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俺はスマートフォンのメモを確認し、確信を得る。
『あ、あの……アヴァンさんは、ノイのペールとメールをご存知ですか? 俺はノイにいた時、2人のところにお世話になっていたんですが……』
俺の言葉に、アヴァンさんが目を見開く。
『知ってるも何も……! 俺の義父と義母だ! そうか……ペールとメールのところにいたのか。凄い偶然だ!』
アヴァンさんは懐かしむように目を細めると、穏やかな笑みを浮かべる。
『ペールもメールも本当に優しい人達だった……。その、レイは……俺の娘は元気にしてたか?』
殆どノイに帰れず、ペール達に預けたきり、顔を見れていないのだとアヴァンさんが寂しげに笑う。
『元気でしたよ。あ、写真があります!』
『シャシン?』
俺はスマートフォンのアルバムからレイの写真を探し、アヴァンさんに見せる。
『これは見事な肖像画だ……! レイ……大きくなったなぁ……!』
アヴァンさんは写真の緻密さに驚きつつも、スマートフォンの画面を覗き込み、レイの顔を見て相好を崩す。
『ありがとう、トワ。まさかこんなにも見事な肖像画で、レイの成長した姿を見れると思わなかった……! もし良ければ、妻のファムにも見せてやりたいのだが……この肖像画を借りれないか?』
アヴァンさんはそれはそれはじっくりとレイの写真を眺めた後、名残惜し気にスマートフォンを俺に戻しながら問いかける。
『あー……すみません、これは肖像画ではなくて……』
俺はスマートフォンの名称や機能を、実演を交えてザックリと説明する。説明を聞きながら、アヴァンさんは勿論、カードルさんも横で驚いたように目を見開く。
『―― このように、レイの写真だけじゃなく俺の大切なデータも入っていまして……使い方もかなり複雑なので、お貸しすることは難しいです……』
すみませんと頭を下げると、アヴァンさんは『いやいや、こちらこそ無理を言ってすまない』と言いながら、代案を出してくれる。
『もし良ければ、妻のファムに会ってくれないか? レイやノイの話も聞きたい。ファムもきっと喜ぶ』
ファムさんというのが、恐らくペールとメールの娘だろう。まさかロワイヨムに来て、ペール達の娘夫婦に会えるとは思わなかった。
俺はアヴァンさんの提案に『はい、是非!』と大きく頷く。
その後はアヴァンさんとノイの話で盛り上がった。
『ははっ、アルマにソルダじゃないか! 2人共変わってないなー!』
『おぉ! これはアルマのとこのティミドか! 大きくなったな……!』
『ペールとメールも元気そうで安心したよ』
スマートフォンに残るノイの写真を見せると、アヴァンさんは故郷を懐かしむように笑う。
盛り上がっていると、騎士団の1人がアヴァンさんにそっと声を掛ける。どうやら仕事に戻らなくてはいけないようだ。
改めてアヴァンさんの家に行く約束を交わし、アヴァンさんはカードルさん達に挨拶をして、食堂を後にした。
アヴァンさんがいなくなった後、俺達の会話を聞いていたカードルさんも、偶然の出会いを喜ぶように明るい声を上げる。
『まさかトワが、ファムの実家でお世話になっていたとはな……! 驚きだ!』
『俺も驚きました……! カードルさん、アヴァンさんを紹介してくれてありがとうございました』
俺が頭を下げると、カードルさんは子供の成長を見守る親のような顔で、懐かしむようにアヴァンさんとの思い出を語る。
『アヴァンは元々ノイの貴族だったそうだ。妻のファムは平民出身だったから、一緒になる時はそりゃあ揉めに揉めたらしい』
『そうなんですか……』
『アヴァンは諦めず、愛のために戦ったそうだ。失ったものも多かったが……アヴァンは最愛の妻と、可愛い娘を得た』
『素敵ですね……』
身分違いの恋なんて、きっと様々な障害があったのだろう。俺は恋愛ドラマや映画のストーリーを思い浮かべながら『凄いなぁ……』と呟く。
『アヴァンがファムと共に人生を歩めることは、素晴らしいことだ。しかし愛し合う人間同士なのだから、私は当然のことだと思う。そもそも失ったものがあるということが、おかしな話だと思わないか? 人を愛することに、身分の何が関係あると言うのか……! 馬鹿げた話だ……!』
カードルさんは話しているうちに、当時の怒りを思い出したのか、きつく眉間に皺を寄せる。
『アヴァンやファムには、幸せになって欲しいと思っている。ノイに預けて来たというレイのことは、私もアヴァン自身もずっと気になっていた……。元気そうで何よりだ』
カードルさんはレイの写真を見て、表情を和らげる。そのままスマートフォンに保存された他のデータも見ながら、しみじみと言葉を続ける。
『スマートフォン……それにシャシンにドウガか……凄いものだな……。この小さな板の中に、本当に人が入っているようだ……』
カードルさんは興味深そうにスマートフォンを持ち上げ、裏返したり、上下に振ってみたりしていた。
『まぁ……あまり人前で見せない方がいいだろうな。多分研究者に見つかるとしつこいぞ』
カードルさんは俺にスマートフォンを返しながら、そう忠告する。
『研究者、ですか?』
俺はスマートフォンを受け取りながら聞き返す。
『あぁ。魔力や魔物の生態等、この世界にはまだまだ分からないことが沢山ある。そういうものを研究している者達だ』
多分ノイで会った、レーラーのような人達なのだろう。元の世界と同様、様々な分野の研究者がいるらしい。
『私にはそのスマートフォンが、凄いものだということしか分からないが、恐らくどの分野の研究者に見せても興味を持つだろうな』
そう言った後、カードルさんは俺の耳元に口を寄せ、小声で忠告する。
『気をつけるんだぞ、トワ。研究者の殆どは貴族だ。権力に物を言わせ、スマートフォンを無理矢理手に入れようとしたり、盗みを働くことも充分に考えられる』
万が一の場合は、騎士団やカードルさんの名前を出して良いと言ってくれ、俺は何度もお礼を言いながら頭を下げる。カードルさんは気にするなと笑いながら、更に言葉を続ける。
『それからもちのことだが……私は騎士団という立場で、通常より魔物の知識を持っていると自負している。しかしこんな魔物は、見たことも聞いたこともない』
『えっ!?』
カードルさんの言葉に、俺は思わずもちの入った鞄を見つめる。
『ノイの方にだけ生息する珍しい魔物なのかもしれないが……未発見の魔物なんて、研究者に見つかれば確実に注目の的だ。もちも狙われるかもしれない。気をつけろ』