少なくとも俺はそうだよ。
私は一瞬、躊躇しましたがこの手首から出ている糸が果たしてどこに繋がっているのかのほうが大切でした。
知らない女の子の性行為を見てしまっても、透明人間になった私はもう興味などありませんでした。
私は目の前の扉をすり抜けました。
目の前には女の子の可愛らしい部屋がありました。
隅っこのベッドで裸で交わる高校生くらいの若い男女がいました。
男の子は女の子に覆い被さるようにして、必死に体を動かしていました。
女の子は必死に男の子にしがみつくようにして、苦しそうに抱きついていました。
そして、そんな男女を部屋の隅っこで眺めている山内くんの姿がありました。
山内くんは無表情で、二人の行為を傍観していました。
怒りも悲しみも喜びも、私には彼の心情を読み取ることはできませんでした。
私の手首から伸びていた白い糸は、やっぱり山内くんの手首に繋がっていました。
彼は私を一瞥すると、驚くこともせず、また二人に視線を戻しました。
汗だくになって抱きあう二人は、しばらくして果てました。
二人は裸のまま、彼女のベッドで横たわり、深いキスを何回も何回も繰り返しました。
聞いているこっちが恥ずかしくなるような言葉も、そのたびに言い合っていました。
そして男の子の体が回復すると、どちらからともいわず互いに体を愛撫し始め、また行為に耽りました。
男の子は女の子の体が壊れてしまうのではないかと思うくらい激しく快感を求めました。
しかし女の子も満たされているような表情を浮かべているので、満更ではないのでしょう。
彼らの行為は窓の外が暗くなるまでひたすら繰り返されました。
女の子の親はその間帰ってきませんでした。
男の子は体液で汚れた箇所をティッシュで拭き取り、服を着ました。
服を着てからも、何度もキスを繰り返し、ようやく家から出ていきました。
その様子を見届けると、山内くんは黙って出ていきました。
私もここにいても仕方がないので、ついていくことにしました。
山内くんは夜になった住宅地を数分歩いたのち振り返り、私を見ました。
「さっきの女の子が、俺の彼女だった人だよ。でももう忘れられてしまった」
相変わらず山内くんの目は前髪で隠れていて、表情からは感情が読み取れませんでいた。
声色はわざと作ったように無機質でした。
「山内くんが覚えているならいいんじゃないですか……?」
「俺が覚えていても、もう向こうが俺のこと忘れちゃってるから、どうしようもない」
それを聞いた私が答えられないでいると、山内くんは続けて言いました。
「透明人間になってしまった日から、俺はこの世界には必要ない存在になったんだ。いや……、透明人間になる前から、この世界には必要なんてなかったんだ。俺がいなくても、世界はちゃんと回ってる。あいつも、俺がいなくてもちゃんと好きな人を見つけて幸せになってる」
「……そんなこと」
「世界の発展のために本当に必要な人間なんて、全人類の1%以下で、それ以外の99%以上の人間は生きてても死んでも、世界に何の影響も与えられない」
「……そんなことないよ」
私がそう言うと、山内くんは寂しそうに笑って
「……少なくとも俺はそうだよ」
と言いました。