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平凡サラリーマンの絶対帰還行動録  作者: JIRO
第5章【ロワイヨム編】
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日々読んで下さりありがとうございます。感想やFA、レビュー、ブクマ、評価、本当に励みになっております!

 

 俺はスマートフォンのメモを確認し、確信を得る。


『あ、あの……アヴァンさんは、ノイのペールとメールをご存知ですか? 俺はノイにいた時、2人のところにお世話になっていたんですが……』


 俺の言葉に、アヴァンさんが目を見開く。


『知ってるも何も……! 俺の義父と義母だ! そうか……ペールとメールのところにいたのか。凄い偶然だ!』


 アヴァンさんは懐かしむように目を細めると、穏やかな笑みを浮かべる。


『ペールもメールも本当に優しい人達だった……。その、レイは……俺の娘は元気にしてたか?』


 殆どノイに帰れず、ペール達に預けたきり、顔を見れていないのだとアヴァンさんが寂しげに笑う。


『元気でしたよ。あ、写真があります!』


『シャシン?』


 俺はスマートフォンのアルバムからレイの写真を探し、アヴァンさんに見せる。


『これは見事な肖像画だ……! レイ……大きくなったなぁ……!』


 アヴァンさんは写真の緻密さに驚きつつも、スマートフォンの画面を覗き込み、レイの顔を見て相好を崩す。


『ありがとう、トワ。まさかこんなにも見事な肖像画で、レイの成長した姿を見れると思わなかった……! もし良ければ、妻のファムにも見せてやりたいのだが……この肖像画を借りれないか?』


 アヴァンさんはそれはそれはじっくりとレイの写真を眺めた後、名残惜し気にスマートフォンを俺に戻しながら問いかける。


『あー……すみません、これは肖像画ではなくて……』


 俺はスマートフォンの名称や機能を、実演を交えてザックリと説明する。説明を聞きながら、アヴァンさんは勿論、カードルさんも横で驚いたように目を見開く。


『―― このように、レイの写真だけじゃなく俺の大切なデータも入っていまして……使い方もかなり複雑なので、お貸しすることは難しいです……』


 すみませんと頭を下げると、アヴァンさんは『いやいや、こちらこそ無理を言ってすまない』と言いながら、代案を出してくれる。


『もし良ければ、妻のファムに会ってくれないか? レイやノイの話も聞きたい。ファムもきっと喜ぶ』


 ファムさんというのが、恐らくペールとメールの娘だろう。まさかロワイヨムに来て、ペール達の娘夫婦に会えるとは思わなかった。

 俺はアヴァンさんの提案に『はい、是非!』と大きく頷く。




 その後はアヴァンさんとノイの話で盛り上がった。


『ははっ、アルマにソルダじゃないか! 2人共変わってないなー!』

『おぉ! これはアルマのとこのティミドか! 大きくなったな……!』

『ペールとメールも元気そうで安心したよ』


 スマートフォンに残るノイの写真を見せると、アヴァンさんは故郷を懐かしむように笑う。

 盛り上がっていると、騎士団の1人がアヴァンさんにそっと声を掛ける。どうやら仕事に戻らなくてはいけないようだ。


 改めてアヴァンさんの家に行く約束を交わし、アヴァンさんはカードルさん達に挨拶をして、食堂を後にした。


 アヴァンさんがいなくなった後、俺達の会話を聞いていたカードルさんも、偶然の出会いを喜ぶように明るい声を上げる。


『まさかトワが、ファムの実家でお世話になっていたとはな……! 驚きだ!』


『俺も驚きました……! カードルさん、アヴァンさんを紹介してくれてありがとうございました』


 俺が頭を下げると、カードルさんは子供の成長を見守る親のような顔で、懐かしむようにアヴァンさんとの思い出を語る。


『アヴァンは元々ノイの貴族だったそうだ。妻のファムは平民出身だったから、一緒になる時はそりゃあ揉めに揉めたらしい』


『そうなんですか……』


『アヴァンは諦めず、愛のために戦ったそうだ。失ったものも多かったが……アヴァンは最愛の妻と、可愛い娘を得た』


『素敵ですね……』


 身分違いの恋なんて、きっと様々な障害があったのだろう。俺は恋愛ドラマや映画のストーリーを思い浮かべながら『凄いなぁ……』と呟く。


『アヴァンがファムと共に人生を歩めることは、素晴らしいことだ。しかし愛し合う人間同士なのだから、私は当然のことだと思う。そもそも失ったものがあるということが、おかしな話だと思わないか? 人を愛することに、身分の何が関係あると言うのか……! 馬鹿げた話だ……!』


 カードルさんは話しているうちに、当時の怒りを思い出したのか、きつく眉間に皺を寄せる。


『アヴァンやファムには、幸せになって欲しいと思っている。ノイに預けて来たというレイのことは、私もアヴァン自身もずっと気になっていた……。元気そうで何よりだ』


 カードルさんはレイの写真を見て、表情を和らげる。そのままスマートフォンに保存された他のデータも見ながら、しみじみと言葉を続ける。


『スマートフォン……それにシャシンにドウガか……凄いものだな……。この小さな板の中に、本当に人が入っているようだ……』


 カードルさんは興味深そうにスマートフォンを持ち上げ、裏返したり、上下に振ってみたりしていた。


『まぁ……あまり人前で見せない方がいいだろうな。多分研究者に見つかるとしつこいぞ』


 カードルさんは俺にスマートフォンを返しながら、そう忠告する。


『研究者、ですか?』


 俺はスマートフォンを受け取りながら聞き返す。


『あぁ。魔力や魔物の生態等、この世界にはまだまだ分からないことが沢山ある。そういうものを研究している者達だ』


 多分ノイで会った、レーラーのような人達なのだろう。元の世界と同様、様々な分野の研究者がいるらしい。


『私にはそのスマートフォンが、凄いものだということしか分からないが、恐らくどの分野の研究者に見せても興味を持つだろうな』


 そう言った後、カードルさんは俺の耳元に口を寄せ、小声で忠告する。


『気をつけるんだぞ、トワ。研究者の殆どは貴族だ。権力に物を言わせ、スマートフォンを無理矢理手に入れようとしたり、盗みを働くことも充分に考えられる』


 万が一の場合は、騎士団やカードルさんの名前を出して良いと言ってくれ、俺は何度もお礼を言いながら頭を下げる。カードルさんは気にするなと笑いながら、更に言葉を続ける。


『それからもちのことだが……私は騎士団という立場で、通常より魔物の知識を持っていると自負している。しかしこんな魔物は、見たことも聞いたこともない』


『えっ!?』


 カードルさんの言葉に、俺は思わずもちの入った鞄を見つめる。



『ノイの方にだけ生息する珍しい魔物なのかもしれないが……未発見の魔物なんて、研究者に見つかれば確実に注目の的だ。もちも狙われるかもしれない。気をつけろ』



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