水族館でデート
今度の日曜日、グループで遊ぶことになった。俺と友達の省吾。幼馴染の由依、由依の友達の万里香ちゃん。俺は万里香ちゃん狙いだ。ちなみに省吾は、俺の幼馴染の由依が好みなんだと。あんな年中、部活で体育館を走り回ってるやつの、どこがいいんだか。
予定はこうだ。まず、水族館に行く。中は暗く、水槽が青く光っていて幻想的。そこでムードを作る。それから映画館へ。ここでカップルにわかれたいとこだ。で、マクドでもいいから夕食を一緒にとる。
ふふ、完璧だぜ、俺の万里香ちゃんゲット計画。万里香ちゃんは由依とちがって、おとなしくてかわいい。あのCMの白のポメラニアンみたいに、愛くるしい。腕を組んであるいたらと想像するだけで、顔がニヤけてくる。
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第一段階の水族館にて。早くも大失敗の兆し。俺のバカ。省吾の秘密の趣味が釣りだなんて知らなかったんだ。しかも、万里香ちゃんの実家が魚屋だったなんて・・
まず、大水槽に来たのが第一のつまづきだ。
「うわ~。イキが良くておいしそう」
そりゃ、生きてますからって、え?万里香ちゃん?
「このカレイ、砂にもぐってるけど、結構、大きそう。ううm。うちで売るなら一匹600円ってとこかな、どのくらいの値段で卸してくれるかね」
由依が困ったような顔で、”そうなの?”と、苦しそうに相槌を打つ。
「あ、ごめん。お魚が、商品にみえちゃってね。ほら、このホッケ、小さいけど、今年は不漁だから、開きにしたら400円ってとこかな。」
彼女は家族の仕事を大事にする優しい人なんだ。そう思う事にした。でも、万里香ちゃんの発言に、周囲がちょっと引いてる。だよね。こんな素敵な水槽の前で魚の値段の話しだ。
「ほら見て、鰯が群れの動きって綺麗だよ。ダイナミックだし。」
俺がなんとか、フォローをいれたが、
「イワシって、メザシでも売れない時もあるのよね。売れのこりの鰯を南蛮漬けにして売ったら、完売。結局、手間をかけないとおいしくいただけない魚なのかしら」
だー! 俺は万里香ちゃんを誤解してたっていうか、彼女の事知らなかっただけなんだろうな。省吾はどうだろう。由依と上手く喋ってるかな、と、万里香ちゃんの話しを熱心に聴いてる。お前、本当は魚屋か漁師希望か?
「ほら、ここにタコいるだろう?俺、タコ、釣った事あるんだ。けっこうしぶとい奴で、力がつよくてさ、最後はタモで引き上げた。」
省吾、秘密の趣味をあっさりばらした。
「カレイってさ、石狩湾のカレイは性格が悪いんだってさ。餌だけとって、はいサヨナラ って逃げてくらしい。俺もカレイは岸壁では、手のひらサイズしか釣ったことない。これだけとなると、さすがに舟釣りでないと無理かな~」
俺の作戦は第一段階で失敗だ。周りがカップルと親子連れの中での、二人の会話は、浮いてる。俺と由依は、二人を放置して外のイルカショーを見に行った。
外の水槽では、イルカが楽しそうに、ジャンプしたりボールで遊んだり。
ここで、由依がはじけた。
「おし、いけ、三回転。無理か。よしトスしてそこだジャンプ。ナイスジョブ!!」
由依は根っからの体育系だった。イルカのショーが、イルカのスポーツに見えたのだろう。
もう大興奮。子供っぽい顔で無邪気に笑う顔をみてると、昔の事を思い出す。よくこうやって、由依の家族と俺の家族、一緒に出掛けたっけ。今は、うちが引っ越したけど。由依とは高校が一緒になったので、また一緒につるむようになった。
「健之助、もっと楽しみなよ。やっとテストが終わって最初の日曜日じゃない。」
確かにそうだ。でも、いまさら由依とだと拍子抜けっていうか。あれ、そういえば。
「お前、部活の練習どうした?さぼったのか?」
由依は、ははと笑ってごまかした。
「いや、久しぶりに健之助と出かけるの、楽しみにしてたし...]
ちょっと口ごもった由依は、初々しいっていうの。部活一筋の由依には、休むのはちょっと勇気がいったろう。
「あのよー。前から言ってるけど、健之助はウチの犬の名前だ。俺の名前は、健一。ったく、ちゃんとおぼえろよ。ところでさ、今度は、由依が部活が休みの時に、一緒に遊びに行こう。」
幼馴染で遊んだ時と変わらない調子だけど、まあいいか。由依と俺は、リズムが合うっていうか気が合う。
でも、由依に他に恋人が出来たら、俺、泣いちゃうかもしれない。気分は兄貴だろうか。
「ほら、健之助、今度はアシカショーだよ。」
だから健一だって。まあいいか。はしゃぐ彼女を見ると、俺も楽しい。
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後日談・省吾と万里香ちゃんは、付き合う事になったらしい。話題は、魚の事だけだろう、
魚おたくカップルの誕生だ。
水曜日深夜(木曜日午前1時ごろ)投稿します。




