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『あぁ……ファーレスなら部屋で休ませている。戻っていきなり仕事では、少し可哀想だからな』
カードルさんは『会いに行くなら……』と言って、部屋の場所を教えてくれる。俺はスマートフォンにメモを取りつつ、フィーユと後で会いに行こうかと会話する。
『是非会いに行ってやってくれ。ファーレスもきっと喜ぶ』
『よ、喜びますかねぇ……?』
カードルさんの言葉に、俺は苦笑を浮かべる。絶対に無表情のままぼーっとしてるだけだと思う。
『はは、喜ぶさ』
カードルさんは自信満々に言い切る。『は、はぁ……』と返事をする俺、そして『そうかなぁ……?』と首を傾げるフィーユを見て、カードルさんは可笑しそうに笑いながら本題に入った。
『さて、トワの料理についてだったな』
……
数十分間の打ち合わせで、料理教室の詳細が決まった。
教える時間帯はランチタイムとディナータイムの間、14時頃。3日1回開かれることになった。
生徒は事前応募制で、数が多い場合は騎士団の人達が厳選してくれるらしい。
そして俺の賃金は驚きの、1レシピ10万カクとなった。
最初はもっと大きな金額を示されていたのだが、『も、貰い過ぎです……!』と恐縮しまくる俺を見て、10万カクまで下がった。それでも貰い過ぎだと思うが、貴族の感覚は分からない……。
『本当にいいのか? これまでにない、貴族にも通じるような新しいレシピを教えるのだぞ? もっと貰ってもいいと思うが……』
『い、いえ! 10万カクで充分です……!』
そもそもタダで宿も飯も提供して貰っているのに、お金を貰うこと自体が申し訳ない。
まぁ、お金はいつどこでどれだけ必要なるか分からないので、稼げるだけ稼ぎたい気持ちもあるのだが。
そう思い、リバーシの販売やコンサート、動画の公開についても相談してみる。
『ほぉ……! 面白そうじゃないか! 騎士団の奴等は娯楽に飢えている。是非広めてやってくれ』
カードルさんは話を聞くと、全て簡単に許可してくれ、ホールなども手配してくれる。
とんとん拍子に話が進み、俺はもう始終ヘコヘコと頭を下げっぱなしだった。
……
リバーシに関しては、実際にカードルさんと打ってみた。
カードルさんは戦況を読むのが上手いのか、初めてにしてはかなり強かったが、なんとか勝つことが出来た。
『うむ……単純だが奥深い……』
カードルさんは終盤ひっくり返された盤上を見つめながら、顎に手を当てて戦略をシュミレーションしているようだった。多分次に勝負したら俺が負ける気がする。
『うむ、リバーシは売れるだろうな。騎士団内だけでなく、貴族全体で流行ると思うぞ。今貴族の間で流行っているボードゲームは、複雑すぎて飽きられつつあるのだ。そのゲームを売り出している業者に、リバーシのアイディアを売るのはどうだ?』
人気が下火になりつつあるが、貴族の間では既に別のボードゲームが流行っているらしい。既存製品に喧嘩を売るよりも、手を組んだ方が得策ではないかと問われ、俺も同意する。
俺が個人で売り出すよりも、販売規模が大きくなるだろうし、貴族に目をつけられたくない俺には有り難い話だ。
『はい。それでお願いします』
『うむ。そこの業者とは騎士団で取引がある。話を通しておこう』
本当に何から何まで頼りになる人だ。
コンサートに関しても、音楽プレーヤーでは音が小さすぎるということで、オーケストラに楽曲を提供するという形になった。
カードルさんは音楽が好きなようで、音楽プレーヤーに入った音楽を聴き、感動したように『素晴らしい!』と何度も絶賛していた。
特にクラシック音楽が気に入ったようだ。やはり何百年の時を超え愛され続ける音楽は、世界を超えても愛されるようだ。
楽譜などはないが、オーケストラの人達に音楽を聴かせれば再現出来るだろうとのことだった。
こちらも楽曲1曲で10万カクという値段になった。俺の音楽プレーヤーには何百という楽曲が入っている。
―― ひ、ひえぇ……凄い額が動くな……
人様の作った音楽で金を稼ぐのは良心が痛むが、「異世界だから」と自分に言い聞かせる。
元の世界だったら確実に犯罪者だ。というか異世界に来てからの俺の行動は、割と犯罪行為だらけな気がする。
―― 勝手に商品を売る。音楽を売る。脱獄。誘拐……。
元の世界だけではなく、こちらの世界でもアウトな行為も多い気がするが、俺はそっと現実から目を逸らした。
動画はノイで撮ったものではなく、新しい動画を撮り直して公開することになった。
騎士団で人気のある団員や、協力してくれそうな人に声を掛けてくれるとのことだ。
魔物除けのサシェに関しても、騎士団で効果を確かめた後、効果があるようなら大量に購入してくれることになった。こちらも凄い額になりそうだ。
『本当に何から何まで……! ありがとうございます……!』
俺がそう言って頭を下げると、カードルさんは『なに、私も楽しんでいるから気にするな』と言って本当に楽しそうに笑う。貴族社会は色々と堅苦しいことが多く、肩が凝っていたそうだ。
『いい息抜きになる』
カードルさんは童心に返ったようだと目を輝かせながら、色々と提案してくれた。
……
料理、リバーシ、サシェ、コンサート、動画公開……全ての方針が決まり、ふーっと息を吐く。
実際やってみないと分からないが、現時点でかなりの金額が動きそうだ。
俺はこれから入って来るであろう金額に少し恐怖を覚える。
『……トワ、もう少しだけ時間を貰ってもいいか?』
話が一段落したところで、カードルさんが改めて俺にそう問いかける。
『はい。なんでしょうか?』
これだけカードルさんにお世話になってるのだ。予定があろうと開けるつもりだが、幸い俺の予定はガラガラだ。
『……ファーレスのことでな、少し……相談がある』




