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平凡サラリーマンの絶対帰還行動録  作者: JIRO
第5章【ロワイヨム編】
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日々読んで下さりありがとうございます。感想やFA、レビュー、ブクマ、評価、本当に励みになっております。

 

『ただいま』


 部屋に戻り、フィーユともちに声を掛ける。フィーユは明るい声で『おかえりなさい!』と出迎えてくれる。


 もちをむにむにと揉みながら『……お留守番、つまらなかった』とフィーユが頬を膨らませる。俺は『ごめんごめん』と軽く謝りながら、ベッドに倒れ込む。



 ―― 俺は本当、恵まれてるよな……



 元の世界では母や祖母の温かな愛情に包まれ、こちらの世界ではメール達の温かな愛情に包まれてきた。ノイを出た後も、色んな人の親切に助けられ、ここまで来た。


『トワー? どうしたのー?』


 フィーユが俺の顔をそっと覗き込んでくる。


『なんでもないよ』


 そう言いながら、フィーユの頭をそっと撫でる。

 フィーユは嬉しそうに笑っていた。



 ……



 日々の忙しさに追われながら、とうとうレアーレの子孫である、ザソンさんに会いに行く日になった。


『はは、そんなに固くなるな、トワ』


 ガチガチに緊張している俺を見て、カードルさんが朗らかに笑う。

 今日は俺、フィーユ、ファーレス、鞄に入れたもちに加え、カードルさんも紹介人として同席してくれるので心強い。


『す、すみません……とうとうザソンさんに会えるのかと思ったら……』


 俺は気分を落ち着かせようと、何度も深呼吸する。この人に会うために、俺はロワイヨムまで来たのだ。


『ザソンは話しやすい人柄だと聞く。観光客も相手にする人だから、魔力の弱い者に対しても差別的ではないそうだしな』


 カードルさんは俺を安心させるように、ザソンさんの人となりについて話してくれる。俺はその言葉を聞き、少し安堵の息を漏らす。

 もしザソンさんが魔力差別の激しい人だったら『何故こんな魔力のない人間と会わなくてはいけないんだ!』という展開も有り得たかもしれない。


『……あれ? カードルさんって、ザソンさんに会ったことあるんです……よね?』


 ふと、カードルさんの発言に違和感を覚え、確認するように問いかける。まるで会ったことがないような話しぶりだ。


『観光でレアーレの家に行ったことはあるが、ザソンに会ったことはないな。アポを取った時も、ザソン本人が対応したわけではなかったからな』


 てっきりカードルさんとザソンさんは知り合いなのかと思っていたが、初対面のようだ。カードルさんの回答を聞きながら、俺は違和感の正体に気付く。


 ―― あー……そうか。身分が近いから呼び捨てなのか。


 呼び捨てにしているから、親しい間柄なのかと勘違いしていた。


 最初の、まだこの世界に慣れていなかった頃、この世界では全員呼び捨てが常識なのかと思っていた。

 しかし、言葉を覚えるにつれて理解したのだが、自分と身分の近い者、または身分の低い者に対しては呼び捨てで、身分の上の者には敬称をつけるようだ。


 平民同士なら呼び捨て、平民が貴族を呼ぶ場合は敬称付きとなる。

 貴族が平民を呼ぶ場合は呼び捨て、貴族同士も呼び捨て、貴族が王族などを呼ぶ場合は、敬称付きになる感じだ。


 勿論、アルマのような『ガッハッハ! 敬称? いらねぇ、いらねぇ。そんなもん!』という例外や、レーラーのような平民から貴族になった例外もある。


 ―― 本当だったら、俺はフィーユもファーレスも、呼び捨てにしちゃいけない立場なんだろうなぁ……


 フィーユは貴族出身で魔力も強い。ファーレスは魔力は弱いが貴族出身で、騎士団に所属している。


 ―― そして俺は魔力もなく、家柄もない……


 少し切ない気分になりながら、ザソンさんについて考える。


 ―― ザソンさんは貴族……だよな? どんな人なんだろ……


 ロワイヨムに来て多くの貴族と会ったが、騎士団以外の貴族はかなり魔力差別が強い印象だった。何人もの貴族に『こんな魔力のない者が、私達に教えるのか……?』という目線を投げられた。


 俺はカードルさんの客人という扱いだったため、表立って差別されたり、けなされることはなかったが、何となく態度で伝わってくるものだ。


 ―― 本当、針の筵に座る気持ちだったぜ……


 今もまだ差別的な目線を投げられることはあるが、俺の提供したものの価値が認められたのか、多少態度が軟化した気がする。


 ―― ファーレスは……こんな気持ちを幼い頃からずっと味わってきたのかな……


 後ろを歩くファーレスとフィーユの方を振り返る。2人は特に会話をすることなく、無言で俺について来ていた。


 カードルさんの話していた、幼い頃のファーレスを思い浮かべる。

 もし、ファーレスが差別を受けずそのまま育っていたなら、今頃フィーユと笑顔で会話していたのだろうか?

 そしてもし、フィーユも魔法を使うことを強制されず、のびのびと育っていたなら……。


 ―― "もし" なんて、考えても無駄なんだけどな。


 そんな "もし" があったなら、俺達は今頃出会っていなかっただろう。フィーユはナーエの屋敷で、ファーレスはレイノの屋敷で、家族と共にのんびり暮らしていたはずだ。



 ―― 人生に "もし" なんて、有り得ない。後悔がないよう……俺はただ前に進むだけだ。



 ……



 小高い丘の上に、大きな大きな木が見えてくる。


『もしかして……あれがレアーレの冒険に出てきた、美味しい木の実が取れる木ですか?』


『あぁ、そうだ。木の実もお土産として買えるはずだ』


『おぉー……!』


 俺は物語の中に出てくる木の実が実際に食べれると聞き、少しはしゃぎながら大きな木を見上げる。

 フィーユも俺の腕を掴み『木の実、買って帰ろう! 食べてみたい!』とはしゃぐ。ファーレスも同意するように頷く。


『お土産は後だ。裏口から入ってくれと言われている。こっちだ』


 カードルさんはそんな俺達を見て笑いつつ、裏口へ行き扉をノックする。


『約束をしていたロワイヨム王国騎士団団長、ヨム・ディレクシオン・カードルだ。ザソンとの面会に来た』


 カードルさんの声に反応するように、内側から扉が開く。


『いらっしゃいませ。お待ちしておりました』



 ―― 出てきたのは、怜悧な美貌を持つ女性だった。



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