カーベラ観光
馬車は一路、カーマイルの首都へとむけて走り続け、大きな街にたどり着いた。
ここが、目的地なんだろうか?
ベッラに比べて、多少小さいくらい?
それほど栄えてるという印象はなかった。
しばらくすると、馬車を牽く馬はその歩みを止める。
「おし、降りろ。今日は久々にベッドで眠れるぞ。」
「もう、目的地に着いたの?」
「あくまで今日の目的地だな。まだ、首都に入るには時間がかかるからな。」
「それじゃ、ここはまだ首都じゃないんだね。」
「そういうことだ。ベッラからそんなに早く着くようなら大きなキャラバンのような形を作る行商は必要なくなるな。」
「そうかも。それで、ここは何て言うところなの?」
私は馬車を降りながらおじさんに問いかける。
降りようとする私に先に降りていたカイン君が手を差し出してくれたので、ありがたくその手をつかんで馬車から降りる。
また、おじさんがあまり良い顔をしないが、今回は何も言わなかった。
あくまで、私の補助をしただけだったからだと思う。
私が手を放すと、ニコリと笑ってすぐに離れていったし。
「まったく油断も隙もあったもんじゃないな。まぁ、それはいい。ああ、それでここはカーベラという街だな。建国の父であるカーマイル大帝の懐刀といわれたガルマ・カーベラが生まれた街としてもそれなりに知られているんじゃないか?」
「へぇ。あの軍師ガルマが生まれた街なんだ。」
そう言って私はおじさんの話に興味を示すと、してやったりといった感じにおじさんが喜色をその顔に浮かべる。
軍師ガルマといえば、歴史の教科書にも出てくるくらいの大人物だ。
かつてこの地を治めていた国を打倒する為のありとあらゆる策を産み出したとされている。
それに従い、カーマイル大帝はこの地を制した。
晩年は不遇な扱いを受けたとされているが、なんで盟友といえる部下にそんな仕打ちをしたのかは解らない。
「せっかくだ。この街を観光してみるのもいいかもしれないな。軍師ガルマゆかりの地というだけあって、色々見るところはあるからな。生誕の家なんかは国から重要な文化財扱いをされていたはずだし、カーマイル大帝とかつてこの地を治めていた国を打倒すると、誓いをたてたとされる丘なんかも近くにあるな。」
「わぁー、見てみたい!でも護衛の方はいいの?」
「街まで着いたから問題ないだろ。出発は明後日という話だしな。ひと声かけとけば大丈夫だ。て、ことなんだがお前さんはどうする?」
おじさんが後ろを振り向きながら声をかける。
そこにはナイトが暇そうな顔をしながら、馬車から降りてきたところだった。
ニャーと一鳴きして、トテトテと私の足元に近寄って来たので、その体を抱き上げる。
「ナイトも一緒に行こ!」
私がそういうと、身をよじって手の中から抜け出す。
行くつもりは無いという意思表示かと思ったが、そうではなかった。
足元から離れることが無かったからだ。
抱かれて移動するのが嫌だったのかな?
私がしゃがんで首もとを撫でると、ゴロゴロと鳴き気持ち良さそうにしている。
やがて、私が撫でるのを止めると、私の腕を伝っていつも通りの定位置であるフードにスッポリと入り込む。
そこから顔を出している様は、とても可愛らしい。
「さあ、それじゃもういいな。おおい、俺たちはちょっとその辺ブラついて来る。」
「あ、わっかりましたー!」
おじさんが商人のおじさんの下で下働きをしているであろう人に声をかけると元気な返事が返ってきた。
元気よく返事をするのは教えなんだと思う。
ハキハキとした挨拶はそれだけでその人の印象を良くするものだから。
親近感なんかを抱いてもらえれば、めっけ物というものだ。
それだけで商品が売りやすくなるだろうから。
おじさんの後をついて歩いていく。
ベッラより確かに活気は少ないかもしれないが、まったく人がいないというわけでもない。
それはそうだ。
それなりに大きな街のようだから。
流れる人達と同じ方向へと歩いていく。
この人達も、もしかしたら観光目的?
この街の主要産業は観光なのかもしれない。
しばらく行くと、柵で囲われたあばら家のような建物が見えてくる。
まさかとは思ったが、どうやらあれが軍師ガルマが育った家のようだ。
こう言っては何だが、かなりみすぼらしい。
何かが起きればすぐにでも崩れてしまいそうだ。
そんな家を大事にしているところから、軍師ガルマのこの国での人気を伺い知ることが出来る。
それなりの人が並んでおり、自分達の番を待って中に入る。
「うわー。」
予想以上に中もボロい。
どこを見ても、何が見どころなのか解らないくらいだ。いさ
当時の生活環境を知ることが出来るとしたって、これは見るべきところがある?
首を傾げる私におじさんが一言。
「拍子抜けか?まぁ、歴史的な遺産といったところでそんなものだ。金銭的な価値ある物がある訳ではないからな。だからこそ誰でも中まで見学が出来るわけだが。」
「そうなんだ。確かにこう言ったら怒られるかもだけど、別に普通の家だね。」
「それは仕方ないな。別にガルマは上流階級の生まれでは無いからな。むしろ育ちは悪い。だが、そんな環境でも努力をすることで英雄と称えられるくらいの人物になれる。それを見せたいんだろうな。」
「そう考えると凄い事かも。」
「俺からしたら、それなりに努力しただろうが、それよりも明らかにもって生まれた才能の気もするけどな。」
また、見も蓋もない事を言うものだ。
それではガルマを目標に据えて努力している人達が報われない。
そんなことを思っていたら、ナイトがフードの中でもぞもぞしている。
前足を伸ばして私の後頭部をペシペシ叩き、どうにも退屈をアピールしているみたいだ。
「さて、次だ。移動をしよう。」
それを知ってか知らずか、丁度いいタイミングでおじさんが移動を促してくる。
それに頷いて同意を示すと、私達は次の目的地へと移動を開始した。
観光です。
ようやくタイトル回収でしょうか?
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