危機
戦いは続く。
私がウェアラットの正面で剣を振るい、斬り倒す。
そんな私に額についたドリル状の角で突き刺そうとラビットホーンが飛びかかる。
そのラビットホーンをティムさんが蹴り飛ばす。蹴り飛ばされたラビットホーンに向かい、エルさんが氷の礫を放ち、命を奪う。
相当の助けられながらではあるが、三人で互いを補いながら、魔物を退治していく。
粗方倒せただろうか?
辺りは事切れた魔物の死骸で溢れていた。
思いの外数が多かった。
通常の討伐依頼で請け負うレベルじゃないのは間違いない。
でも、また油断して不意討ちを食らうような真似は避けなくてはならない。
よくよく考えれば、サラさんからこれでもかってくらい言われていたのを思い出す。
周囲の警戒を怠る事は、自分のみならず周りの仲間をも危険に巻き込む絶対にやってはいけない行為だと。
そして、それは初心者だからではすまない事が往々にしてあると。
警戒をとかないようにしながらも、私はずーっと気になっている方へ目を向ける。
そこは死闘が続いていた。
レギンさんとガルシアさんの二人がかりで、少ない隙を上手くつきながら攻撃をするが、攻めてにかけるとでもいうのだろうか。
ティムさんに視線を向けると、
「ブラッドベアってやつはな、再生能力が他の魔物と比べて段違いなんだよ。攻撃を受けた端から回復が始まりやがる。それに体表から血を流す程に強くなるんだよ。流した血を毛皮が吸ってな、次第に硬化していく。そのうち刃も通らんくなるほどにな。そんな変わった特性がブラッドベアなんていう名前の所以だな。」
「でも、それじゃ倒せないんじゃ?」
「いや、結局魔物と言えど血液を持った動物ともいえる。そんな動物が体内に保持してなけりゃいけない血液量ってのは決まってるもんだ。そんなら?長期戦覚悟で血を流し続けさせればいい。」
もしかしたらそれで倒せるかもしれない。
でも、それでも倒すことができなかったら?
私が心配そうに二人を見やると、
「アリス、大丈夫。レギンにもしもは無い。」
「エルの言う通りだ。これまでもこの手で何体か倒してきてるしな。」
二人が私を励ましてくれる。
それでも、私の不安を拭うことは出来なかった。
どうにも胸騒ぎがするのだ。
「まぁ、むこうはとりあえず任せといて、こっちはこっちの仕事をこなすだけだ。どうやらまだいるみたいだしなって・・・マジかよ。」
確かに、ちらほらと魔物が顔を出してきている。
魔物の追加なんて望んでないというのに。
再び剣を構えると、魔物と対峙する。
その魔物の中に見たくはない魔物がいる。
ブラッドベアだ。
まだ、こちらの様子を窺っている状態だ。
だが、確実にこの場が死地とかそうとしているのは誰の目にも明らかだ。
「こいつは不味いな。」
「確かに危険。」
二人は私を見ると、何か覚悟を決めたようだ。
「アリス、離脱準備。」
「えっ。」
「まぁ、さすがに期待の新人とはいえこれは荷が重いって訳だな。うちの大将もむこうにかかりっきりで動けないしな。ここは俺らで食い止めるしかないだろ。」
「でも・・・」
「なに、こんなとこで死ぬ気はないぞ。まだ使ってない隠し玉ってのを使うだけだ。エルのやつもまだ上位魔法なんかも使ってないしな。ささっと街まで逃げて応援読んできてくれりゃ御の字ってやつだ。」
「なんで、私も戦うよ。」
「アリス、邪魔。」
「悪いがお嬢ちゃん、足手まといだ。フォローなんてできる状況じゃなくなっちまったんだ。」
エルさんとティムさんが、突き放すような言葉を吐く。
それでも、私は二人の気持ちが分かってしまっただけに動けないでいた。
この依頼は私も含めて5人で受けた依頼だ。
最後まで付き合うのが筋ってもんじゃないんだろうか?
そんな風に考えを逡巡させていると、私達の後方から声がかかる。
「お前ら、そこで何やってんだ?」
それはあまりに状況を理解出来てない言葉だ。
でもこの声、どこかで聞いたことがある。
私は思わず振り返る。
そこには見覚えのある壮年の男が立っていた。
私は叫ぶ。
「おじさん!助けて!」
謎のおじさん出てきました。
いや、ご都合主義といってしまえばそうなってしまいますね。
ブックマークや評価を頂けると、物凄くモチベーションが上がります。
また、様々な感想を頂けるとありがたいです。
今後ともお付きあいのほど、よろしくお願いします。




