真相
ギルドを出たはいいもののどこへ向かおうか?
いつもであれば、エルさんやリフィさんと行くため、少し小洒落た感じのお店に行くんだけども。
小洒落ているだけあって、食事の量は少なめだし、お客さんも女性が多い。
でも今日は、おじさんとガルシアさんも一緒に行くわけだし。
もう少し雑多な感じの方がいいのかな?
そんな風に考え、今回は冒険者ギルドのすぐ横に併設されている冒険者ギルド直営の店“五人目の賢人”という名前の店に向かうことにする。
この地域での昔からある伝承から取った名前のようだが詳しい話はしらない。
冒険者ギルド直営だけあって、冒険者の資格を持つ人間に対してかなり優遇してくれる。
食事の量、質ともにそれなりのレベルがあるし値段も安い。
無難と言えば無難な選択だけど、間違いもないだろうから。
「今日はここでいい?」
何故か後ろからついてくるだけの皆に話しかける。
どこか希望するお店は無いのだろうか?
「俺は酒があればどこでもいいぞ。」
「うん、私も、構わない。」
「安いし、いいんじゃねーか?俺もいつもここだし。」
3人とも店にそれほどこだわりも無いようなのでここに決めてしまう。
店内は広い。
食事時だということもあって賑わっているのが見てとれる。
昼間だというのにもうお酒を飲んでいる人もいる。
冒険者の需要が比較的高い街であることもあって、冒険者の数も多い。
相対的に利用者の数も多くなる。
それに冒険者といっても皆が皆良い生活をしている訳じゃない。
ランクの低い冒険者になると、日銭を稼いでのその日暮らしのような者も多い。
そんな冒険者の救済の意味合いでも、このお店は重要な存在だ。
私達は空いている席に着く。
さて何を注文しようか?
あまり来ることがないため、何が良いのだろうとメニューとにらめっこだ。
食用とされる魔物の肉などを使った商品は比較的安いが、魚などの海産物を扱ったものは高い。
海が近くに無いから仕方ないか。
それでも周辺の別の店に比べればかなりお得な値段なんだけど。
どうしようかと考えていると、フードがもぞもぞと動く。
すぐに気づいた私はフードの中を覗きこむ。
すると先程まで眠っていたナイトと目が合う。
「ナイト、大丈夫?」
私がそう訊ねると「ニャー」と一鳴き。
そしてフードからスルスルと出てきて、私の膝の
上に座る。
「よう、起きたか。フードの中に何かいると思ってたが、まさか猫がいるとは思わなかったな。」
姿を見せていなかったはずのナイトの存在に気付いていたようだ。
「アリス、何でもいいぞ。好きなもん頼め。そいつの分もな。ついでにお前らも何かの縁だ、好きなもん食っていいぞ。」
おじさんが太っ腹なことを言い出す。
その言葉に、既に何を頼むか決めていたらしく、メニューを見ることすらしなかったガルシアさんがどうしようかと真剣に考えだしていた。
「アリス、私、あなたと同じでいい。」
同じくメニューを見ていないエルさんの視線はおじさんの方を向いていた。
いや、分かりやすいね。
その後悩みながらも何を頼むか決めると手を上げて、ウェイターを呼び注文を済ませる。
私とエルさんはミートソースのパスタを、ガルシアさんはお店でも人気のラビットホーンの煮込みを頼んだ。
ナイトには一角牛という魔物のステーキだ。
そしておじさんはエールとそれにあうであろう揚げ物の盛り合わせを頼んでいた。
「よーし、揃ったな。」
「うん、それじゃいただきます。」
それぞれおじさんに「いただきます。」と告げると食事を開始する。
一口入れてみると、自分の選択が間違いじゃなかったと自然と笑顔になる。
テーブルの下ではナイトが夢中になってお肉を食べている。
さすがにテーブルの上でというわけにもいかなかったので、床にステーキの載ったお皿を置いてあげたのだ。
「それにしても、おじさんタイミングよくあんなとこにいたね。」
「あー、ありゃたまたまだな。街に向かってたんだがなんかやってる音が聞こえたんでな。なんとなく気になって見に行ったんだよ。」
エールをグビリとやりながら、事も無げに言う。
でも、その偶然に助けられたのも事実。
「でも、そのたまたまのお陰で助かったんだもんね。ありがとう、おじさん。」
「ジャネル様、本当に、助かりました。」
「そう、本当にありがとうございます。」
私の言葉に追従するようにエルさんとガルシアさんもお礼を言う。
ガルシアさん、口にいっぱいに入ってるから色々飛んでるよ!
「たまたまだってんだろ。そんなにかしこまるようなもんじゃないぞ。」
「そうは言っても助けて貰ったのは事実なんで。いやー、俺達運良かったんだなー。」
「でも何でそんなランクの高い魔物が出たんだろ?最近魔物の出現頻度も上がっているって聞いたし。」
「うん、不思議。森の生態系、崩れた?」
「魔物が大挙して襲ってくるとかないよな?たまに聞くだろ?」
あんな強い魔物が大挙して襲ってこれば、いくら冒険者が多いからといっても、ひとたまりもないだろう。
ガルシアさんの言葉を聞いてブルリと体が震える気がした。
「アリス、大丈夫、そう起こらない。ガルシア!」
エルさんが励ましてくれる。
そして珍しく声を荒げながらガルシアさんの名前を呼ぶ。
すると、ばつが悪そうな顔をしながら
「すまんな、アリス。今日えらい目に遭ったばっかだってんのに。」
「ううん、平気。」
ちょっと場の空気が悪くなる。
そんな空気を吹き飛ばすかのように、
「あー、ありゃ、俺のせいかもな。」
意外過ぎる一言がおじさんからとびだす。
思わずおじさんの顔をまじまじと見てしまう。
私だけじゃなく、エルさんとガルシアさんも同じアクションを起こしていた。
「いやー、アリス。お前の爺さんに手紙貰ってな。急用だなんて言うもんだから森を突っ切ってきたんだよ。まー、魔物が逃げる逃げる。もちろん向かってきたのは蹴散らしてやったがな。」
そう言って大笑いをする。
あの魔物がわんさかいるっていう森の中を抜けてきた?
街道も使わずに?
ギョッとしたのは私だけじゃない。
おじさんの声が大きかったからか、森を突っ切ってきた発言が聞こえたらしく、お店中のお客さん達も驚いた表情でこちらを見ていた。
唯一気にしていなかったのはステーキに夢中になっているナイトだけだった。
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