馬車駆ける道
なかば強引におじさんに馬車に引きずり込まれ、街を出てはや二日。
馬車に揺られる旅は、想像よりも快適さとは無縁の環境だった。
座るとダイレクトに振動が体に伝わり、馬車酔いを誘発してくる。
気持ちが悪くなったとしても、私一人の事情では止まってくれるはずもなく、とにかく我慢が必要だった。
腰もお尻も痛くなってくるし、もう最悪だよ!
街道を移動する分には、大した心配はないとおじさんが言っていたけど、大嘘もいいところだ。
食事にしても不満が残る。
勿論、御大層な物を望んでいる訳じゃないけど、カチカチの黒パンと塩漬けにされてそのままではしょっぱすぎる肉を渡されるだけだ。
コレでは、とてもじゃないけど喉を通っていかない。
カッブに魔法で水を出すと、その中に肉を入れて火の魔法で温める。
調味料も何もないから、味を整えようがない。
ただただ塩の味だけがするスープを作ると、そこにパンを浸してふやかしながら食べる。
ナイトに割り当てられた食事も同様であったため、私が食べるのと同じ様にしてあげると、喜んでいるように思えた。
おじさんはというと、私のようにちょっと細工をすることなく食べていた。
よくもあんなに硬いパンを、そのままで食べれるものだし、しょっぱすぎる肉を平気な顔して食べれるものだ。
「あぁ?んなもん、慣れだ慣れ。」
と言っていたけど、私のやっている食べ方を教えたら、毎回やるようになった。
準備は私の仕事だったけど。
どうにも、おじさんは火の魔法以外上手く使えないらしい。
よくそれで、私の魔法の勉強の面倒を見れると言ったものだ。
「それで、なかなか目的地を教えてくれないけど、どこに向かっているの?」
「ん?まだ気付いてなかったのか。」
「どういうこと?」
何か意図があったらしく、わざと教えてくれなかったようだ。
そうならそうと言えば良いのに。
もしかしたら、その意図を汲むことまでを見越していたのかな?
「その辺はまだまだ、経験不足だな。まず積み荷はなんだ?」
「確か塩をつかった商品だよね。塩自体もそうだし、この塩漬けにしたお肉とかもそう。」
「依頼者の商人や馬車の御者の格好は?」
「結構着込んでるよね。まだ、そんなに寒くもないのに。」
「おう、そこまではわかってるんだな。それなら、どこに向かっているのか検討つかないか?」
「うーん、ちょっとまって。」
塩をメインにした商品を多く運ぶって言うことは、塩があまり取れない地域って事だよね。
それで、着込んでるということは、これからもっと寒い場所に向かっているということ。
それから導き出される答えは・・・
「・・・カーマイル?」
「そういうことだ。北にあるカーマイルはベッラよりも寒いな。それに、あの国は山に邪魔をされて、まともに海に出れないからな。これだけ簡単な問題も解けないようじゃ、この先思いやられるな。」
「だって・・・」
「冒険者として生きていくって決めたなら、常に頭を使うようにしとかないとな。周りへの警戒も、簡単に解いたらダメだ。普段から色々な所に注意を払うくらいしとかないと、いざというとき何も出来ないまま最悪死ぬな。」
「うぅ・・・」
「別にお前が憎くてやってる訳じゃねぇ。ただ、心構えがまだまだなっちゃいねぇ。油断して気を抜いた瞬間、首と胴が離れてるなんて話しはいくらでも転がってるからな。」
おじさんは、冒険者としての大事な事を教えてくれていたようだ。
とはいえ、このやり方はちょっと意地悪だと思うけど。
何も分からない内に馬車に放り込まれ、気づけば旅の空なのだ。
家族の誰もが知っている話しなだけに、むしろ意地が悪いというものだ。
少し落ち込む私を励ますように、ナイトが頭を刷り寄せる。
馬車の中では、いつもの定位置であるフードの中よりも、床の上の方が居心地が良かったらしく、隅の方でいつも寝ている。
そんなナイトを抱き上げると膝の上に載せて、背中を撫でる。
「ったく。ナイトはアリスに甘いな。」
おじさんが小さく言葉をこぼす。
おじさんはナイトに対して、一人の人と同じ様な扱いをしている。
いや、むしろもっと上位の存在のような扱いかな?
「ニャー」とナイトが一鳴きすると、
「あぁ、はいはい。好きにすりゃ、いいわ。」
と、こんな調子だ。
全くもって不思議な話しだ。
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