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ロワイヨムでの日々は、胃が痛くなる毎日だった。
レアーレの子孫であるザソンさんから、カードルさん経由で『会えるのは30日後』と回答を貰い、30日間暇になってしまった。……と思っていた。しかし、実際は暇な時間なんて殆どなかった。
まず料理教室に希望者が殺到し、3日おきの開催予定が2日おきの開催に変更された。
新しいレシピを次々と強請られ、俺はスマートフォンのレシピアプリと睨めっこし、こちらの世界で作れそうなレシピを日々ピックアップする作業に追われた。
貴族に囲まれ、俺の胃は悲鳴を上げた。
繁盛したのは料理教室だけじゃない。楽曲提供の方も大繁盛だった。
音楽プレーヤーに入っていた曲を聞き、オーケストラの人達は『天才だ……』『こんな名曲、聞いたことがない』と大絶賛していた。まぁ歴史に名を残す天才達が作った曲なので、当然と言えば当然なのだが。
こちらも新しい曲を次々と強請られ、結局騎士団の人に警備をお願いして、オーケストラの人達に音楽プレーヤーをそのまま貸し出すことにした。
因みに音楽プレーヤーを貸し出すという決断を下すまで、毎日のようにオーケストラ所属の貴族に囲まれ、俺の胃は悲鳴を上げた。
リバーシの契約に関しても、始終胃が痛かった。
カードルさんが付き添ってくれたとはいえ、俺は営業職なんて経験したことがない。顧客先でシステムの説明をする時のように、リバーシのルールなどを必死に説明した。
結局リバーシの説明だけした後、お金の話は全部カードルさんに丸投げしてしまった。非常に申し訳なく思っていたのだが、カードルさんは『不利な契約にはさせん!』と張り切ってくれていたので、非常に助かった。
カードルさんは、仕事が出来て部下思いで頼りになる、正に理想の上司だった。
サシェに関しては、カードルさんの指示の下、騎士団の人達が様々な魔物で効果を実験してくれたらしい。
その結果、殆どの魔物に効果が認められたそうだ。
匂いが届く範囲しか効果がないので、あまり有効範囲は広くないが、鼻のいい魔物には特によく効くらしい。
無論、魔物を攻撃してしまえば反撃するため近付いてくるが、手を出さない限り、ほぼ魔物が近付かなかったそうだ。嫌な臭いのするところへ近づきたがるものはいないのだろう。
戦闘能力の低い住民達を中心として、騎士団が魔物との無用な争いを避けたい時等に活用出来そうだと喜んで貰えた。
カードルさんから魔物の研究者達にも情報が提供され、謝礼金も出たそうだ。騎士団からも謝礼金を用意してくれるとのことだ。
……
『トワ、ここ数日の働きに対する魔石だ』
そんな慌ただしい日々を送り始めて10日程経った頃だろうか。
カードルさんから団長室に呼び出されて顔を出すと、『準備に手間取ってな。遅くなってすまなかった』と笑いながら、非常に濃い色見の魔石を幾つも差し出される。
―― こんな濃い紫色の魔石……だいふく達がくれた魔石以外で見たことないぞ……?
流石に大きさはだいふく達がくれた魔石に遠く及ばないが、それでも物凄い魔力を秘めた魔石なのだということは分かる。
俺は恐る恐る魔石を手にして『あ……ありがとうござい、ます……』と小声で礼を言う。
カードルさんは魔石を見ながら、満足気に頷く。
『なかなかの大金になったな』
貴族のカードルさんが『なかなかの大金』と言うなんて、一体この魔石にはどれだけの価値があるのだろうか。
魔力を感じられない俺には、どれ程の魔力が込められているのか分からない。
『あの、これ……おいくら分、くらい……?』
『ん?』
『あ、いや……なんでもないです……』
思わず小声で値段を問いかけたが、自分の胃のためにやっぱり聞くのを止めた。
―― 俺は大金なんて持ちなれてない、庶民なんだよ……!
昔、一瞬だけ財布に10万円程入れて出歩いたことがあった。
詳しい理由は忘れてしまったが、家賃の支払いか何かのために持ち歩いたのだったと思う。
コンビニのATMで10万円を下ろし、大家さんのいる場所まで徒歩20分程度の距離だった。その20分間、俺は生きた心地がしなかった。
―― 今、ひったくりに会ったらどうしよう? 鞄をどこかに置き忘れたらどうしよう?
小心者丸出しで、ビクビクしながら小走りに道を急いだものだ。10万円でそんな状態なのだ。
―― 価値は、知らないでおこう。
自分が恐ろしい大金を持ち歩いていると、自覚してしまうことは避けたい。
既に自分が把握している分だけでもかなりの金額になっており、ビビっているのだ。これ以上は俺の精神が持たない。
―― 俺から見たら、紫色のおはじき。
宝石みたいで綺麗だなーくらいの感覚でいた方がいい。
俺はカードルさんから受け取った魔石を、ペールから貰った魔石製の箱に仕舞っていく。
―― 取り敢えず、この箱どこかに隠すか……。
俺は脳内で魔石製の箱を隠せそうな場所を考えた。
……
料理教室の準備に追われたりしているうちに、アヴァンさんと約束した日になっていた。
アヴァンさん達は、騎士団の屯所に住んでいるそうだ。教えて貰った部屋番号を探し、扉をノックする。
ノイでの話が中心になりそうなので、フィーユは部屋でお留守番だ。
『今日和ー』
外から声を掛けるとすぐに扉が開き、アヴァンさんがひょこっと顔を出す。
『おぉ、トワ! よく来てくれた!』
アヴァンさんは笑顔で俺を出迎えると、部屋の奥へ案内してくれる。
家族用の部屋なのか、ファーレスがいた部屋よりも広く、色んな所に布で作られた飾りが置かれ、温かい雰囲気の部屋だった。
―― ペール達の家に、似てるな……
貴族の部屋というよりも、素朴で優しい、俺がお世話になっていた部屋を思い出させる。きっとペール達の娘であるファムさんが、インテリアを揃えたのだろう。
『お邪魔します』




