説得します
「・・・何言ってんだ?」
「だから、冒険者になろうと思うの。」
どうやら心底思っているらしく、顔から滲み出る疑問符を消せていない様子だ。
まぁ、突拍子の無いことだとは、私も自覚してはいるけど。
「やめとけ。んなことよりサラ、お昼まだかー?」
「はーい、もう持ってくわねー。」
うわ、一言でバッサリですか!
そして、この話はお仕舞いとばかりに台所に声を掛ける。
台所からは、ほわりとしたサラさんの声が聞こえる。
「ねぇ、何やってもいいって言ったから、言ったのにバッサリ?」
「んな与太話、誰が信じるってんだよ。もっと建設的なこといってくれよ。」
「だって、前からやりたかったんだもん。」
「んな、膨れっ面すんな。」
はーっと、ため息をつくお兄ちゃん。
そこにサラさんが現れる。
「お待たせー。」
テーブルの上には、先ほどサラさんが調理していた野菜炒めとパンがおかれる。
「お、きたきた。いただきます。」
お兄ちゃんが、美味しそうに野菜炒めを頬張りだす。
温かな湯気を発する野菜炒めはとても美味しそうに見える。
「うん、上手い。」
笑顔で食事を進めるお兄ちゃんに、サラさんは水を渡すと椅子に座り、共に食事を開始する。
お兄ちゃんの表情を見て、サラさんも嬉しそうだ。
って一瞬にして、二人の世界を作るのはやめて欲しい。
「ねぇ、ちゃんと聞いてよ!」
「だから俺は冒険者は反対。」
むぅ、にべもない。
「まぁまぁ、あなた。どうしてなりたいか聞いてあげてもいいしゃない。」
「ん?まぁ、サラがそういうなら聞くだけ聞いてやるよ。」
サラさんの一言でお兄ちゃんの態度が軟化した。
ナイスサラさん!
「あのね、実は結構前から考えてたんだけどね。」
「ああ。」
「お父さんもお母さんも冒険者だったじゃん。私も二人みたいにいろんな所に行ってみたい。」
「んで、10年以上帰ってこない宿無しみたいな生活がしたいのか?」
「なっ!」
「だって、そうだろう。冒険者ギルドから何にも言ってきて無いから、死んだわけでは無いだろうけど、どこで何やってるか全くわかんないんだぞ。俺達の結婚式にだって顔すら出さない。どんな親だよ。」
確かにお父さんとは7歳から、お母さんは12歳から会ってない。
でも、その言い方は無いよ。
だって自分の親だよ。
寂しい気持ちが胸にこみ上げ、私は俯いてしまう。
ぐっとこぶしを握る。
「ねぇ、あなた。もう少し考えてあげる事はできないかしら。あなただってギルドに登録する冒険者の一人じゃない。」
「いや、俺は店で扱う薬草とかの採集物集めるのに、都合が良かったから登録してるだけで・・・」
そんな私を見て、可哀想に思ったのか、それとも何か思うところがあったのか、サラさんが助け舟をだす。
まさか、サラさんが私の側に回ると思ってなかったのか、驚いた表情を見せるお兄ちゃん。
何かを見透かすようなサラさんの目が、お兄ちゃんを見つめる。
「はぁ、わかった。とりあえず好きにすればいい。」
その一言を聞き、顔を上げる私。
「本当に?」
「あぁ。」
状況が一転した。
「やったー!」
思わず立ちあがりガッツポーズをとる。
これで冒険者になれる。
しかし、水を差す一言がお兄ちゃんから放たれる。
「俺はともかく、じい様の許可とれよ。」
「えぇーっ!」
「あたり前だろ。この家の家長は俺じゃ無くて、じい様なんだから。」
再び私は俯いてしまうのだった。
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