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ふたりぼっちの透明人間





 女の子は眩しいくらいの笑顔で話し始めました。




「実験は終了しました。透明化の解除を行いますので私についてきてください」

 実験? 透明化?

 文系卒の私が普段使うことのない言葉に戸惑いながら、私は彼女についていくことにしました。





 オフィス街の一角にそびえ立つビルのワンフロアに案内されました。

「では、これから透明化の解除を行います。あちらの更衣室に専用の治療服がございますので着替えてください」

 私は言われるがまま指示に従いました。




「では、次にあちらの部屋に入ってください。少しだけ痛みが生じることがあります。心臓にご病気などはお持ちではないでしょうか?」

「……大丈夫です」

「分かりました! ではこちらにどうぞ!」




 案内された部屋はトイレの個室のような空間でした。

 正面に大きな板があり、そちらの方を向いて20分静止しておくようにとのことでした。

 電子レンジのような振動音が部屋に響き、体の細胞がヒリヒリと焼けるように痛みました。




 山内くんも生きていたら、今日を迎えられたのでしょうか。

 彼は透明人間のまま、海の底で眠っています。





「お疲れ様でした! これで透明化は解除されました。また元通りの生活が送れます。世界の辻褄はあわせられているので、ご心配なく!」


「あの……少し質問したいんですがよろしいですか?」

「私共が答えられる範囲でしたらどうぞ!」



「世界の辻褄があうっていうのは……?」

「はい! それはですね、人体透明化実験が始まる前の段階に、この世界の設定がリセットされるということです。なので、私共の現場スタッフが透明化の液体をランダムに配布した日、正確には2016年7月1日までの世界の相互関係に設定が戻ります!」



「それは……例えばこの透明人間になった期間中に亡くなった人も生き返ったりする……ということでしょうか?」

「そうです!」



 女の子ははっきりとした声でそう答えてくれました。



「あ、でも」

 女の子は思い出したように一言付け加えました。




「この人体透明化実験中に知り合った人との関係もリセットされてしまいますので、ご注意ください」





 そう言われて初めて、自分の中の彼の記憶が曖昧になっていくのに気づきました。

 でもこれでいいのだと、それだけははっきりと理解することができました。




「それでは、御協力ありがとうございました! この透明化の記憶も、脳が壊れないようにゆっくりと削除されていくようになっております! これは謝礼です!」



 私は薄い封筒を一枚受け取りました。

 中を確認すると見たこともない額の小切手が入っていました。





 この女性の説明が全て本当だとしたら、彼は生き返っているということでしょう。

 彼と、彼の彼女は元の恋人同士のままになり、私の知らないところで二人はずっと笑いあって幸せに生きていくのでしょう。


 私はそれだけで幸せです。




 ビルを出ると、隣に男の子がいたことに気がつきました。

 おそらく彼も透明化の被験者の一人だったのでしょう。



「お姉さんも、ここで透明化の解除を?」

「はい……、そうです」





 彼の前髪は長く伸びていて、表情がよくわかりませんでした。

 それでも彼の声色はどこか懐かしく、聞くと涙が一粒こぼれました。







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