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話が終わった後は、ザソンさん自らレアーレの家を案内してくれた。
てっきりレアーレが暮らした家がそのまま残っているのかと思いきや、かなり手が加えられているようで、中はミュージアムのようになっていた。
『……本当に、観光施設なんですね……』
俺は中を見渡しながら、呆然と呟く。
8割程は真面目な歴史博物館といった雰囲気で、レアーレの手記やそれに関する解説等が飾られていた。因みに残り2割には、ザソンさんの肖像画やグッズが飾られている。
『あっはぁ~! この肖像画やグッズはそこで買えるからねぇ~? あ、記念にサインも入れてあげよう!』
ザソンさんは自身のコーナーに関して、それはもう詳しく解説してくれた。俺としてはレアーレのコーナーに関して、詳しく解説して欲しかったのだが。
俺はザソンさんの解説を聞き流しながら、レアーレのコーナーをじっくりと見ていく。
話の中に出てきたレアーレの言葉などは、手記に書かれていたもののようだ。
木の板に彫られた解説は、歴史の専門家や魔法の専門家が残した言葉のようだった。
『―― "手記に出てくるデエスの森は、現在魔法的な力で封印されている。何人もの高名な魔術師が封印を解こうと試みたが、ついぞ封印を解くことは叶わなかった。いつかこの封印が解かれる日が来るのだろうか……" 』
『―― "デエスの森の封印は、いつ、誰が、何のために施したのかさえ、分かっていない。一体何が封印されているというのだろうか……"』
『―― "封印の中では、もしかしたら今も、女神様が暮らしているのかもしれない……"』
俺は解説を読みながら、カードルさんに問いかける。
『デエスの森……カードルさんは行ったことありますか?』
『あぁ、あるぞ。不思議な感覚だったな。まっすぐ進んでいたはずがいつの間にか森を抜け、元来た道に戻っているんだ』
カードルさんはその時のことを思い出すように、顎に手を当てながら答えてくれる。
『攻略法とか……あるんですかね……?』
『うーむ……難しいな……。研究者や我々騎士団も、森の中がどうなっているのか把握しようと、昔から何度も挑戦しているのだが……』
カードルさん曰く、伝承が残っていない古い封印のようだ。
もし危険な魔物を封じるため、森ごと封印したのだとしたら危険すぎる。せめて封印内部の様子や、封印の状態を把握しようと、色々手を尽くしているが殆ど何も分かっていないそうだ。
『……そうですよね。もし危険な魔物を封印していて、その封印が今にも壊れそう……なんてことになったら……!』
『あぁ。騎士団の戦力で対応出来るのか、住民の避難が間に合うのか……様々な課題がある』
一応、緊急時のマニュアルのようなものは出来ているらしい。
ロワイヨム……特にデエスの森周辺は、特に魔素が濃いらしい。それ故に強い魔物が発生しやすく、騎士団が創設されたという歴史があるそうだ。
『もしあの封印内がより魔素の濃い空間だとしたら……どれ程の強さの魔物がいるか、見当もつかん』
カードルさんが厳しい顔で森の方を見つめ、呟く。
『……トワ、貴公がデエスの森に向かうと言うなら、止めはしない。一般人の立ち入りが禁止されている区域ではあるが、騎士団が同行していれば許可が下りる』
『あ、ありがとうございます……!』
『しかし……あまり期待はしない方がいいだろうな。これまでずっと解けなかった封印だ……。そう簡単に中に入れるとは思えん。それに、もし封印を解くなんてことになったら……』
カードルさんの言葉を引き継ぐよう、俺は呟く。
『……中から何が現れるか分からない』
『そうだ』
俺の言葉に、カードルさんも頷く。
そこまで言ったところでカードルさんは表情を緩め、『まぁ、トワはこれまでに前例のないイセカイ人だ。何か起こるかもしれん』と笑う。
……
『では……ありがとうございました』
俺達は沢山のお土産を貰いつつ、レアーレの家を後にした。
ザソンさん達は、俺がデエスの森に行く時について来てくれることになった。
カードルさんと俺の会話を聞き、『あっはぁ~! 面白い話をしているねぇ~! 何か起こるかもしれないなら、是非私も付いていきたいなぁ~!』とザソンさんが口を挟んできたのだ。
因みにレタリィさんはザソンさんの言葉を聞き、 『スケジュール調整、どうするおつもりですか……』と呆れ果てていた。
そんなレタリィさんに対し、ザソンさんは『それを何とかするのが君の仕事だろぉ~? 頼りにしているよ、レタリィ!』と相変わらず完璧なウインクをしながら、非常に無責任な言葉を吐いていた。
まぁ俺としては、レアーレの子孫であるザソンさんも来てくれるならありがたい。レタリィさんのスケジュール調整能力に期待だ。
『じゃあ皆、またねぇ~! スケジュールが空いたら連絡するからねぇ~! デエスの森では、何か面白いことを起こしてくれると期待しているよぉ~!』
背後から、ザソンさんの声が聞こえてくる。
『き、期待しないで待っててくださーい!』
俺は後ろを振り返り、そう叫んで頭を下げる。
後方からザソンさんの笑い声が、前方からはカードルさんの笑い声が聞こえた。
『わ、笑わないで下さいよ……異世界人だからって期待されても、本当何も特別なことなんてないんですから……』
前方で笑うカードルさんに近付きそう言うと、『いやいや、1つ特別なことがあるだろう?』と指摘される。俺が『え?』と問い返すと、カードルさんがニヤリと笑う。
『まぁ、私の予想が当たるかは当日になれば分かる。恐らくザソンも、私と同様の予想を立てているはずだ』
『え? え?』
俺は言葉の意味が分からず、何度もカードルさんと、後方で手を振っているザソンさんの方を振り返る。
『期待しているぞ、トワ』
『は……はい……?』




