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平凡サラリーマンの絶対帰還行動録  作者: JIRO
第6章【デエスの森編】
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日々読んで下さりありがとうございます。感想やFA、レビュー、ブクマ、評価、本当に励みになっております。

 

 ……


『じゃあ……一応おさらいですけど、"60秒" が "1分"、"60分" が "1時間" です』


『うむ。任せてくれ』


『これが "1"、 これが "2"、 これが "3" …… で、これが "9" です』


 俺はカードルさんにタブレットを渡し、時計の見方、数字についてもう一度説明する。カードルさんも一度聞いた説明なので、力強く頷きながら、タブレットを受け取る。



『じゃあ……行ってきます!』



 俺は笑顔で皆に手を振り、1人で森へ歩き出す。


『健闘を祈る!』


『行ってらっしゃぁ~い!』


『お気をつけて』


『トワ、気を付けてねー!』


『……あぁ』


 カードルさん、ザソンさん、レタリィさん、フィーユ、ファーレスがそれぞれ言葉を吐き、俺を送り出してくれる。



 ―― 運命の3案目、スタートだ。



 ……



 先程まで皆で歩いていた森の中を、ひとりで黙々と進んで行く。


 ―― 静かだな……


 皆で森を歩いていた時、それほどわいわいがやがやと話していたわけではない。

 まぁ、ザソンさんが騒がしいと言えば騒がしかったが。


 しかしひとりで歩いていると、同じ森とは思えないほど静かだ。


 ―― なんか、ディユの森を思い出すな……


 異世界に来てまだひとりきりだった頃。

 自分が何か喋っていないと、胸が締め付けられるほどに静かだった。


「そういえば……森自体もディユの森に似てる気がするな……」


 俺はぼんやりと森を見渡しながら呟く。

 異世界に来て、森に入ったのは3度目だ。


 1度目はディユの森、2度目はベスティアの森、そして3度目は今回のデエスの森。


 デエスの森は入るのに騎士団の許可がいるからか、道が整備されておらず、木々が鬱蒼と茂っている。

 その雰囲気は、ベスティアの森よりもディユの森に似ている。


「まぁ……森って、どこも似たようなもんなのかな……?」


 ぽつりぽつりと独り言を吐きながら、進んで行く。


「……そろそろ10分だ」


 俺はスマートフォンの時計を確認し、カードルさんから預かった笛を口に咥える。耳を塞いで大きく息を吸い、笛に向かって一気に息を吐く。


 ―― ピィッ!


 鋭い笛の音が辺りに鳴り響く。

 耳を塞いでいた手を外すと、俺の笛の音に応えるよう、森の入り口側からもピィッ! と鋭い笛の音が響く。


「よし」


 この笛の音は、俺の状況を伝えるためのものだ。

 騎士団でも使われている連絡用の笛で、耳を塞がないと鼓膜に悪影響が出そうな程、とても大きな音が出る。


 俺の持つスマートフォンの時計と、カードルさんに渡したタブレットの時計。

 時計を見ながら、10分経過したら俺が笛を吹く。カードルさんも、笛の音と時計を確認し、返答の笛を吹く。


 異常事態が発生した場合は、笛の音を強く長く鳴らす約束になっている。

 俺に異常事態が起きた場合は、カードルさん達が森に入ってきてくれる予定だ。

 逆にカードルさん達に異常事態が起きた場合は、俺はすぐに元来た道を戻る。


 一応この他にも、封印を抜けた場合や刻印を見つけた場合等、何パターンか笛の鳴らし方を決めてある。因みに笛の音が聞こえなくなった場合は、光を空に打ち上げて連絡を取る予定だ。


 カードルさん達は魔法で光を打ち上げればいいが、俺には出来ない。カードルさんの命令で、魔法の専門家や魔石加工の専門家達が、俺のために閃光弾のようなものを作ってくれた。


「……やっぱ、後方に皆がいてくれるって……心強いな」


 俺は笛と閃光弾の弾をぎゅっと握りしめ、どんどん森を進んで行く。



 ……



 ―― ピィッ!



 7回目の笛を鳴らす。

 かなり遠くの方から、返答の笛の音も聞こえてくる。


 1案目と2案目を試した時は、1時間ほど森を歩いたら、入り口に戻ってしまった。


 今は7回目の笛、つまり森に入って70分が経過しているが、まだ森の入り口には戻っていない。


「……これは、封印を抜けたか……?」


 まだ確信は持てない。

 俺は笛を2回鳴らし、調査を続行する旨をカードルさん達に伝える。

 カードルさん達からも、「了解」を伝える返答の笛の音が聞こえてくる。


「こっからが勝負だな……」


 俺は辺りを録画しつつ、刻印がないか、魔物がいないか目を凝らす。



 ……



「……なんもない……何も見つかんねー……」



 俺は木に縄を結びながら、はぁと溜息を吐いてぼやく。

 周囲を気にしながら歩いて来たが、ずっと鬱蒼とした木々が続くばかりで、全く状況に変化がない。


「本当にこれ、封印抜けたのか……?」


 今のところ封印を抜けたと判断出来るのは、時間経過だけだ。

 まだ森の入り口には戻らない。


「喉、渇いたな……」


 緊張からか、酷く喉が渇く。

 俺はゴソゴソと鞄をあさり、飲み水を取り出そうとする。


 すると鞄に入れた手に、ふにっとした感触が当たる。


「……きゅ?」


「も、もち!? 何でお前が俺の鞄に!?」


 ふにっとした感触は、もちの身体だった。

 いつの間にか、俺の鞄に入り込んでいたらしい。

 思い返してみれば、カードルさん達と別れる時、もちの姿がなかった。


「お前なー……いつの間に入り込んだんだよー……」


「きゅー……」


 ごめんなさいと謝るように、もちが小さく鳴き声を上げる。


「まぁ来ちゃったもんはしょうがないか……あれ? でも何でもちもいるのに、封印を抜けれたっぽいんだ……?」


「きゅ?」


 俺はもちを頭の上に乗せ、水を飲みながら考える。


「……もち、お前ももしかして魔力ゼロ仲間?」


「きゅ?」


 そういえば、ディユの森でもちと一緒に歩いていた時も、魔物に襲われていない。もちも俺と同様、魔力がないのかもしれない。


「……もち、お前本当に何者……?」


「きゅー?」


 これまで聞いて来た話では、人も魔物も、皆多かれ少なかれ魔力を持っているはずだ。何故もちは魔力を持っていないのだろうか……?

 俺の問いかけに対し、もちは不思議そうな声を上げた。


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