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俺はザソンさんにグイグイ詰め寄られながら、状況を説明する。
『ふ、封印は多分……抜けました』
俺の言葉に、カードルさんとザソンさんが揃って『おぉ!』と歓声を上げる。
『で、でも、女神様には会えてなくて……刻印も見つけられてません……』
続く俺の言葉に、2人は少し肩を落とす。
『た、ただ……精霊? と、会話をしました……』
更に続いた俺の言葉に、2人は揃ってバッと顔を上げる。
『精、霊……?』
カードルさんは信じられないものを見るように、俺の顔を凝視する。
『あっはぁ〜? どういうことかなぁ? ハッキリしっかりすーべーてっ! 話して貰う必要がありそうだねぇ〜?』
ザソンさんは恐ろしい程すごみを感じる笑みを浮かべ、俺に詰め寄る。その様子を見ていたレタリィさんが、ザソンさんを少し小突き『ザソン……』と注意するように名前を呼ぶ。
『あはぁ〜! それはボクから説明するよぉ』
辺りに、気の抜けるのほほんとした声が響く。セイの声だ。
『……あっはぁ〜? そんな間延びした声で、私の決め台詞を真似しないで欲しいねぇ〜? トワのお友達かなぁ〜? 隠れてないで、出て来て欲しいものだねぇ〜?』
決め台詞を真似されてイラッとしたのか、ザソンさんが若干低い声で喋りながら、辺りを見渡す。再びレタリィさんがザソンさんを小突き『失礼ですよ……』と注意する。
『えへへぇ、ごめんねぇ~。ボクはセイ。精霊と呼ばれる存在みたいだよぉ〜』
苛つくザソンさんの態度も意に介さず、セイは相変わらずのほほんとした声で自己紹介をする。
『隠れてるわけじゃないんだけどぉ……んー……ここも結構魔素が濃いし、ちょっとだけなら平気かなぁ……?』
セイはそう呟くと、実体化してふわっと姿を表す。
その姿は、青く半透明で美しい曲線を描く……もちの姿だった。
『あれ? セイ、今回はもちの姿なのか?』
俺が女性の姿にならないのかと問いかければ、『小さい姿の方が、魔素を節約出来るからぁ』とセイが答える。多分表面積が小さい程、使う魔素が少ないのだろう。
『あー……なるほどなぁ。人の姿のまま、小さくなれないのか?』
最初に見た女性の姿の方が、神々しくて精霊感がある。あの姿のまま小さくなればいいのにと思い、そう問いかけると、『やろうと思えば出来るけどぉ、姿形をそのまま真似した方が楽なんだよねぇ』と返された。よく分からなが、縮小という工程が入る分、魔法が複雑になるのかもしれない。
『……あっはぁ〜? まさか、これが精霊……?』
ザソンさんはもちの姿で現れたセイをじいぃぃぃっと見つめながら、ぼそりと呟く。
『見かけない魔物だと思っていたが……もちは精霊の仲間だったのか……?』
カードルさんもセイを見た後、困惑した声を上げる。
『この姿は魔法で真似してるだけだよぉ。ボクの本体はこっちー』
魔素節約のためかセイはすぐに姿を消し、辺りにセイの声だけが響く。『こっちー』と言われても、セイの声は耳元から聞こえてくるため、方向が分からない。
『セイの本体はこれ、みたいです』
俺は精霊石を鞄から取り出し、皆の前に出す。
『あ! トワがたまに磨いてる、綺麗な石!』
フィーユが精霊石を覗き込み、声を上げる。
ファーレスは精霊石について知識がないのか、無表情のままフィーユの言葉に頷く。
カードルさんやザソンさん、レタリィさんは驚愕した表情で目を見開き、精霊石を覗き込む。この様子からして、3人は精霊石の価値を理解しているのだろう。
『精霊石……? まさか、本物か……? 何故、トワがそんな貴重なものを……?』
カードルさんは『信じられん……』と言いながら、『精霊石に精霊が宿るという言い伝えは、本当だったのか……』と呟く。
『……あっはぁ~? 精霊石に宿った精霊が、先程の声の主だということかなぁ~……?』
ザソンさんは、口調こそいつものふざけた口調だが、非常に真剣な声音だ。
『精霊石に宿るって言うかぁ、ボクは精霊石そのものだよぉ』
セイがよく分からない訂正を入れる。
話の中で『石にされた』と語っていたし、石に宿っている訳ではないと言いたいのかもしれない。
『あー……えっと、この精霊石は俺がノイを旅立つ時、お世話になっていた人達から貰ったものです。俺も今日までは、魔力を与えると水を生み出したりする綺麗な石……くらいに思ってました。でもデエスの森に入って少し経った頃、セイが突然現れ、「自分は精霊だ」と名乗ったんです。セイという名前は、その時俺がつけました。異常事態発生の笛は、セイが突然声を掛けてきた時、驚いて吹いたんです』
俺は精霊石やセイの出会いについて語る。
『セイは魔素が濃い場所なら、魔法で実体化したり、声を届けたり出来るみたいです。あとこの森には他にも精霊がいるようなので、セイに頼んで情報収集をお願いしました』
『えへへぇ! セイってば働き者~!』
俺の言葉に、セイが自慢げな声を上げる。
カードルさんとザソンさん、それからレタリィさんは、信じられないものをみるように、俺と精霊石を交互に見つめる。
因みにフィーユは、皆が何にそんなに驚いているのか分からない様子で、ファーレスに『どういうこと?』と小声で質問し、ファーレスはいつも通り『……さぁな』と答えていた。
俺はそんなフィーユとファーレスの様子を微笑ましい気持ちで見つめながら、2人に声を掛ける。
『フィーユ、ファーレス。セイは一緒に旅をしていた、隠れた仲間だったみたいだ。俺も気付いたのは今日なんだけどさ……セイ自身はずっと俺達に話しかけてくれてたらしい』
俺の言葉を聞き、最初にフィーユが反応する。
『そうだったんだね……! セイ、気付かなくてごめんね……? 一緒にいたのに……ずっと寂しかったよね? 私はフィーユ。よろしくね!』
フィーユは優しく精霊石を撫でながら、笑顔でセイに挨拶する。
セイは『フィーユ! やっと話せて嬉しいよぉ、よろしくねぇ!』と嬉しそうな声を上げる。
そのやり取りを見たファーレスも、精霊石を覗き込み『……ファーレス』と一言だけ呟く。翻訳するなら、『俺の名前はファーレスだ。よろしく』みたいな感じだろうか。何故普通に喋れるはずのファーレスの言葉に、翻訳が必要なのかは謎だか。
セイは気分を害した様子もなく、『ファーレスもよろしくねぇ!』と嬉しそうに言葉を返す。精霊の方がしっかり喋れている。
セイ達がそれぞれ挨拶しあっていると、ザソンさんが苛立ったような声を上げる。
『あっはぁ~? のんびり挨拶してる場合じゃないよねぇ~? ハッキリしっかりすーべーてっ! 説明してくれるんだよねぇ?』




