ女神様というのは人間がつけた呼称なので、分からないのは当然だろう。
ザソンさんもそれは理解しているのか、セイの回答にそれほど落胆した様子はない。
『あっはぁ~! ち、な、み、に! この森の精霊に聞いて、刻印の場所は分かったのかぁ~い?』
『うん、分かったよぉ』
ザソンさんは目を輝かせながら問いかけ、セイがのほほんと答える。
『あっはぁ~! 素晴らしい、素晴らしい、素晴らしいっ!! 早速トワに刻印を破壊してもらって、私達も森に入ろうじゃないかぁ~!』
ザソンさんはハイテンションのまま歌うようにそう言い、俺の方を見てウインクする。
しかし、ザソンさんの言葉にカードルさんが目を見開き、厳しく叱責する。
『待て、ザソン! そんな安易に封印を解いていいわけがないだろう!?』
『あっはぁ~? 強い魔物はいないって言ってたじゃないかぁ~! なら問題ないだろう~?』
『大ありだ! 1体1体はそれほど強くなくとも、群れになればまた別だ! それに魔力が少なくても、脚力が高い魔物や防御力が高い魔物、特殊な毒を吐く魔物もいる! 魔物だけでなく、中にいる人物が危険ということも考えられる! 私は安全が確認出来るまで、封印を解くことは反対だ!』
カードルさんは厳しい声で『よく考えろ!』とザソンさんを怒鳴りつける。
ザソンさんを叱責するカードルさんは物凄い迫力で、普段の優しいカードルさんとは大違いだ。
これが王国騎士団をまとめ上げる、団長としての姿なのだろう。
『あっはぁ~! 魔物が出たら、君達騎士団が倒せばいいじゃないかぁ~! それが君達の仕事だろぉ~?』
カードルさんの叱責を受けても、ザソンさんは意見も態度も変えず、『状況が変わったらどうするんだぁ~い? 封印を解ける条件が揃うなんてこんな奇跡、今を逃したらもう二度とないだろぉ~?』と言葉を重ねる。
封印を解ける条件というのは、魔力を持たず、封印の影響を受けない俺という存在。そして刻印の場所へ案内出来るセイの存在だろう。
確かにザソンさんの言う通り、状況が変わり……例えば俺が命を落としたり、ナーエの時のように精霊石が何者かに奪われてしまったら……外部から封印を解くのは不可能だろう。
『最近はどこも魔力不足や魔石不足に嘆いているそうじゃないかぁ~? デエスの森の封印を解けば、それが解消されるかもしれないよぉ~?』
ザソンさんが森の封印を解くよう、カードルさんを説得する。
こちらの世界でも、エネルギー不足や資源不足という問題を抱えているようだ。
魔素の濃いデエスの森は、言わば採掘可能な油田のようなものなのかもしれない。
『馬鹿を言うな! 魔力や魔石を得るために、魔力や魔石を必要とするものが死ぬような事態になれば本末転倒だ! 封印内の調査は続けたいと思っているが、現時点で封印を解く気はない!』
カードルさんがザソンさんを睨みつけ、険悪な空気が流れる。
『ザソン、いい加減にしてください』
その時、険悪な雰囲気を壊すように、レタリィさんが鋭く言い放ち、ザソンさんに向かって手刀を放つ。これでいったん決着かな、と思ったその時、ザソンさんがレタリィさんの手刀をパシッと手で受け止める。
『……レタリィは少し、黙っていてくれ』
そう発したザソンさんの声は、これまで聞いたことのないような低い声だった。