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……
『じゃあ……一応おさらいですけど、"60秒" が "1分"、"60分" が "1時間" です』
『うむ。任せてくれ』
『これが "1"、 これが "2"、 これが "3" …… で、これが "9" です』
俺はカードルさんにタブレットを渡し、時計の見方、数字についてもう一度説明する。カードルさんも一度聞いた説明なので、力強く頷きながら、タブレットを受け取る。
『じゃあ……行ってきます!』
俺は笑顔で皆に手を振り、1人で森へ歩き出す。
『健闘を祈る!』
『行ってらっしゃぁ~い!』
『お気をつけて』
『トワ、気を付けてねー!』
『……あぁ』
カードルさん、ザソンさん、レタリィさん、フィーユ、ファーレスがそれぞれ言葉を吐き、俺を送り出してくれる。
―― 運命の3案目、スタートだ。
……
先程まで皆で歩いていた森の中を、ひとりで黙々と進んで行く。
―― 静かだな……
皆で森を歩いていた時、それほどわいわいがやがやと話していたわけではない。
まぁ、ザソンさんが騒がしいと言えば騒がしかったが。
しかしひとりで歩いていると、同じ森とは思えないほど静かだ。
―― なんか、ディユの森を思い出すな……
異世界に来てまだひとりきりだった頃。
自分が何か喋っていないと、胸が締め付けられるほどに静かだった。
「そういえば……森自体もディユの森に似てる気がするな……」
俺はぼんやりと森を見渡しながら呟く。
異世界に来て、森に入ったのは3度目だ。
1度目はディユの森、2度目はベスティアの森、そして3度目は今回のデエスの森。
デエスの森は入るのに騎士団の許可がいるからか、道が整備されておらず、木々が鬱蒼と茂っている。
その雰囲気は、ベスティアの森よりもディユの森に似ている。
「まぁ……森って、どこも似たようなもんなのかな……?」
ぽつりぽつりと独り言を吐きながら、進んで行く。
「……そろそろ10分だ」
俺はスマートフォンの時計を確認し、カードルさんから預かった笛を口に咥える。耳を塞いで大きく息を吸い、笛に向かって一気に息を吐く。
―― ピィッ!
鋭い笛の音が辺りに鳴り響く。
耳を塞いでいた手を外すと、俺の笛の音に応えるよう、森の入り口側からもピィッ! と鋭い笛の音が響く。
「よし」
この笛の音は、俺の状況を伝えるためのものだ。
騎士団でも使われている連絡用の笛で、耳を塞がないと鼓膜に悪影響が出そうな程、とても大きな音が出る。
俺の持つスマートフォンの時計と、カードルさんに渡したタブレットの時計。
時計を見ながら、10分経過したら俺が笛を吹く。カードルさんも、笛の音と時計を確認し、返答の笛を吹く。
異常事態が発生した場合は、笛の音を強く長く鳴らす約束になっている。
俺に異常事態が起きた場合は、カードルさん達が森に入ってきてくれる予定だ。
逆にカードルさん達に異常事態が起きた場合は、俺はすぐに元来た道を戻る。
一応この他にも、封印を抜けた場合や刻印を見つけた場合等、何パターンか笛の鳴らし方を決めてある。因みに笛の音が聞こえなくなった場合は、光を空に打ち上げて連絡を取る予定だ。
カードルさん達は魔法で光を打ち上げればいいが、俺には出来ない。カードルさんの命令で、魔法の専門家や魔石加工の専門家達が、俺のために閃光弾のようなものを作ってくれた。
「……やっぱ、後方に皆がいてくれるって……心強いな」
俺は笛と閃光弾の弾をぎゅっと握りしめ、どんどん森を進んで行く。
……
―― ピィッ!
7回目の笛を鳴らす。
かなり遠くの方から、返答の笛の音も聞こえてくる。
1案目と2案目を試した時は、1時間ほど森を歩いたら、入り口に戻ってしまった。
今は7回目の笛、つまり森に入って70分が経過しているが、まだ森の入り口には戻っていない。
「……これは、封印を抜けたか……?」
まだ確信は持てない。
俺は笛を2回鳴らし、調査を続行する旨をカードルさん達に伝える。
カードルさん達からも、「了解」を伝える返答の笛の音が聞こえてくる。
「こっからが勝負だな……」
俺は辺りを録画しつつ、刻印がないか、魔物がいないか目を凝らす。
……
「……なんもない……何も見つかんねー……」
俺は木に縄を結びながら、はぁと溜息を吐いてぼやく。
周囲を気にしながら歩いて来たが、ずっと鬱蒼とした木々が続くばかりで、全く状況に変化がない。
「本当にこれ、封印抜けたのか……?」
今のところ封印を抜けたと判断出来るのは、時間経過だけだ。
まだ森の入り口には戻らない。
「喉、渇いたな……」
緊張からか、酷く喉が渇く。
俺はゴソゴソと鞄をあさり、飲み水を取り出そうとする。
すると鞄に入れた手に、ふにっとした感触が当たる。
「……きゅ?」
「も、もち!? 何でお前が俺の鞄に!?」
ふにっとした感触は、もちの身体だった。
いつの間にか、俺の鞄に入り込んでいたらしい。
思い返してみれば、カードルさん達と別れる時、もちの姿がなかった。
「お前なー……いつの間に入り込んだんだよー……」
「きゅー……」
ごめんなさいと謝るように、もちが小さく鳴き声を上げる。
「まぁ来ちゃったもんはしょうがないか……あれ? でも何でもちもいるのに、封印を抜けれたっぽいんだ……?」
「きゅ?」
俺はもちを頭の上に乗せ、水を飲みながら考える。
「……もち、お前ももしかして魔力ゼロ仲間?」
「きゅ?」
そういえば、ディユの森でもちと一緒に歩いていた時も、魔物に襲われていない。もちも俺と同様、魔力がないのかもしれない。
「……もち、お前本当に何者……?」
「きゅー?」
これまで聞いて来た話では、人も魔物も、皆多かれ少なかれ魔力を持っているはずだ。何故もちは魔力を持っていないのだろうか……?
俺の問いかけに対し、もちは不思議そうな声を上げた。