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翌日、起きて支度をしながら、フィーユと今後について話し合う。
レアーレの冒険のことなど、旅の目的をきちんと話していなかったため、具体的に説明する。
『―― という訳で、ロワイヨムでまずやることは、レアーレの家に行くことかな? で、子孫に会う!』
『うんっ!』
フィーユも俺の話を聞きながら、元気に頷く。
『トワ、ずっと一緒だよ! ユビキリしたもんね? 約束破ったら、ハリセンボンノーマス、だよっ!』
『はは、分かってるよ』
フィーユは言葉の意味が分かってるいるのかいないのか、楽しそうに『ハリセンボンノーマス!』と歌っている。ちょっと怖い。
ロワイヨムの滞在期間は決めていないが、カードルさんは『客室は沢山空いているし、好きなだけいていいぞ』と言ってくれている。
あまりに滞在期間が長くなるようなら宿屋に移るつもりだが、当面は客室をお借りするつもりだ。
―― 料理教室もやらなきゃだしな……。
あの後、シェフや騎士団の人、そしてカードルさん直々に『故郷の料理を伝授してくれ』と依頼された。
食堂のシェフだけではなく、貴族お抱えのシェフにも料理を教えることになった。
「はー……気が重い……」
生徒と呼ぶべき人達が何人なのか、どのくらいの年齢や身分なのか、全く分からない。
ただ食堂のシェフだけでもかなり人数がいたし、俺より年齢の高そうな人も多かった。
そして髪色などで判断する限り、全員貴族だろう。
「そりゃそうだよなー……貴族が平民のシェフを雇うとは思えないもんな―……皆ちょっといいとこの出なんだろうなー……」
俺は虚ろな瞳で呟く。
他社の部課長クラスが沢山いる中で、プレゼンテーションをした時のような気分だ。
「あ……思い出したら胃が痛くなってきた……」
俺はキリキリと痛む胃を抑えながら、昨夜カードルさんが渡してくれた服に着替える。『旅で来ていた服は汚れているだろう? 騎士団の物と一緒に洗濯しておこう』と言っていたが、恐らく服を貸すための口実だろう。
多分元々来ていた服だと、安物過ぎてTPOにあっていなかったのだと思う。
何故なら、昨夜カードルさんが部屋に案内してくれた時、鎧を脱いだ俺の服を見て目を見開き、突然洗濯の話をし始めたかと思うと、慌てて服を用意してくれたからだ。
「鎧は超高級品だからなー……」
俺がいつも身に着けている鎧は、アルマが最高級の魔石を使って作ってくれた物だ。この鎧のおかげで、食堂で舐められなかったのかもしれない。
昨日は脱ぐタイミングがなかったため、厨房でも鎧をつけたまま調理したが、今日は流石に鎧をつけないだろう。
「おぉー……肌触りが全然違う……」
俺は借りた服に手を通し、素材の良さに感動を覚える。
『トワ、お着替え終わった?』
フィーユも着替え終わったようで、声を掛けてくれる。
『うん。どう? 似合う?』
笑いながらフィーユの方を向いて服を見せれば、フィーユは『なんか……トワじゃないみたい』と褒めているのかけなしているのかよく分からない感想をくれた。
……
部屋を出て、料理教室の件を詳しく話し合うため、カードルさんのいる団長室に向かう。
コンコンと扉をノックし『おはようございます』と声を掛ける。
『おはよう、トワ、フィーユ。よく眠れたか?』
扉が開き、カードルさんが顔を出す。挨拶をしながら、雑談交じりにカードルさんが苦笑する。
『フィーユが来ているのは感知出来ていたが、トワの存在は全く気付かなかった……。魔力がないというのは、なかなか恐ろしいものだな』
常に魔力を感知し、誰がどこにいるのか把握するようにしているカードルさんからすると、感知出来ない俺の存在は違和感が凄いらしい。
カードルさんは魔力が強い上に訓練しているため、かなり微弱な魔力でも感じとれるそうだ。
俺からしてみれば、常時他の人の存在を感知しているという方が恐ろしいが。
『魔力感知って疲れないんですか? 常に他人の魔力……存在? を感じるということですよね? こう、煩わしいと思ったりしないんですか?』
『うーむ……生まれた時からそれが当たり前だからなぁ……。疲れるという感覚はないな。人や魔物がが少ない場所に行った後、人が多い都市に戻って来た時は、若干煩わしさを感じるが……まぁすぐに慣れるな』
何だか、人混みに対する感想と似ている。確かに俺も、人の少ない地方に行った後、都心に戻ってくると、人の多さに辟易する。しかし数日もすれば、また都心の人の多さに慣れてしまう。
魔力感知が出来ない俺には想像するしかないが、きっと感覚的にはゲーム画面に出てくるミニマップのような感じなのだろう。小さな地図上に、敵や味方がどこにいるか示す点が光っているような感じだ。
『魔法や魔力感知って便利そうですよね。俺も使えるようになりたいんですけどねー……』
全然使える気配がないです……と深く溜息を吐くと、カードルさんは困ったように笑う。
『うーむ……そうだなぁ……イセカイから来た者の話など、私も聞いたことがないからなぁ……』
『あー……やっぱりカードルさんも、異世界から来たという人に会ったことないですか……』
ノイやナーエでも、異世界から来たという人に会ったことはない。ロワイヨムでも希望は薄そうだ。
がっかりと肩を落とす俺に対し、カードルさんは励ますように『ま、まぁレアーレの子孫に会えば、何か分かるかもしれないだろう?』と声を掛けてくれる。
『あぁ、それから私の方で、レアーレの子孫……ヨム・イストリア・ザソンに対し、アポを取っておこう』
カードルさん曰く、レアーレの子孫であるザソンさんは、有名な観光地の管理人としてかなり多忙らしく、なかなか会える人ではないらしい。
考えてみれば、ノイの王であるロワが会うような人だ。そこら辺の一般人が『会いに来ましたー』と言って会えるような人ではないのだろう。
王国騎士団の団長という権力を目の当たりにし、俺は拝むように礼を言う。
―― あっぶねー……行けば会えると思ってた……
俺は人脈の大切さを改めて思い知ると共に、自分の考え無しっぷりに呆れた。
―― そうだよな……元の世界だって著名人と会うにはアポ取り、予約が大事だもんな……。いきなり行って会えるわけないよな……。
俺は心の中で、カードルさんと知り合うきっかけになったファーレスにも、感謝を捧げる。
『あ、そういえばファーレスはどうしてますか?』
そのままついでとばかりに、ファーレスの様子を聞いてみた。




