冒険者ギルドにて
家を出ると、近隣の住人と挨拶を交わしながら目的地へ向かう。
冒険者ギルドへは迷う事なく、一直線だ。
家業の関係上、上得意のお客様でもあるからだ。
歩いていくと、程なく建物が見えてくる。
いつ見ても、立派な建物だなぁ。
これは、この街ができた成り立ちに帰来する。
私が住まうこの街、ベッラはどこの国にも所属していないし、所属しているという、ちょっと特殊な扱いを受けている。
この街は、4つの国に囲まれた国境に位置しており、北東にカーマイル、北西にザボス、南東にデトラザ、南西にトルスがあり、
その4国が消極的な領有権を主張している。
何故、消極的なのか。
街の周囲には、鬱蒼と生い茂る森であるベッラーレ大森林、通称”魔の森”が広がっているからだ。
この森には、それこそ沢山の魔物や動植物の存在が確認されている。
必然的に、魔物を討伐することによって獲られる貴重な素材が手に入り易い。
占有できれば、これほど利益を出す場所もないのだが、手を出せば他の3国に攻められるのは必至。
ゆえに、現在の相身互いの状況が生まれた。
とはいえ、魔物由来の素材は垂涎物であるのは事実。
そこで4国は協定を取り決める。
それは極力素材の等分配を行うというものだ。
そして、その取り仕切りを冒険者ギルドに行わせるというものだ。
4国からの大量の資金援助もあり、現在ではカーマイルにあるギルド本部よりも大きくなってしまった。
昔、授業で習ったことをふと思い出してしまった。
うん、何か舞い上がってるのかも。
ボーッとしてても始まらない。
早速扉を開けて中へと入る。
相変わらず沢山の人がいる。
素材の買取カウンターと、依頼の受注を受けるカウンターは行列が出来ているようだ。
うへー、いずれあそこに並ぶんだー。
家業の手伝いで何度も来てはいたし、この光景を何度も見ていたはずだけど、今日は少し違って見えた。
さて、気を取り直して冒険者登録カウンターに向かう。
こちらは誰も人が並んでいなかった。
まぁ、朝から登録する必要も無いもんね。
カウンターには、この1ヶ月の手伝いで顔馴染みになった職員さんが座っていた。
「リフィさん、おはようございます。」
何か書類に目を通していた彼女は、顔を上げるとニコリと笑う。
「アリスさん、おはようございます。ようやく今日という日がやってきましたね。」
「うん、冒険者登録に来ました。」
「それじゃ、登録料として銀貨5枚ね。」
「はい、お願いします。」
銀貨を手渡すと、リフィさんは、先程まで手元で見ていた書類の内の一枚をカウンターの上に置く。
「それじゃ、まずこの登録書に記入してもらえる?ギルドの規約も書いてあるから、ちゃんと読んでね。」
私は、カウンターに置かれた登録書に目を通す。
規約といっても、特に難しい事は無い。
要は、身の丈にあった依頼を受け、完了したら依頼元に報告。
確認の印を貰ったら、ギルドに報告して報酬を貰いましょうとか、依頼を達成することができなかった場合、違約金として、達成報酬の半分くらい取られますとか、冒険者通しの諍いにはギルドは関与しませんよとか。
内容に納得すると、筆記事項に記入を始める。
名前、年齢、性別を書き込む。
特技の欄は特に書き込む必要は無いようだ。
「特技は書き込んであると、他の冒険者からパーティーに誘われやすいよ。能力を見て、バランスよく組むのが冒険を生き抜くコツだからね。」
「なるほどー。」
「ま、特技の欄は後から記入することも可能だよ。」
「そっかー。」
取り合えずサラさんに習ったから、剣技とだけ書いておこうかな。
記入が終わると、登録書をリフィさんに渡す。
リフィさんは、さっと確認すると
「うん、大丈夫そうね。」
登録書を仕舞うと、次は白いカードを取り出す。
「次はコレね。このカードが、あなたを冒険者だと証明してくれます。カードの真ん中を押さえてください。」
言われるままにカードの真ん中を押さえる。
すると、カードの色がみるみる内に変わっていく。
「おぉー。」
「これで、このカードはあなた専用の物になったわ。指離していいわよ。」
指を離し、色の変わったカードを見ると、私の名前、年齢、性別が記載されていた。
「依頼の受注や報告に、カードは必要だから、大切に保管しておいてね。再発行となると、ペナルティを含めて金貨一枚になっちゃうから。」
「高っ!」
「そう、とっても高いから気を付けて。」
私は、大切そうにカードを魔法の袋にしまう。
「これでひとまず登録は終わり。Eランクからのスタートになります。といっても、どんな依頼でも受ける事は出来るんだけどね。まずは、自分のランクにあった依頼を受ける事をオススメするわ。」
「うん、わかりました。」
遂に冒険者になったー!
思いの外、簡単になれちゃった。
心の声が駄々漏れだったのか、私の顔をみてリフィさんは笑う。
「それと、初心者講習は受ける?」
「そんなのあるんですか?」
「えぇ、冒険者としてやってくための注意事項と練習場での模擬戦闘を行うの。魔法適性なんかも見るわね。」
魔法というワードに思わず
「受けます!」
私は即答するのだった。
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