終止符とはいかないけれど。君に伝えたい。
※この作品は@ちょす。の自己満に満ち溢れています。
※なんかスッキリしません。
※この作品は投稿主の初作品です。優しい目で見てください。
お互いに逢った事はなかった。しかし、お互いがお互いのことを認識していた。初めて君を見た時の感想は[キャピキャピしたうるせえ女]だった。今思うとひどい偏見である。今の印象と言えばうるせえ女だけど何故か目が離せなくなるその笑顔と少しだけ抜けているその性格が何処が愛くるしく感じてしまう自分がいる。あの偏見は色濃く残るものの、どうしても君を見ていたいと思ってしまう。
俺もとんだ馬鹿になってしまったものだ。
着信音と共に目を覚ました。暗い部屋の中に流れるのは超有名バンドの恋の歌だ。30代に差し掛かろうとしているのに恋の歌は痛いだろうか。いや、有無を言わさず痛いだろう。明るく光るディスプレイを見れば【悠木 和成】と表示がされている。こいつなら出なくてもいいかとまた布団の中に入ろうかと考えたが無視するというのも心が痛み、渋々着信に応答することにした。
「もしもし?和成?どうしたんだよ。」
『うわやっと出た。もーもっと早く出ろよ!』
こいつはいちいちイラつくやつだ。もう20数年も幼馴染というやつをしているがこいつはそういうやつなんだ。眉間に皺が刻まれていく。今誰かが部屋の中に居たら多分そいつを殴っていた。
「……んで、どうしたんだよこんな時間に。」
『よくぞ聞いてくれた那智氏!今日俺の家来ない?』
「は?なんでだよ。」
『息子がさー俺お父さんとじゃなくて那智くんと遊びたい!だってさー。麗菜も久々に会いたいって言ってるしいいだろ?な?』
和成と和成の嫁の麗菜には、今年で4歳になる息子がいる。俺が大学4年の秋に2人は結婚した。2人は俺と同い年。ということは2人とも当時22歳だった。和成は社会人だったものの麗菜はまだ大学生。周囲の反対もなかった訳では無い。しかし決めたらやり遂げるタイプの和成は反対を押し切りその年に結婚をした。
そして4年前2人の子供である亮斗が産まれた。あの時はもう感動ばかりだった。普段友人から言われる”冷徹男”には程遠い顔をしていただろう。涙を流しながら和成と抱き合った事を今でも鮮明に覚えている。
あいつらが結婚して7年、亮斗が産まれて4年。正直人生の中のピークがここなんじゃないかってほど色々なことが起きた。今まで体験してこなかったような感情が沢山見れた。
しかしその時芽生えてしまった禁忌の感情が今も俺を苦しめることになっている。正直自業自得。だからこの気持ちを誰かに言うこともせず墓場まで一緒に行く気だ。
『おーい、どうしたんだよ。急に黙り込んで。』
「…いや、何でもない。明日1日何も予定ないし行こうかな。9時くらいでいい?」
『おーそれくらいでいいぞ。いやー2人とも喜ぶなー。1ヶ月ぶりくらいだし。』
「マジ?もうそんなに行ってなかったのか。じゃあ着いたら連絡する。」
『おうじゃあよろしくなー。』
電話を切って時間を確認する。時計の針は午前6時を指していた。今から支度をすれば何とか9時には間に合う時間だろう。即席のインスタントコーヒーを飲みほし、軽く身だしなみを整えてから家を出る。2月に差し掛かった風は肌寒いものだが、それと同時に春を待ちわびるようだ。だから俺はこの季節の風が大好きだ。
今日は昼頃から暖かくなると予報が出ていたから外で遊ぶのがいいかもしれない。そのまま夕飯を食べて和成と2人で晩酌をする。最高のプランかもしれない。後で和成と麗菜に確認をしよう。最近は仕事ばかりでそれと言って楽しいこともなかったから内心ワクワクしている自分がいる。内心では無いな。多分顔に出ている。手で口元を抑えながらこの幸せを噛み締めていた。
このあと何が起きるのかなんて今の俺に分かるわけがなかった。
子供というのは底なしの体力の持ち主である。久々に逢った亮斗は前逢った時よりも大きくなっていたし、元気と体力も成長していた。30間近のおっさんの体力をすべて奪うほどに。
そして体力を奪った主は今お休み中だ。布団の中で静かに寝息を立てながら寝ている。あんなに勢いがあった亮斗も寝てしまえば普通の子供、言わば天使に早変わりだ。その隣で寝ている俺の幼馴染も童顔と言われるが故か寝てしまうと10歳ほど若返る。もう30間近のおっさんには見えない。自然と料理をしていた手が止まり、笑が零れた。
「本当にかずくん30歳間近には見えないよね。私なんてどうやれば若く見えるのか毎日試行錯誤してるのに。」
「あれ?俺なんか言ってた?」
「30間近には見えねえよなって。」
「マジか。」
「マジです。」
小さく笑いながら麗菜は料理を再開した。この家に来る時は必ず俺と麗菜が料理を担当している。料理は1人暮らしを10年以上続けているおかげで趣味と化していたし、亮斗が料理を食べた時の顔が好きなので、自然とレパートリーが増えた。今となってはプロ級の腕前を持つほどだ。他にも少しだけ理由はあるが言えるような感情ではない。むしろ言わない方がいい感情だ。
「でもともくんはいい歳のとりかたをしてるよね。」
「なんだよ、老けてるとでも?」
「違うよー。何て言うか歳を追うごとにカッコよくなってる!」
「…!…そう言うのは和成に言えよ。あいつ嫉妬すんぞ。」
ポーカーフェイスを保った俺を褒めて欲しい。あんなこと言われたら誰だって顔赤くなるぞ。ましてや、……好きな人となれば。
気を紛らわすために完成したスープに火をかける。
「うーん。かずくんはカッコいいより可愛いって感じ!」
「お前絶対それ和成の前で言うなよ。てか全部完成した。そろそろ2人とも起こさねえと。」
「そうだね。じゃあ起こしてくる。」
パタパタとスリッパを鳴らしながらリビングにあるシングルベッドに向けて走っていく麗菜の背中をその姿が見えなくなるまで見続けた。
キッチンの棚に手をかける。時間が経つ事に顔に熱が集まっていく。傍から見れば面白い光景だろう。ここには誰も居ない。だから顔を隠す必要も無い。イコールで結びついたその言葉に俺がどれだけ焦っていたのかが浮き彫りになっている。そんな自分に呆れるように大きな溜息をついた。
「あんなの……反則だろ……!」
普通の思考回路ならばただのお世辞で済んでいるだろうが、恋する思考回路はそうは取ってくれない。あれは反則技ではないか。好きな人から[カッコいい]なんて言われてみろ。俺の心は爆発寸前だ。
しかし、俺が抱えている爆弾は絶対に爆発なんて出来ないんだ。相手は既婚者。しかも幼馴染の。ここで爆発なんてしたら俺は何を失う?信頼?友情?いや、もっとたくさんのものを失うはずだ。
だから俺はただ幼馴染の家族と仲がいい友人Bを演じるんだ。
「亮斗寝たから私もお風呂入ってくるねー。お酒は程々に!」
「りょーかい。」
「おっけー。」
時刻は夜の10時前。お互いの私生活や仕事の話を酒の肴にしながら出張先で手に入れたといういも焼酎を飲みながら男2人で晩酌をしていた。2人とも酒が回り始めて時間が経った時、和成が口を開いた。
「那智はさ、結婚しねえの。」
1番聞かれたくなかった相手に1番聞かれたくないことを聞かれた。ここで妙な間を開けてしまったら不思議がられるだろうからいつものようにテンプレのような言葉を言った。
「今は仕事が恋人だし。俺好きな人いるしね。」
「その好きな人ってよ。もしかして麗菜のこと?」
「…!何言って…、」
和成の目は本気だった。まるで心の中を隅々まで見られているようで自然と目を逸らしてしまった。いつから気づかれていた?なんで今なんだ?どうしてこんなこと聞くんだよ!頭の中は恐怖と動揺で埋め尽くされていた。どうしても言葉を紡ぐことが出来なかった。
「……何言ってんだよ、和成。そんなわけ……、」
「お前さ、俺に嘘つけると思ってるの?気づいてたよ。多分お前が気づくよりもずっと前に。お前麗菜に逢う前まではキャピキャピしたうるせえ女っぽくて無理とか言ってたくせに逢った途端顔つきめっちゃ変わってたから。あの時初めて思ったよ。お前って恋する時こんな顔すんだなって。」
「…………!」
「…なあ那智。お前、麗菜のこと好き?」
「俺は……」
どう言えばいいのか分からなかった。麗菜が好きだってここで言えばいいのか。馬鹿だろ。言ってどうなるよ。もしここで俺が麗菜を好きだと言ったらお前はなんて応える気だよ。結局突き放すんだろ。
「那智!俺はお前を軽蔑したりしない。例え麗菜をお前が好きだったんだとしても。俺とお前の関係は終わらないし崩れない。だから…だから!今くらい俺に本音、ぶつけろよ!」
「俺は……俺は。麗菜が好きだ…!ずっと!ずっと…!麗菜が好きだった。」
自分の思いを言い終わった時、和成がリビングからお風呂場に向かう通路に目を移していることに気がついた。まるでなにか最悪の事態が目の前で起きた時のような怯えた目だった。正直何が起きているのかなんて容易に想像出来た。ああ、終わった。俺達はゼロになったんだ。
「……麗菜。」
「ごめん、聞く気なんてなかったの……ごめん。」
そのまま玄関に向かって走り去っていく姿を見ることも出来ずにただ下を向いていた。頭を占めているのはメガティブな感情ばかりでこれからの味気のしないであろう未来を想像するばかりだった。
「…結局こうなんじゃん。だから!だから…、言いたくなかったんだよ。俺はこのままで良かったのに。」
「お前、それ本気で言ってんのかよ。」
「本気だよ。だってこんなこと言わなかったら、今こうなってねえだろ。…苦しんで悩むのは俺だけで良かったんだよ。お前は幸せな生活送ってたから分かんねえかも知んないけどさ!」
正直やけくそだった。悪いのはこんな感情を芽生えさせてしまった俺のせいなのに。俺が麗菜に恋なんてしなければ誰も苦しまずに済んだのに。誰かに当たらないと自分を保てなくなりそうだった。
「お前だけ悩んでればいい?…はっ笑わせんなよ。初めてお前と麗菜を逢わせた時どれだけ俺が焦ったと思う?お前の前で俺が見たことないような顔で笑ってる麗菜を見た時俺がどう思ったと思う?また俺はお前に負けるのかって思ったよ。…俺それで焦ってさ、周りの反対押し切って麗菜と結婚したんだよ。」
「は……?だってそんなこと一言も、」
「言えるわけねえじゃん。…結局俺らさ2人揃ってめっちゃカッコ悪かったんだよ。」
感情に歯止めが効かなくなり涙が溢れ出した。息が出来ないほど涙を流した。今までの後悔と自分の気持ちを見ない振りをしていたあの頃の自分への懺悔として。
「俺、麗菜のこと、迎えに行っていい?」
「ああ、今日は譲ってやる。主役はいい所だけかっさらって行くのがカッコいいだろ?」
「っはは!なんだよそれ!…ありがとうな、和成。俺の気持ちに気づいてくれて。」
「俺もお前と真っ向から話せて良かった。……行ってこい!」
和成の言葉を聞いたらいつの間にか体が動いていた。麗菜が居るであろう場所には大体だが見当がついている。昔よく3人で行っていたあの公園だろう。ここからは歩いて10分。走れば5分程のところだ。もう1度足に力を入れて地面を蹴る。失恋だと確定している恋に終止符を打つために。
「……麗菜!」
息は上がりきっているし足も全速力で走ったせいで疲れきっていた。今更好きな人の前でカッコよくいたいなんて思わない。というか着信音を恋の歌にしている30歳目前の男性はカッコよくはない。
「麗菜。」
もう1度名前を呼ぶ。振り返った君には涙の跡と、貼り付けたような笑顔があった。
「どうしたの、やすくん。さっきのことなら私全く気にしてないから!安心して!他言もしないから。」
張り付いた笑顔はまるで仮面のように外れることはない。無理をさせているのは俺のせいだと思うと胸が締め付けられた。
「……ごめん、こんなことするのずるいって分かってるけど。これで最後だから。」
最後の悪あがきだった。こんな事したら麗菜が困るってことも分かっての行動だった。俺よりひと回り以上小さな体を抱き締めた。
「ねえ、やすくんどうした、」
「好きだ。麗菜のことが。ずっと好きだった。多分ずっとこれからも。当分は忘れられない恋だと思う。……お前には和成だって、亮斗だっている。だから叶わないって分かってるけど。お前を好きになったんだ。」
思ったことを紡いだだけだから文章はまとまっていないし、ただ自分の思いを言っただけの言葉になった。でも後悔はしていない。これが本当の俺だから。
「あのね、やすくん。私結婚式の日にかずくんに話したことがあるの。かずくんのことは愛しているけど、好きな人がいるって。そしたらそれって那智だろって言われたの。……図星だった。それでもかずくんは私と結婚したいって言ってくれた。……ねえ、やすくん。新しい形で私たち家族を好きになって欲しいの。」
その言葉はイコールごめんなさいだった。分かっていた。そして俺もこの答えを望んでいた。和成と麗菜と亮斗を好きになる。これが最高の答えだった。
「もちろんだよ。というかもう好きを通り越してお前ら家族を愛してるよ。」
「……そっか、そっか。ありがとう……!」
「もう帰ろうぜ。和成が待ってる。」
触れ合うことなんてもちろんできない。しかし、思いが伝わらないようにと何処か壁を作っていたあの日よりも心の距離と言うやつは縮まったはずだ。多分まだそういう意味で麗菜が好きだ。ずっとこれからも。しかし、家族全員をまとめて好きにこの気持ちが変わることが出来たのなら俺は本当に幸せになれると思う。
END
皆様、ここまで読んでいただきありがとうございました!@ちょす。の初作品、いかがだったでしょうか?是非いい所も悪い所もコメントして頂けますと幸いです…!
次回投稿させて頂くのは和成くんを主人公にした大学時代の麗菜との出会いのお話です。こちらも私の自己満になっておりますので付いて来れるよーって方は付いてきてください!
ではまた次回にお会いいたしましょう。(毎週土曜日投稿予定)