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平凡サラリーマンの絶対帰還行動録  作者: JIRO
第5章【ロワイヨム編】
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100

日々読んで下さりありがとうございます。感想やFA、レビュー、ブクマ、評価、本当に日々励みになっております。とうとう100話目です!

 


 ……



 どれほどの時間が過ぎただろうか。

 長い長い沈黙の後、ファーレスは腰につけた自分の剣に手をかける。


 そのまま剣を鞘から抜くと、柄を俺とフィーユの方へ向けて差し出し、跪く。




『……我が、剣にかけて』




 窓から差し込んだ陽の光が、剣とファーレスの髪に反射し、神聖な光を放つ。

 殺風景な部屋のはずなのに、まるで教会にでもいるかのような、静謐で荘厳な空気に辺りが包まれる。




『……あぁ』

 



 俺も、静かに頷く。











 精一杯厳かな口調を心掛けながら、俺は心臓が飛び出しそうな程緊張していた。



 ―― ヤバイ…! これは……騎士の誓いってやつか?! どうすればいいのか全ッ然分かんねぇ……! この剣は受け取るのが正解なのか?! このままでいいのか?! この後なんて言葉をかければいいんだ……!?



 正直、騎士の作法的なものは全く知らないし、分からない。しかしこの空気の中『え? これ、俺はどうすればいいの?』なんて聞けるはずもない。


 ファーレス、そしてカードルさんとフィーユも無言で俺を見ている。……気がする。


 俺はアニメで見た、騎士が跪くシーンを必死に思い出す。



 ―― いや覚えてない……! なんか剣を受けた側も、格好いいセリフを言ってた気がする……! 何だっけ……? そなたの誓いを受けよう、とかか……? いや違う気がする……! 思い出せー……思い出せ―……唸れ俺の海馬ー……!



 ダラダラと冷や汗を流しながら、俺は剣を受け取ろうと、震える手を伸ばしかけた。


 しかしそのタイミングで、カードルさんがはぁ……と深い溜息を吐く。


『ファーレス……まさか誓いの言葉を忘れたのか……?』


『……あぁ』


 呆れたように声をかけたカードルさんに対し、ファーレスが跪いたまま堂々と頷く。


『……へっ!?』


 どうやらファーレスの言葉は、途中までで止まっていたようだ。


『すまないな、トワ。中途半端な言葉をかけられ、貴公も困っただろう?』


 カードルさんは再度深い溜息を吐きながら、俺に向かって謝罪する。


『い、いえ……! 騎士の作法が分からなかったので……寧ろ助かりました……!』


 俺が正直にそう言うと、カードルさんは目を見開いたあと『……はっはっはっ! そうかそうか……! それはよかった!』と大口を開けて笑う。


 カードルさんの話によると、本来であればあの後、主を守りぬくという誓いを精霊に捧げる言葉が続くのだそうだ。


 精霊に捧げるということは、恐らくあの謎言語だろう。もし言われていたらより反応に困ったので、言われなくてよかった。


『……ファーレス、その言葉を捧げたということは、トワ達と共に行くと決めたのだな?』


『……あぁ』


 カードルさんの問いかけに対し、ファーレスが静かに頷く。まぁ正確には、誓いの言葉とやらは途中までしか捧げられてないのだが。


『……うむ。ならば皆には、遠方の任務を与えたと私から話そう。まぁ、何かあればいつでも帰ってきなさい。ここはお前の家でもあるのだから』


『……あぁ』


『……それから仲の良い者たちには、出て行く時に挨拶へ行くんだぞ?』


『……あぁ』


『食堂の時のように、トワ達にあまり迷惑をかけるなよ?』


『……あぁ』



 カードルさんはまるで父親のように声をかける。ファーレスは無表情のままただ頷いていた。


 あの『あぁ』は多分、適当に返事している『あぁ』な気がする。『あーはいはい、分かった分かった』みたいなニュアンスの。



『ファーレスッ! ちゃんと人の話を聞け!!』



 案の定カードルさんもそう感じたようで、説教じみた声でファーレスを怒鳴りつけていた。



 ……



 カードルさんが『旅の今後について話をするといい』と言って退室したあと、俺はファーレスに向き合い問い掛ける。



『ファーレス……本当によかったのか?』


『……あぁ』



 ファーレスの返事を聞き、フィーユがはしゃいだ声を上げる。


『よかったぁ……! ファーレスもずっと一緒だね!』


『……あぁ』


『ハリセンボン! ハリセンボンしよっ!』


 フィーユが小指を立てて、天に突き上げる。「針千本飲ます」というワードを言い過ぎて、指切りではなく「針千本」という単語で覚えてしまっている。ちょっと怖い。


『フィーユ、指切り……指切りな。約束。指切り』


 俺が訂正すると、フィーユは『あ、そっか! 約束! ユビキリ!』と繰り返す。


『そうだな……じゃあ皆で約束しようか』


『ユビキリー!』


 ユビキリユビキリとフィーユがはしゃぐ。正しい言葉のはずなのだが、ちょっと怖い。


『……あぁ』


 ファーレスは指切りが何かも分かっていないのに、適当に頷く。フィーユが得意気な顔で『ユビキリはねー……』と指切りのやり方と意味を教える。




『じゃあ……俺達は皆で異世界に行く!』




「「指切げんまん、嘘ついたら針千本のーます! 指切った!」」




 異世界生活511日目、俺達は互いの小指を絡め合い、誓いを立てた。















読んで頂きありがとうございました。

気がつけば100話まで来ていました!

皆様のおかげです。本当にありがとうございます。

これからも頑張ります!


明日は100話記念の番外編とイラストを更新予定です。

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