豪気な男
嫌な空気はなくなったが、針のむしろのような状況になってしまった。
おじさんは気にしていないようだが、私達3人にとってこの状況は居心地が悪い。
結局、手早く残りを食べて店を出ることにした。
もう店を出ようと、おじさんを促す。
「あ?もうか?まだ飲み足りねーよ。」
「じゃあ、おじさんは飲んでていいよ。私達は先に帰るね。」
「つれねーな。仕方ない、行くか。おい、勘定ここに置いてくぞ。」
と言って懐から金貨を一つ取り出し、テーブルの上へ。
いくらなんでも大きすぎる額だ。
私達、四人と一匹で食べた金額を考えても到底いかないはず。
「おう、周りで見てるお前ら。邪魔して悪かったな。お詫びって訳じゃないがお前らの分も出しといてやる。好きなだけ飲み食いしてから帰れ!」
そう言って席を立つおじさん。
周りでこちらを見ていた人達は、拍手喝采の大喜びだ。
それはそうだ。
まだまだランクの下に位置するであろう人達が数多く見えた。
彼らのテーブルの上に載る料理はとても乏しく、あれだけではお腹一杯とはほど遠いだろう。
あわててウェイターが駆け寄り金貨を確認すると、おじさんに恭しく頭を下げる。
それがきっかけとなったのだろうか、遠慮のない注文が店中から飛び出す。
「ジャネルさん、太っ腹だわ。」
「でもこれで俺らに向いてた注目は消えたな。」
ガルシアさんが呆れた声を出すと、イタズラでも成功したような意地の悪い笑みを浮かべる。
「ま、いいんじゃね?周りの連中、大したもん食えてなかったみたいだしな。たまにゃ腹一杯好きなもん食ったって罰は当たりゃしねーよ。」
店内にいた人達の意識がこちらから離れているうちに私達は外へと出る。
歩き始めて少しするとおじさんが、
「あ、やべっ、そういやちょっと野暮用あったんだ。悪いが二人ともアリス送ってやってくんねーか?」
「全然オッケーですよ。任せといてください。」
「うん、アリス、行こ。」
二人に私を家まで送るように頼む。
それに二人は真剣な表情で了承する。
「別に一人で帰れるよ?ナイトもいるし。」
私に同意するように「ニャー」と定位置から鳴き声。
まだまだ太陽の位置も高く、周囲は明るい。
こんな昼日中に何を警戒してるんだろう。
心配性にもほどがあると思うんだよね。
「まぁ、たまにはいいんじゃねえか?のんびり話でもしながら行こうや。買いたい物もあったから丁度いいわ。」
「アリス、嫌?」
いや、嫌な訳じゃないんだけど。
ま、いっか・・・
「じゃな。夕飯までには戻る。」
そう言っておじさんは、来た道を戻っていく。
その様子を見届けると、
「行こ。」
二人を伴って帰路についた。
エルさんは私の隣に、ガルシアさんは後ろからついてくるように移動する。
「それにしても野暮用ってなんなのかな?」
「さぁ?」
「それを聞くってことの方が野暮ってもんだぜ。」
「うーん、そうかも。それにおじさん何考えてるか分かんないとき結構あるしなぁ。」
「それより、ジャネル様、好きな物、何?」
話の流れを変えるようにエルさんが訊ねてくる。
本人がいたらなかなか聞けないものね。
「うーん、お酒は好きだよ。昔からよく飲んでたし。」
「へー、さっきも飲んでたもんな。」
「そう・・・」
「何だったら今度一緒に飲みに行けばいいんじゃない?」
「なっ、私がジャネル様と!確かに行ってみたいけど私なんかとじゃきっと楽しめないわ。何せ私そんなに話するの得意じゃないし。でも、一緒に行ったとして仮に楽しい思いをさせることがかなったら?そうなったとしたら、もしそうなったとしたら私もきっと楽しいわ。それに、そうなれば二度三度とご一緒する機会がまた来るかも。もしそうなったら・・・」
私の言葉が引き金となって、エルさんの変なスイッチが入ってしまったらしく、いつもとは違う、それこそ立板に水といわんばかりに流れるように話出す。
顔が真っ赤なとこを見ると、まさに乙女だ。
私より年上なのに。
そうこうしているうちに、家に着く。
まだエルさんは一人で話続けている。
面白いくらい周りが見えていないようだ。
「とりあえず着いたな。さすがにエルの奴がこんなんじゃ心配だから、送ってくる。買い物はまただな。じゃな。」
そうガルシアさんが言うと、エルさんの肩を後ろから押すようにして、家の前から離れていく。
「ガルシアさん、またお願いします。」
「おう、ゆっくり休めよー。」
私の声に片腕を上げて応えてくれる。
「ただいまー。」
私は家の扉を開き、中に入った。
※ ※ ※
「しっかし、アリスの奴本当に気付かなかったのか?」
アリスを家に送ったあと、冒険者ギルドに戻る道すがら、正気に戻ったエルに話しかける。
「たぶん。」
「だよなぁ。店から出たとき、変な連中が店からつけて来てたけど、気付かんもんかね?」
「うーん、仕方ない?」
「そうだなぁ、いいとこの嬢ちゃんだもんな。良くも悪くも警戒心が足りないわな。」
先程食事を終えたあと、妙な連中がつけてきていた。
それにいち早く気付いたジャネルさんは、野暮用と言って、俺らから離れた。
明らかに狙いはジャネルさんの懐の中だもんな。
「それにしても、ブラッドベア、驚いた。」
「そうだな。まさかあんなとこで出てくるとは思わなんだ。」
「うん、お陰で、ジャネル様と、会えた。」
「しかもアリスに聞こえないように、レギンさん、手加減して戦えとか言ってきて、無茶ぶりだもんな。」
さすがにジャネルさんのように飛び蹴り一発では無理だけど、ブラッドベアならアリス以外の皆倒せただろう。
何せアリス以外の全員がAランクの冒険者なのだから。
聞いてこないから、教えてないけど。
「うん。ティムさん、名演技。言い訳は、苦しかったけど。」
「まぁ、多少なりとも緊張感とか警戒感が身に付きゃいいんだけどな。」
その後も他愛ない話をしながら、ブラブラと歩いていくのだった。
この世界の貨幣価値なのですが、
金貨→百万円
銀貨→一万円
銅貨→百円
銭貨→一円
程度と考えてもらえればいいのかな?
ちなみにおじさんは太っ腹というよりは考えなしな方が正解です。
男気のある格好いい人なんですけどね。
ブックマークや評価を頂けると、物凄くモチベーションが上がります。
また、様々な感想を頂けるとありがたいです。
今後ともお付きあいのほど、よろしくお願いします。