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平凡サラリーマンの絶対帰還行動録  作者: JIRO
第6章【デエスの森編】
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日々読んで下さりありがとうございます。感想やFA、レビュー、ブクマ、評価、本当に励みになっております!

 

 ザソンさんの発言に頭を抱えながら2案目。

 俺は1人で先頭を歩く。


 ―― 他の人と会話が出来ないから暇だな……


 そんなことを考えつつ、後ろに皆がいることを確認するように、耳を澄ませる。

 距離があいているとはいえ、静かな森の中だ。後方を歩くカードルさん、ザソンさん、レタリィさんの会話が聞こえてくる。

 因みにフィーユとファーレスは、特に雑談せずに歩いているようだ。


『カードル、君は賢者の話を聞いたことがあるかぁ~い?』


『いや……知らんな』


『あっはぁ~! 実は私、この辺りに伝わる古い話なんかを色々調べていてねぇ~……』


『ほう?』


『そ、し、た、ら! 精霊石を作ったと言われる偉大な魔法使いが、昔この辺にいたという噂があったんだよぉ~!』


『その話は確かなのか? それほどの人物が、記録に残っていないとは考えにくいが……』


『あっはぁ~! そう! 不思議だと思わないかぁ~い? 作為を感じるよねぇ~!』


 どうやらカードルさんとザソンさんは、この辺りに伝わる賢者とやらの話をしているらしい。


『ザソン自身、デエスの森や女神様に関しての情報を集めている際、偶然手に入れた情報なのです』


 レタリィさんが補足する。


『そう! レタリィの言う通り! 偶然、たまたま、運よく! 情報を手に入れたのさぁ~! 私ってば神に愛されてるよねぇ~! この前も―……』


 賢者の話とは関係のない、ザソンさんの運が良かった話が続く。

 俺は自分が話されているわけではないのだが、聞いていてかなりうんざりした気分になった。


『ゴホンッ! あー……ザソン、単刀直入に頼む。その賢者が何だというんだ?』


 カードルさんもうんざりしてきたのか、わざとらしい大きな咳ばらいをした後、ザソンさんにそう問いかける。

 ザソンさんは問いかけに対し、自信満々の声で答える。


『あっはぁ~! 私の考えではね! その賢者こそが、女神様の子孫だと思うんだよねぇ~!』


 ザソンさんの声に続き、少し考え込むようなカードルさんの声が続く。


『ふむ……。確かに……デエスの森に住む偉大な魔法使い……という点は、両者共通している。もし賢者がこの地に居たと言うなら、女神と繋がりがあってもおかしくないな……』


『そうそう、そうだとも! 私の考えではねぇ! その賢者こそが、森を封印した人物だと思うんだよねぇ~』


『確かに精霊石を作れるほどの者なら、森の封印も可能かもしれないが……流石に考えを飛躍し過ぎではないか?』


 カードルさんは『そもそも賢者がこの辺りにいたという話も、一部から得た噂話であろう? 記録に残っていない以上、信憑性に欠ける話だと思うが……』と訝し気な声を上げる。


『あっはぁ~! 頭が固いねぇ~……! レアーレの話、賢者の話、森の封印……全部を繋げて考えると、大きな流れが見えてこないかぁ~い?』


『……よく意味が分からないのだが……』


『つーまーりー! まず、デエスの森に女神がいるよねぇ~? で、レアーレが女神と会った!』


『……あぁ』


『そーしーてー! レアーレはその話を皆に広めた! デエスの森には女神様がいたと!』


『……あぁ』


『そしたらどうなると思う~?』


 ザソンさんが歌うように、カードルさんに問いかける。


『……皆、女神を一目見ようと……森に殺到する……か!?』


『そう! レアーレの話は、日を追うごとに広まっていく! お伽話のように、本になり、遠い遠い地まで!』


『……それを煩わしく思った女神……もしくはその子孫が、森を封じたと?』


『そう! 私には人気者の辛さがよく分かるよぉ~……! 私も何処へ行っても人に囲まれ……家にいてもファンが押し寄せ……! あぁっ! 自分の時間なんて、取る暇もないっ!』


 ザソンさんがわざとらしく悲し気な声を作り、『よよよよ……』と泣き真似をする。

 しかし、レタリィさんがすかさず『いえ、貴方の場合は人の多い所へ自分から出向き、注目を集めていますよね? しかも今日のように、よく自分の都合でスケジュールをずらしますよね?』と突っ込みを入れる。


『あっはぁ~! 流石レタリィ、言うねぇ~!』


 レタリィさんの冷たい突っ込みに、ザソンさんは全く反省した様子もなく、楽しげに笑う。


『……本当に、いい加減にしてくださいね?』


 ザソンさんの反応に、レタリィさんの声に宿る冷たさが、一段と増した気がした。



 ……



『あ、入り口に戻りましたね』


 気付けばまた森の入り口に戻ってしまった。

 話の続きも気になったが、俺は足を止め、後ろを振り返り声を掛ける。


『うむ……やはりトワ1人で行って貰わねばならぬか……』


 追い付いたカードルさんが、眉間に皺を寄せながら呟く。


『まぁ……魔物除けのサシェもありますし、俺自身魔物に狙われにくいみたいですし……大丈夫ですよ』


 世話になったカードルさんに恩を返したいという気持ちも勿論あるが、異世界に来て約1年半、やっと辿り着いた手掛かりなのだ。


 ―― リスクを負ってでも……後悔のない選択をする。


 俺はカードルさんの目を見つめ、力強く頷く。



『あっはぁ~! まぁ、今更嫌だって言っても、無理やり森に放り込むけどねぇ~!』



 後ろからゆっくりと歩いてきたザソンさんが、雰囲気を台無しにする一言を吐く。


『貴方は黙っていてください』


 レタリィさんがザソンさんの首に容赦なく手刀を入れる。ザソンさんは『ぐはあぁあ!』と大げさな声を上げながら地面に倒れ込み、『い、痛いよレタリィ!』と悲鳴を上げていた。



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