旅だち
しばらく休んで、夕食の用意をいつものように手伝う。
食事の準備を終え、配膳を済ませる頃おじさんが帰ってきた。
適当に座ると、食事には手をつけないでおとなしく待っている。
待ち時間もナイトが相手をしているためか、それほど退屈している様子は見られなかった。
やがて、お兄ちゃんとお爺ちゃんが仕事を片付け終わったらしく居間に五人が揃う。
「さて、食事にしようかの。」
「そうだな。おじさんも待たせちまったみたいだし。」
「あ?仕事してたんだ。俺のことなんぞ気にせんでもいい。」
「フフフ・・・今日はいつも以上に騒がしい食事になりそうですね。」
「それじゃ、いただきまーす。」
和気あいあいと食事の時間は進む。
今回はおじさんがいることもあって、話題の中心は冒険者としてどんな依頼をこなしてきたか、ようはおじさんの武勇伝を聞くといったものだった。
サラさんもお酒を勧めるものだから、おじさんも調子よく話を進めていく。
何度か聞いたこともある話がまじっていたのか、時折お兄ちゃんが苦笑いを浮かべていたけども。
食事が終わるといつも通りサラさんがお茶を淹れてくれたのでズズッと一啜り。
「それで爺さん、俺に用って一体なんだ?急用があるとか言うから飛んできたけどもよ。」
「フォフォフォ・・・それはな、そろそろアリスも外の世界を見てもいいかと思っての。その同道を頼みたいんじゃがの。」
「おい、じい様。アリスにはまだ早い!」
テーブルを叩き、立ち上がるとお爺ちゃんに対して反対意見を言うお兄ちゃん。
言葉に怒気が含まれていたように感じた。
「あなた、そこで怒鳴っても何も話が進まないわ。まずはお爺様のお話を聞きましょう。」
そんなお兄ちゃんをサラさんが制する。
すると軽い舌打ちをしながら、お兄ちゃんが座る。
「いや、ウィルの言い分もよくわかる。まだまだアリスは実力が足りない。とはいえ、これだけできる新人もいないがな。」
お酒も回って気分良さそうに笑いながらおじさんが言う。
「どういうことなの?」
降ってわいたような話に戸惑う私。
いずれは旅に出るつもりだったけど、こんな風に話が出てくるとは思ってもみなかったからだ。
「アリスを手元に置いておきたいのはよく分かるが、そろそろ旅立つのに良い時期じゃて。」
「でもまだ魔法の修練は終わってない。そんなんで旅に出すわけには行かない。」
「相変わらず、妹思いだな。」
「おじさん、茶化さないでくれよ。俺は事実を言ってるだけだよ。せめてそれまで待てないのかよ。」
「修練ならジャネルに見てもらえばええわい。それに最終的に決めるのはアリスじゃ。」
お爺ちゃんが言うと、四人の視線が私に向けられる。
どのような答えを出すのかと目で訴えてきている。
「えーっと・・・叶うなら旅に行ってみたいなぁとは思うけど・・・」
「思うけど?」
私が言葉に詰まると、サラさんが続きを促す。
「いいのかな・・・?」
「ダメだ!まだ早い。」
「ダメじゃねぇさ。どういう風に自分の道を選ぶかは自分次第だ。何せそれが冒険者ってもんだからな。」
「・・・私は旅に出てみたい!」
「勝手にしろ!」
私が気持ちを素直に話すと、席を立って部屋を出てってしまうお兄ちゃん。
そして、それを追うようにサラさんも席を立つ。
私の肩をポンッと軽く叩き、
「大丈夫だからね。」
と言って、部屋から出てってしまう。
「アリス、お前大切にされてんな。ウィルの奴も分かってはいるんだよ。俺が今ここにいる時点でな。」
「そういうことじゃな。それでジャネル、いつ頃出発するんじゃ?」
「そうさな・・・アリス次第なとこもあるが、何時でもいいなら明日の朝で良いんじゃないか?」
「それはまた急じゃな。」
「思い付いたら即断即決が信条だからな。アリスもそれでいいな。分かったら、とっとと寝ちまえ。」
「えっ?でも・・・」
「でももへったくれもねぇよ。もう決まった話だ。」
少々、いやかなり強引に話が決まってしまう。
こうなったらテコでも譲らないのは、昔から変わっていないようだ。
何を言っても意見を変えるつもりはないようだ。
もう覚悟を決めるしかないようだ。
その後、部屋で休む前にお兄ちゃんの部屋に向かうもあってもらえなかった。
サラさんが言うには、もう寝てしまったとのこと。
気持ちが沈んだまま、眠りにつくことになった。
朝起きると、もぞもぞとベッドから這い出し着替えを済ます。
朝はいつも苦手だが、今日は特に気が重い。
せっかく旅に出ることになったとはいえ、お兄ちゃんには猛反対をくらってしまっていたから、それも仕方がないのかもしれない。
準備を整え、部屋を後にする。
階段を下りると、おじさんが待っていた。
「あ、おじさんおはよう。」
「おう、おはよう。準備は・・・良さそうだな。んじゃ行くか。」
「え、もう?」
「思い付いたら即断即決だって言っただろ?」
ニヤリと笑うおじさん。
「こっちも準備は済んでるからな。今朝ギルドで行商の護衛の依頼を受けてきといてある。」
そう言って追い出すように私を家から連れ出してしまう。
まだ、お兄ちゃんと話してない。
ギクシャクしたまま行くのはやだよ。
そう考え、抵抗するものの、びくともしない。
そして気付いたら私は馬車の中に座っていた。
どんだけ抵抗しても意味がなかった。
呆けた状態で馬車の幌を見つめる。
すでに馬車は街の外を移動しており、いつの間にかついてきていたナイトを帰すことも叶わないようだ。
そんな私の膝の上に、おじさんが本を置く。
キッと睨み付けると、ニヤリと笑い返してくる。
「そう怒るな。そいつでも読んで気でもまぎらわせたらどうだ?」
「もう!そんなんじゃ気なんかまぎれないよ!」
私は本を掴むと、おじさんを叩く。
それすらも可笑しいのか、おじさんの笑みは消えない。
「いいのか?お前の兄貴のプレゼントをそんな杜撰に扱って。」
「何それ!」
そう言いながらも、本を見てみる。
それは魔導書だった。
「それ読んで、さっさとまともに魔法を使えるようになれとさ。」
どうやら、お兄ちゃんの言っていた上級編というやつらしい。
ギュッと魔導書を抱きしめる。
自然と涙がこぼれてしまう。
「さて、それじゃ楽しい冒険の始まりだ。いや、俺と一緒だから旅行みたいなもんかもな。」
こうして私の旅が始まった。
強引な流れですが、いい加減旅に出てくれないと話が進まないので。
あと、ナイトはついてきます。
困ったもんです。
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