108
日々読んで下さりありがとうございます。感想やFA、レビュー、ブクマ、評価、本当に励みになっております!
ザソンさんの発言に頭を抱えながら2案目。
俺は1人で先頭を歩く。
―― 他の人と会話が出来ないから暇だな……
そんなことを考えつつ、後ろに皆がいることを確認するように、耳を澄ませる。
距離があいているとはいえ、静かな森の中だ。後方を歩くカードルさん、ザソンさん、レタリィさんの会話が聞こえてくる。
因みにフィーユとファーレスは、特に雑談せずに歩いているようだ。
『カードル、君は賢者の話を聞いたことがあるかぁ~い?』
『いや……知らんな』
『あっはぁ~! 実は私、この辺りに伝わる古い話なんかを色々調べていてねぇ~……』
『ほう?』
『そ、し、た、ら! 精霊石を作ったと言われる偉大な魔法使いが、昔この辺にいたという噂があったんだよぉ~!』
『その話は確かなのか? それほどの人物が、記録に残っていないとは考えにくいが……』
『あっはぁ~! そう! 不思議だと思わないかぁ~い? 作為を感じるよねぇ~!』
どうやらカードルさんとザソンさんは、この辺りに伝わる賢者とやらの話をしているらしい。
『ザソン自身、デエスの森や女神様に関しての情報を集めている際、偶然手に入れた情報なのです』
レタリィさんが補足する。
『そう! レタリィの言う通り! 偶然、たまたま、運よく! 情報を手に入れたのさぁ~! 私ってば神に愛されてるよねぇ~! この前も―……』
賢者の話とは関係のない、ザソンさんの運が良かった話が続く。
俺は自分が話されているわけではないのだが、聞いていてかなりうんざりした気分になった。
『ゴホンッ! あー……ザソン、単刀直入に頼む。その賢者が何だというんだ?』
カードルさんもうんざりしてきたのか、わざとらしい大きな咳ばらいをした後、ザソンさんにそう問いかける。
ザソンさんは問いかけに対し、自信満々の声で答える。
『あっはぁ~! 私の考えではね! その賢者こそが、女神様の子孫だと思うんだよねぇ~!』
ザソンさんの声に続き、少し考え込むようなカードルさんの声が続く。
『ふむ……。確かに……デエスの森に住む偉大な魔法使い……という点は、両者共通している。もし賢者がこの地に居たと言うなら、女神と繋がりがあってもおかしくないな……』
『そうそう、そうだとも! 私の考えではねぇ! その賢者こそが、森を封印した人物だと思うんだよねぇ~』
『確かに精霊石を作れるほどの者なら、森の封印も可能かもしれないが……流石に考えを飛躍し過ぎではないか?』
カードルさんは『そもそも賢者がこの辺りにいたという話も、一部から得た噂話であろう? 記録に残っていない以上、信憑性に欠ける話だと思うが……』と訝し気な声を上げる。
『あっはぁ~! 頭が固いねぇ~……! レアーレの話、賢者の話、森の封印……全部を繋げて考えると、大きな流れが見えてこないかぁ~い?』
『……よく意味が分からないのだが……』
『つーまーりー! まず、デエスの森に女神がいるよねぇ~? で、レアーレが女神と会った!』
『……あぁ』
『そーしーてー! レアーレはその話を皆に広めた! デエスの森には女神様がいたと!』
『……あぁ』
『そしたらどうなると思う~?』
ザソンさんが歌うように、カードルさんに問いかける。
『……皆、女神を一目見ようと……森に殺到する……か!?』
『そう! レアーレの話は、日を追うごとに広まっていく! お伽話のように、本になり、遠い遠い地まで!』
『……それを煩わしく思った女神……もしくはその子孫が、森を封じたと?』
『そう! 私には人気者の辛さがよく分かるよぉ~……! 私も何処へ行っても人に囲まれ……家にいてもファンが押し寄せ……! あぁっ! 自分の時間なんて、取る暇もないっ!』
ザソンさんがわざとらしく悲し気な声を作り、『よよよよ……』と泣き真似をする。
しかし、レタリィさんがすかさず『いえ、貴方の場合は人の多い所へ自分から出向き、注目を集めていますよね? しかも今日のように、よく自分の都合でスケジュールをずらしますよね?』と突っ込みを入れる。
『あっはぁ~! 流石レタリィ、言うねぇ~!』
レタリィさんの冷たい突っ込みに、ザソンさんは全く反省した様子もなく、楽しげに笑う。
『……本当に、いい加減にしてくださいね?』
ザソンさんの反応に、レタリィさんの声に宿る冷たさが、一段と増した気がした。
……
『あ、入り口に戻りましたね』
気付けばまた森の入り口に戻ってしまった。
話の続きも気になったが、俺は足を止め、後ろを振り返り声を掛ける。
『うむ……やはりトワ1人で行って貰わねばならぬか……』
追い付いたカードルさんが、眉間に皺を寄せながら呟く。
『まぁ……魔物除けのサシェもありますし、俺自身魔物に狙われにくいみたいですし……大丈夫ですよ』
世話になったカードルさんに恩を返したいという気持ちも勿論あるが、異世界に来て約1年半、やっと辿り着いた手掛かりなのだ。
―― リスクを負ってでも……後悔のない選択をする。
俺はカードルさんの目を見つめ、力強く頷く。
『あっはぁ~! まぁ、今更嫌だって言っても、無理やり森に放り込むけどねぇ~!』
後ろからゆっくりと歩いてきたザソンさんが、雰囲気を台無しにする一言を吐く。
『貴方は黙っていてください』
レタリィさんがザソンさんの首に容赦なく手刀を入れる。ザソンさんは『ぐはあぁあ!』と大げさな声を上げながら地面に倒れ込み、『い、痛いよレタリィ!』と悲鳴を上げていた。




