【番外編】デエスの森調査
日々読んで下さりありがとうございます。
コメントで「ザソンとファーレスの2人で旅に出てほしいです」というお言葉を頂き、面白い組み合わせだなー!と思い書いてみました。本編では見られない組み合わせをお楽しみ頂ければ幸いです。
※本編で永久がファーレスやザソンに会う前、ファーレスがまだ騎士団で仕事をしていた頃のお話になります。
『やあやあやあ! 君が今日、私の護衛を担当してくれる、騎士団の人かな!?』
『……あぁ』
燃えるように真っ赤な髪をした派手な男が、ハイテンションな声を上げる。
その声に対し、ファーレスは何の感情も込もらない、冷めた返事をした。
『あっはぁ〜! 私はザソン、ヨム・イストリア・ザソンさぁ〜! よろしく頼むよ!』
『……あぁ』
ファーレスの冷めた返事も意に介さず、ザソンは相変わらず演技じみたハイテンションな声を発する。そのままザソンはファーレスの顔を覗き込み、目を細める。
『……ところで君、かなり整った顔をしているねぇ……』
『……さぁな』
ぐぐぐぐっと顔を近付けられ、ファーレスは無表情のまま若干身体を反らせて距離を取る。ザソンはファーレスを隅々までじっくり眺めた後、満足したように頷く。
『あっはぁ〜! ……いや、私より美しいものなんて、この世に存在しないんだけどねぇ〜?』
ザソンの言葉に対し、ファーレスは無視するか迷った末、『……あぁ』と小さく答える。
『あっはぁ〜! 君もそう思うかい?』
『……あぁ』
『うんうん。私は美しい』
『……あぁ』
『あっはぁ〜! 君、よく分かってるじゃないか!』
ファーレスが同意したことに気を良くしたのか、ザソンは長髪をばさぁっとかき上げながら、高らかに笑う。
『さてさて! 無駄話はこれくらいにして、森に行ってみようかぁ~! 迷いの森なんて呼ばれているけど、この私ならきっと入れるさぁ~! 君もそう思うだろぉ〜?』
ザソンは完璧なウインクを決めながら、ファーレスの方を振り返る。
『……あぁ』
『あっはぁ〜! 君、適当に返事してるだろぉ〜?』
『……あぁ』
『あっはぁ〜! やっぱりねぇ〜! まぁいいさ、私に必要なのは忠実な盾だからねぇ~! さ、頼んだよ、君ぃ!』
『……あぁ』
ファーレスの適当な返事に機嫌を悪くするでもなく、ザソンは高らかに笑い、森に向かって歩き出した。
……
『うーん……やはり何度挑戦しても、入り口に戻されてしまうねぇ……』
『……あぁ』
ザソンの言葉通り、何度森に挑んでも、毎回気が付くと入り口に戻ってしまっていた。
『ん~……ここまで何の手掛かりも掴めないのは、流石に想定外だったなぁ〜……』
ザソンは持ち込んだ様々な調査器具を確認しながら、溜息を吐く。
ファーレスは魔物が出たり、危険なことが起こらない限りは、無言で後ろを歩くだけだ。
『はぁ〜……ちょっと休もうか。いい加減、歩き疲れちゃったしねぇ〜……』
ザソンは調査結果が芳しくなかったのか、もう一度溜息を吐くとダラリと座り込む。
『まぁ君も座りなよぉ~。それにしても……君は全然疲れていなさそうだねぇ〜?』
ザソンは立ったままのファーレスを見上げながら、つまらなさそうに呟く。
事実ファーレスは特に疲労を感じていなかったため、『……あぁ』と短く返事を告げる。
『騎士団だものねぇ〜……まぁ美しいものは儚いと、よく言うだろぉ〜? つまり君より私の方が美しい! そういうことだねぇ~!』
ザソンは勝ち誇ったように、ビシッとファーレスを指差す。
ファーレスは相変わらず無表情のまま『……あぁ』とだけ返事をして、適当な場所に腰を下ろす。
『しっかし君、見れば見るほど整った顔をしているねぇ〜……』
ザソンはファーレスの顔を再度覗き込みながら、ぼそりと『腹立たしいねぇ〜……』と呟く。
ファーレスは『……さぁな』とだけ答え、周囲の警戒を続ける。
『あっはぁ~! でもねぇ……私には分かるよぉ~! 君、素材の良さに甘んじて、何の手入れもしていないタイプだろぉ~?』
『……さぁな』
ファーレスは言われている意味が分からず、少し首を傾げた後、いつも通りの答えを発する。
『まずこの髪! 折角の銀髪が、若干くすんでいるじゃないか! ヘアケアを怠っている証拠だねぇ~! XXのエキスを髪になじませた後、丁寧にブラッシングをする! これだけで髪の輝きが随分変わるはずだよぉ?』
『……あぁ』
『そして顔! よく見ると乾燥気味じゃないか! 駄目だよぉ~? 保湿ケアは全ての基本だよぉ~?』
『……あぁ』
『それから爪! 伸びすぎだよぉ~? きちんとやすりで削って、表面を磨かないと! それから――……』
延々と続くザソンの美容講座に、ファーレスはただただ適当に『……あぁ』と返事をし続ける。
……
『―― そして産毛! これはこまめに剃ることをオススメするよぉ~! 肌の印象が明るくなるからねぇ~!』
『……』
数十分後、美容講座に加え、ザソンが日々心掛けているケアの話や、これまで受けた美の賛美にまで話が及んでいた。
既に適当な返事をすることすら面倒になり、ファーレスはただ黙って空を見上げていた。
『聞いているかい!?』
『……あぁ』
『君はこの私のライバルになりえるだけの、ポテンシャルを秘めている……! 敵に塩を送るか迷ったけれど……競い合う相手がいてこそ、私の美はより輝く! あっはぁ~! そう思わないかぁ~い?』
『……あぁ』
『君も私を見習い、自分を磨くんだねぇ!』
最後の言葉には返事をせず、ファーレスは無言を貫いた。
『さて……充分休んだし、日が暮れるまでもう一度調査をしてみようかぁ~!』
『……あぁ』
……
『おかえりなさいませ』
ザソンが帰宅すると、レタリィがすっと出迎える。何も言わず上着等を預かってくれる、本当によく出来た秘書だ。
『ただいま、レタリィ! 私がいなくて寂しかったかぁ~い?』
『いえ、全く』
『あっはぁ~! 流石レタリィ、言うねぇ~!』
レタリィの冷たい返答に、ザソンは楽しそうに笑う。
そんなザソンの反応を無視して、レタリィは今日の収穫について問いかける。
『……調査の結果はいかがでしたか?』
『ん~……全く手掛かりなしだねぇ~……困ったものだよ』
ザソンの言葉を聞き、レタリィは少し考え込みながら『騎士団まで動かしたというのに……手掛かりなしですか……』と溜息を吐く。
『あっはぁ~? レアーレの血を引く私が行けば、何か起こるかと思ったけれど……いやはや全く、上手く行かないものだねぇ~……』
『……あの封印は、血に反応する類の魔法ではないということでしょうか? もしくはレアーレの伝承とは無関係の封印……?』
『ん~……どうなんだろうねぇ~……? レアーレの手記にも、その辺りは書かれていないしねぇ~……』
『……また手を考えなくてはいけませんね』
『そうだねぇ~……』
ザソンは笑いながら廊下を進む。
『そういえば……今日護衛を担当した騎士団は、どんな人物だったのですか?』
そのままレタリィが『私達に協力してくれそうな人物ならば――……』と言葉を続けようとすると、前を歩いていたザソンが、レタリィを振り返りにっこりと笑う。
『あっはぁ~? どんな人だったかなぁ~? 興味がないから忘れてしまったよぉ~』
有無を言わさない雰囲気に、レタリィはすっと頭を下げる。
『……そうですか、失礼しました』
ここまで読んで下さりありがとうございました。
第6章は「デエスの森編」になる予定です。引き続き読んで頂ければ嬉しいです!