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日々読んで下さりありがとうございます!とうとう番外編も含めると100話目です!
俺の心配は杞憂に終わり、食事を始めた人達は皆『こりゃあ美味い!』と大絶賛してくれた。
元の世界でも国を超え愛されてきた料理達だ。こちらの世界でも、地域が変わろうと受け入れて貰えたようだ。
俺は胸を撫で下ろしながら、改めてカードルさんにお礼を言う。
『あの……色々と協力、ありがとうございました』
『はは、気にするな。寧ろこんなに美味い料理を食べさせてもらったのだ。こちらが礼を言う立場だろう』
カードルさんは色々な料理に手を出しながら『いやしかし、本当に美味いな……』と舌鼓を打つ。
すると『団長、食いすぎっすよ!』と横から騎士団の人が突っ込みを入れてきた。
『はは、すまんすまん。つい美味くて手が止まらなかった』
カードルさんは笑いながら、残りの料理を団員の方へ差し出す。
シェフ達が今も追加で料理を作ってくれているが、圧倒的に量が足りていない。
料理が並んでいた時は、皆料理に夢中で『美味い』という言葉しか聞こえてこなかったのだが、食べるものがなくなり、段々と騎士団の人達が雑談を始める。
『えーっと、トワだったか? 美味い料理をありがとな』
『美味かったぜー! ありがとなー!』
『また頼むぞ!』
騎士団の人達が気さくに話しかけてくれる。髪の色を見る限り、カードルさん程ではないが、皆かなりの魔力の持ち主だ。恐らく全員貴族だろう。
俺は緊張しつつ『は、はい! こちらこそありがとうございました!』と頭を下げる。
『ファーレス、お前も無事でよかったよ』
『……あぁ』
『どうせまたどっかで捕まってたんだろー?』
『……あぁ』
騎士団の人達はそのままファーレスにも話しかけていく。和気あいあいとしていて、いい雰囲気だ。
俺はその様子を見ながら、カードルさんに笑顔で話しかける。
『騎士団って……もっと怖い所だと思ってたんですが……いいところですね』
カードルさんはその言葉を聞き『あぁ、ありがとう』と嬉しそうに笑う。
しかしその直後、和やかな空気を壊すような事件が起きた。
『ファーレス……? 何だ、死んでなかったのか……』
『魔力のない平民がよくノコノコと戻ってこれたなぁ?』
『おいおい、ファーレスは平民じゃないだろう? 信じられないくらい魔力はないが、一応貴族なんだから……平民なんて言ったら可哀想だ』
『ははは、貴族なのに魔力がない方が可哀想だと思うがねぇ……』
新たに食堂に入って来た2人組が、ファーレスの方を見て馬鹿にしたように話しかける。鎧を着ているので、この2人組も騎士団に所属している人のようだ。
ファーレスは絡まれることに慣れているのか、特に表情を変えず無言で食事を続ける。
『おい、やめろよ……』
『騎士団では実力が全てだと、団長がいつも言ってるだろ?』
先にファーレスと会話していた騎士団の人達が、険しい顔で2人組に注意する。そのまま険悪な雰囲気になり、一触即発な空気が辺りに流れ出す。
『トワ……見苦しい所を見せてすまないな』
カードルさんは小さく俺に謝罪した後、勢いよく立ち上がり、睨み合う団員達の方へ向かっていく。
『やめないか! ファーレスは確かに魔力は弱いが、実力は十分だ。騎士団では実力が全てだと何度言ったら分かる!』
カードルさんは普段の優しい雰囲気が嘘のように、低く鋭い怒声を上げる。
怒鳴りつけられた2人組は『だ、団長……いたんですか……』と驚きの声を上げ、慌てたように頭を下げる。
『騎士団内に不和を招く発言は控えろ! いいな?』
『『は、はいっ!』』
2人組は気まずげに返事をしたあと、明らかに心の籠もっていない謝罪をファーレス達に伝え、そそくさと食堂から出て行った。
2人組がいなくなったあとは、また段々と先程のような和気あいあいとした雰囲気に戻って行った。
カードルさんは小さく溜息を吐きながらこちらの席に戻って来ると、再び『見苦しいところを見せた……すまない』と謝罪を重ねる。
俺は何と声を掛けていいか分からず『い、いえ……!』と言いながら、何度も左右に頭を振った。
……
若干気まずい事件はあったが、追加の料理も運ばれ来て、また穏やかな空気が食堂内に流れる。
カードルさんも気を取り直したように『そういえば……』と俺達に話し掛けてくれる。
『トワ、貴公はノイから来たと言っていたな?』
『あぁ、はい』
『アヴァンを知っているか? 騎士団で唯一、ノイ出身なんだ』
『アヴァンさん……いえ、残念ながらお会いしたことがないですね……』
『そうか……まぁここ最近忙しくて、全然里帰りしていた様子もなかったからなぁ……』
カードルさんはそう言いながら食堂を見回し『アヴァン! ちょっと来てくれ!』とアヴァンさんを呼びつける。
『はい。何かご用ですか、団長?』
返事をしながら、1人の男性がこちらに向かって歩いてくる。
年は30代前半くらいだろうか?
薄い青緑色の髪を短く切り、少し下がった目尻が優しげな雰囲気を醸し出す、爽やかな印象の人だった。
『トワ、ノイ出身のアヴァンだ。アヴァン、こちらは今日料理を提供してくれた、私とファーレスの客人のトワだ。ノイにいたことがあるそうだ』
カードルさんが紹介してくれたので、互いに頭を下げる。会社で名刺交換をするようなノリで、俺はアヴァンさんに自己紹介する。
『初めまして、渡永久と申します。よろしくお願い致します』
『あ、ご丁寧にどうも。ノイ・ジェンティーレ・アヴァンです。こちらこそよろしく』
アヴァンさんは気さくに笑い『いやー、料理美味しかったです。ありがとう』と話し掛けてくれる。
―― あれ……? ノイ・ジェンティーレ・アヴァン……ジェンティーレ……?
アヴァンさんのフルネームを聞き、俺は引っかかりを覚える。このファミリーネーム……凄く聞き覚えがあるような……?